「さて、竹林に着いたわけですが・・・妹紅がいないですね」
慧音は辺りを探った。俺も周囲を見回したが目の前に鬱蒼と茂る竹薮があるだけで
誰もいるような気配はない。時間的にはそろそろ日が傾きかけている。夕方というわけでもないだろうが
午後3時くらいだろうか・・・小春日和の陽気に眠気がくる
「もしかしたら、誰か他の人間を案内しているのかもしれないですね、少し待ちましょう」
そう言って慧音は近くにあった手ごろな岩の上に腰掛けた。
・・・・上白沢慧音・・・満月の夜には白沢に変化し、歴史を創ると聞くがこうやってみると
ごくごく普通・・・というより慈愛に溢れた優しい先生そのものである。
俺はそんな慧音を少し遠慮がちに観察しながらその場に腰掛ける・・・神社から考えれば
結構な距離歩いた計算になる、急にどっと疲れが出たようだ。
「ふふ、疲れましたか?のどが渇いたでしょう・・・少し待ってなさい、すぐ近くに水場があります。」
そう言って慧音は歩いていってしまった。ここで一人にされてもし妖怪に襲われたらどうするつもりなのだろうか?
そう思った俺の心を読んだのか
「安心しなさい、この辺には妖怪は少ないわ。いるとしても兎でしょう・・・それに今はまだ夜ではありません」
慧音は安心させるように優しく言い、奥のほうに消えていった。とそこに・・・
「おや、慧音の声が聞こえたと思ったんだが、いないな・・・お前は何をしてる?」
顔を上げるとそこには妹紅が立っていた。竹林の方から来たわけではなく、今俺たちが来た道を同じように
来た様な感じだった。
「今日は永遠亭案内の予約は入ってないな、お前予約してる?ていうか怪我とかなさそうだが・・・」
俺はどうしたらいいのか少し戸惑っていた、そこへ
「妹紅。いいのですよ。その人を永遠亭に案内してあげなさい」
と慧音は・・・ぇ?俺は驚いた。水を汲むものがなかったハズだが、なんと慧音は自分の帽子に水を汲んできたのだ。
「さぁ、飲みなさい・・・これで少しは疲れも取れるでしょう」
と慧音は俺に逆さにした帽子に入った水を勧めてくる・・・俺はどうしたものかと少し困った。慧音の汗や髪の毛の
臭いがしみ込んだ帽子に入った水である・・・性的な意味での興味もあるが衛生的に大丈夫か不安でもある
「おいおい、どうした、いらんのなら私が飲むぞ?」
と妹紅が横から手を出しかけてきたので、俺はあわてて「いただきます!」と水を受け取った。どうやら性的興味が
勝ったようだ。しかし、なんのことはなく、普通に冷たくておいしい水であった。別に慧音の香り・・・などと悦に入るような
こともない。俺はありがとう、と慧音に帽子を返した。慧音は帽子を軽く振ってそのまま被った。撥水性でもあるのだろうか
「さて、妹紅、この者は見た目上の怪我はありませんが、少し体の不自由な部分があります。それを治すために永遠亭に連れて行って
あげてくれませんか?・・・それと彼は外から来た人間ですのであなたのことも詳しいかもしれません。恐らく私のことも・・・そうでしょう?」
俺は頷くしかなかった、俺は慧音にはそのことは伝えてなかったのだが、やはり雰囲気などで分かるようなものなのか。
「ふむ、了解したよ、慧音・・・もうすぐ夕暮れだ、行くなら早い方がいい、行こう。」
俺は立ち上がり、慧音にお礼を言おうとした・・・すると、慧音は驚いたことに俺をそっと抱きしめた
「あなたが無事に元気な体になれるのを心から祈ります。無事治ったらまた寺子屋に来てくださいね」
・・・慧音先生・・・すごく優しいが怒らすととんでもないお仕置きが待っているという・・・俺はこの先生は絶対に
怒らせまいと心に誓い、改めてお礼を言った。
「行くぞ、慧音は弱い人間に優しすぎるぞ、強い人間には厳しいくせに」
妹紅はそっぽを向いて先に歩き始めたので、慧音も「ふふふ」と笑って俺に手を振った。

俺は少し足早に歩く妹紅の後ろを黙って付いて歩いた。すると突然妹紅が
「お前、私のことどれくらい知ってる?」
俺は知らないなどと嘘をつくつもりもないので知っている限りのことを話した。
「不老不死であること。永遠亭の輝夜とは犬猿の仲であること、竹林の警護をやっていること、こんなとこかな?」
「ふむ、確かにお前の言葉は聞き取りにくいな・・・・まぁいい大体正解だ。ただ、輝夜と犬猿の仲というのは違うぞ」
???どういうことだろう・・・輝夜と妹紅は殺し合う仲だと聞いてるが・・・俺はそれを聞いてみた
「ああ、昔はそうだったが、今ではどうでもよくなっている。不死同士、仲良く・・・というわけでもないが
あまり無意味なことはしないことにした。お互い今の生活が楽しいしな。私は竹林の警護、輝夜も今は盆栽なんて古臭い
趣味しかなさそうだが、あれでも結構人里とかに顔出してるみたいだぞ」
・・・俺が思ってたこと聞いてきたこととまるっきり違っている。輝夜といえば引きこもりがちで家の中で大事にされている
と聞いていたし外出なんて永琳が絶対に許さないだろうというのが定説だったのだが・・・・
「おっと、気をつけな目の前に落とし穴がある・・・・・ん?」
と、妹紅の注意に前を見ると確かに大きな穴が開いている・・・がその中から何か呻き声のようなものが聞こえる
「いったー!も~う、てゐのやつ!いつも私の通り道に落とし穴を作るわ!!」
穴から大きな耳が2つ揺れている・・・まさか・・・
「またお前か優曇華、いい加減学習しろよ、てゐより頭悪いのかお前は?」
妹紅はそう言いながら穴に手を突っ込み、そいつを引っ張り上げた。
現れたのは大きな耳に長い髪、すらっと伸びた身長にブレザーを着た・・・鈴仙・優曇華院・イナバである。
「あら、そこの人間は急患?」
と鈴仙は俺を見た・・・俺も鈴仙を見ていたので、目が合ってしまった。
「マズイ!」
妹紅が声を上げた時すでに遅し、鈴仙の紅い眼に吸い込まれた俺は急な眩暈で意識を失いその場に倒れこんでしまった・・・

~次回へ続く~