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オフの日というのは時間が溶ける

外の明るさに気を抜いているうちにBGMみたいに流していた賑やかなバラエティ番組はニュースへ変わっていた。洗濯物を畳み掛けのままソファに放り出して、食器の片付けに重い腰を上げる。面倒だと思いつつ二人分に増えたこの手間は嫌いじゃなかった




的野「うわ、これ美羽好きそう。頑張ったら私でもつくれるかな」




スマホを片手に呟きながら作りもしない料理動画を無意識に保存する。ほら、一人だとこんな変なことまで考えてしまう。早く帰ってきてよ、私が奇行に走る前に




ガチャ____

的野「え?」





反射的に時計を見る。確かに早く帰ってきてほしいとは思ったけどこの時間に帰ってくる理由には心当たりがない。リハーサルが夕方に終わるなんてこと今まであっただろうか

小さく首を傾げながらリビングを出る

キャップを深く被ったまま壁に寄りかかっていたのはやっぱり美羽だった





的野「おかえり、早かったね」

村山「帰されたぁ.....」

的野「帰された?」





聞こえた言葉のまま脳が意味を探そうとする。スケジュール変更?それとも何かトラブルでもあったのか?頭に浮かぶのはそんな程度のことばかりで、答え合わせをしようと美羽を見ると壁へついていた手がずるりと滑った

壁に体重を預けたままその場へしゃがみ込もうとする身体を慌てて支える。そうでもしなければそのまま床に座り込んでしまいそうだったから





的野「え、ちょっと....熱ッ」





服の上からでも感じる尋常じゃない高熱で今までの点と点が全部繋がる。そっとキャップを外すと、熱に潤んだ瞳は焦点が定まりきっていなかった





村山「だっこ.....っ」

的野「いつから体調悪かったの?」

村山「疲れてるだけ....」

的野「いや、だってお熱高いよ?美羽ちゃん」

村山「いーの....」

的野「よくないわ、」






もう何をしても抵抗しなさそうな美羽をベッドに下ろす。それで、どうしよう。何からやればいいんやっけ。物がなければ始めようがない





的野「とりあえず着替えて。タオル濡らしてくるけん、そしたら身体拭こう」

村山「ん....」





タオルを濡らして軽く絞る。幸いなことに統一感の欠片もない家で、こういうときに使うものだけは同じ場所に押し込められていた。洗面台の下の収納を開ければ、体温計・冷えピタ・解熱剤。今日のために用意していたんじゃないかってくらい全部そこに揃っている





的野「美羽、入るよ」





ベッドの上では美羽が着替えの途中で止まっていた。上だけは何とか脱げたらしい





的野「なんでそこで止まると?治らんくなるけんはよ着替えて」

村山「みおやって」

的野「めんどくさ....しょうがないなぁ」





腕を拭いて、Tシャツの下から手を入れて背中、タオルがぬるくなる度に冷たい面を探して、一通り拭き終わる頃には美羽はもうぐったりしていた





的野「お腹すいてる?」

村山「んーん....」

的野「今食べたらやばい?」

村山「....うん」

的野「じゃあ寝よっか」

村山「ずっとここいてね....?」

的野「美羽が寝るまでいる」

村山「ずっと....」

的野「ん、わかった」





寝息が落ち着いてきたら一度キッチンへ行こう。お粥でも作っておけば目を覚ましたときに少しは食べられるかもしれない。そんな安易な考えを見透かしたみたいに布団の隙間から手だけが伸びてきた

探るように彷徨った指先が私の手を見つける。そして当の本人は目を瞑ったままその手をぎゅっと握った。きっと眠ってもそのままなんだろうな





BACKS LIVEが決まってからというもの、美羽はずっと張り詰めていたような気がする。夜中隣で眠っていると思ったら突然むくりと起き上がってスマホにメモを打ち込んでることもあったっけ

「今日4期ちゃんと沢山話せた!」なんて嬉しそうに帰ってきた日は少し冷たく当たってしまったけど、どれも全部美羽なりのセンターとしての在り方で、あの細い肩に乗った〝座長:村山美羽〟の文字の重さは私には計り知れない

今日だって「帰された」って言うくらいだから、きっと〝大丈夫です〟とか〝やれます〟とか言って簡単には頷かなかったに違いない。だから今こうして布団の中で小さくなって私の手を握っている姿がたまらなく愛おしかった






村山「みおー....」

的野「どした?」

村山「おなかすいた」

的野「何なら食べれる?」

村山「おかゆ」

的野「じゃあ作ってくるわ」





軽く伸びをしてベッドから立ち上がるとさっきまで布団にくるまっていた美羽までもぞもぞと身体を起こした





的野「できたら持ってくるけんそれまで横なっとって」

村山「あっちで食べる....」

的野「あっち?」

村山「リビング....」

的野「いやいや」





そんなしんどそうな顔で言われても。けど美羽は納得していないらしかった





的野「すぐ戻ってくるよ」

村山「うん....」

的野「五分くらい」

村山「うん....」

的野「やだ?」

村山「やだ」

的野「....ソファで大人しくしとってよ?」

村山「....はぁい」





高校の保健だったか社会だったかで〝退行〟というのを習った記憶がある。自立した大人でも強いストレスやプレッシャーに晒されたとき無意識に自分を守ろうと幼子のような振る舞いを見せることがあるらしい。今の美羽がその状態なのだとしたら____





村山「みおー....」

的野「ごめん今行く。もうちょいまって」



的野「はい、どーぞ」
「熱いけん気をつけて食べてよ」

村山「食べさせてくれないの?」

的野「食べさせてほしい?」

村山「....ん、」

的野「あーんして」

村山「あー.....ん、」

的野「食べれる?」

村山「おいしい」





途中で「もういい」と言われるかと思ったけど美羽は意外と素直に食べ続けてくれた。器の底が見えてくる頃にはだいぶウトウトしてたけど






的野「美羽ちゃん、寝ちゃう前にお薬飲もっか」

村山「ん、」





ぬるくした水をこくり、と口に含んで錠剤を片手に取る

熱でぼんやりしてる今それは難易度高くないか、とは思ったときにはもう遅かった。案の定ほんの少しだけ開いた口から行き場を失った水が美羽の口元も部屋着も全部濡らしていく





的野「あー、ばか。そげん飲み方したら零れるに決まっとうやろ」

村山「....ごめん」

的野「あ....違う違う、怒ってないよ」





「あとで着替えよ、ね?」と柔らかい髪をくしゃりと撫でると錠剤を持ったままの手がすとんと落ちた





的野「薬先入れな?」

村山「うん、」





今度はちゃんと喉が動いたのを確認してぽんぽんと頭を撫でる





的野「喉変な感じせん?」

村山「....ん、」

的野「よくできました」

村山「ねむい...」

的野「お布団いこっか」

村山「みお....?」

的野「ん?」

村山「....だいすき」

的野「美青も美羽のこと大好き」





それから一日が終わるまで、私は気持ち悪いくらいに美羽を愛でた。きっとこの熱が下がれば美羽はまた頼ってくれなくなるから。せめて私の前くらいは子供みたいに甘えていいんだよってことは覚えていてほしかった





Fin.





村山さんの後輩への接し方に藤吉さんを感じることがありとても萌えています。そしてそれを更に遡るとその光源って渡邉理佐さんなんですね。このような文化はぜひマモリビトしていってほしいなぁと思う今日この頃です