こんにちは、訪問ありがとうございます

 

前回の続きです。

 

診療時間終了の30分前に、

 

「小児科」を標榜していない私のクリニックに現れた、

 

気管支喘息発作と思われる1歳半の女児の運命はいかに!?

 

ボケボケと、平和な日常勤務中の私の前に現れたのは、

 

ぐったりして、元気がなく

1~2m離れていても、喘鳴が聞こえてきて

ゼーハーゼーハーと呼吸が速そうな、

明らかに調子が悪い女児です。

 

とりあえず、熱はあるの?

と聞くと計ってもいない。

 

ええ!?

熱があったら(なくても)コロナだと困るんだけど!?

 

と思い聴診してみると、

 

なんと、

呼気性喘鳴+吸気性喘鳴

加えて、1分間に明らかに60回以上の多呼吸あり

肋間や咽頭が呼吸と共に陥没し、陥没呼吸あり。

熱感はない

全身にはポツポツと蕁麻疹もあるが5〜10個程度と大したことない。

しかも、元気ない。

SPO2は95% 心拍数150で

心拍数が140を超えるたことから、

モニターがピンポンピンポン鳴り響いています。

酸素はまだ、必要ない程度。

 

あらまあ、気管支喘息の中発作(〜大発作の一歩手前)といったところ。

 

※気管支喘息発作は

①呼気相初期の喘鳴

②呼気相全体の喘鳴

③呼吸相だけでなく吸気相の喘鳴

④呼吸音、喘鳴が減弱する(呼吸不全)

 

とひどくなりますがここでは③に達していたという事。

 

SPO2モニター

正常97〜100

軽度低下95〜96

酸素化低下93〜94  少量の酸素が必要です。

92以下、やばいです!(呼吸不全)

 

えええー?!

小児科でないけれど、ステロイド点滴などできるけど、

こりゃ、30分で帰れるとはとても思えない!!!

入院コース?

 

なんて思いました。

 

同じ酸素飽和度95%でも、

何食わぬ顔で下がっているのと、

必死に多呼吸や努力呼吸して、

ようやく95%を保っているのでは、

同じ値でも雲泥の差です。

しかも、1歳半です、、、

 

今日はどうしたのですか?

と聞くと、

保育園に迎えに行くとこうなっていた。

おやつは1時間前くらいに食べてそれまで元気だったが、

だんだんこうなってきたとのこと。

小麦アレルギーはあるけれど、

小麦粉除去食を出してもらっている。

 

(以前の負荷試験をした時の症状に似ていたらしく)

なにかのアレルギーかもと思いこちらにやってきたと。

 

とりあえず、カルテなども見ておらず、

まずは

 

私が処方しておいた

レボセチリジンを保育園ですぐに飲ませたといっていたので

 

内服後、効果発現までに時間がかかる

リンデロンシロップを

10kgといっていたので、8mlほど内服させ(やや多め)

気管支喘息発作だと、体重kg÷2くらいが標準的です。

 

 

パルミコート 0、5mg(2ml)

ボスミン外用液 1、0ml

の吸入を行いました。

 

カルテを良く見ると、

小麦アレルギーで、3ヶ月前には

負荷試験して食パン0、25g食べて、

蕁麻疹と喘息発作あり

 

前々回、半年ほど前には

負荷試験 食パン1、0g食べて

アナフィラキシーでボスミン注射をされていました、、、

ガビチョーん。

 

まったく忘れてたけど、

かなり重症の食物アレルギーじゃん!!

 

気管支喘息発作、蕁麻疹があり、

小麦を食べたわけではないとの事だが、

ただの喘息発作と考えずに、

これは、食物アレルギーによるもの?!

と半信半疑でしたが、

吸入している間に、

食物アレルギーによるアナフィラキシーと

決断して、

アドレナリン筋注を覚悟します。

 

吸入中に残りの患者さん2名を診察して、

その後、この子が軽快してなければ、

アドレナリン注射しようと

決めて、

2名ほど診た後で、

聴診すると、

喘鳴は吸気、呼気あり、

はあはあと苦しそうでありが、

先ほどよりは音は軽快あり。

 

迷っている暇はないので、

その場でお母さんに、

アナフィラキシーの疑いが強いために、

太ももにアナフィラキシーの注射をします

 

といって、看護師に0、1mlのボスミン注射液を吸ってもらい、

すぐその場で筋肉注射しました。

 

ボスミン(アドレナリン)筋肉注射は、

効果発現が非常に早いです。

ものの数分以内に効いてきます。

 

この子は、

SPO2がすぐに98%

心拍数が120

呼吸数が減り、陥没呼吸も、ものの5分以内に改善してきました。

 

もう全く、ピンポンピンポンとはモニターも言いません。

 

アドレナリン筋注しても、かえって心拍数が下がって正常化していました。

先程までは、やはり相当辛かったのでしょう。

 

(アドレナリン筋注は、心拍数、心拍出量を上げ、

末梢の血管をしめて、体の中枢を循環させる血液量を増やします。)

 

(アナフィラキシーでも、ショックに近くなると、

末梢の血管が広がり、血液が中枢から、末梢へ移動して、

血液量が減り、血圧も下がり、心拍出量も減ります。

(フランクスターリングの法則)

暖かいショックとも言われ、皮膚が紅潮し、皮膚温が上がります)

 

 

呼吸音は少し残っているものの、

危機は脱しました。

 

しかし、すでに、診療時間は終わりごろ。

 

この子をいつまでに診ているわけには、行きません。

 

入院希望であれば、2次病院に依頼して入院して経過をみる。

 

入院希望がなければ、紹介状に

どのような処置や経過を書くので、

帰宅後に調子が再び悪くなれば、夜間の小児救急外来に行ってもらう。

 

帰宅して、何かあれば、救急外来へという希望があり、

急いで紹介状を書いた。

 

そして、採血して小麦以外の他のアレルギーがないか

一応checkしておきましょう

ということにして、

その間に紹介状を書いた。

 

そうこうして書き終えて、母のところにいくと

保育園から電話があって、

小麦入りのビスケットを食べさせてしまったと連絡が母親に入りました。

 

ひどい喘息発作があって、少し蕁麻疹があるからといって、

それが食物アレルギーによるアナフィラキシーと診断していいものか

判断を迷うところでしたが、

やっぱり食物アレルギーによるアナフィラキシーだったのです。

 

その頃には、

この女児はニコニコして、動き回って、

先ほどとうって変わって元気になっていました。

 

聴診しても喘鳴は聞こえず

呼吸数、心拍数もすっかり良くなって、笑顔でうろついてます。

 

ここまで、受診から1時間程度です。

 

さっきまで、ぐったりして母親に抱かれて動かず辛そうだったのが

嘘のようです。

 

母親も笑顔になっていました。

 

保育園が、

小麦のアナフィラキシー歴がある子に

小麦入りのビスケットを食べさせた。

 

これ、すごいひどいことで、

怒鳴り込んでいてもおかしくないです。

 

でも、この辺の保育園は、一杯で空きがありません。

 

私が診ている食物アレルギーの児でひどい子は

これまで、何人も

うちでは見れないって言われて、退園になったことがあります。

 

代わりに預かってくれる施設も見つからず、

親が仕事を辞めることになった事は1〜2人ではありません。

 

だから、お母さんには、

あまり保育園を責めない方が良いよ。

強くいうと、退園になる場合があるからね。

 

と忠告しておきました。

 

これが起きたのが6月16日(木)で

翌日も何かあれば連れておいでって言っておきましたが、

6月17日に受診してきませんでした。

 

多分、その後何もなく回復したままだったと思います。

 

薬の効果が切れて、ぶり返して救急に行って入院になったなんて、

事はなかったと思いたいところです。

(可能性はゼロではないけど、大抵はその後ぶり返す事はありません)

 

今回は、

(小麦を食べてしまったという)食物アレルギーによるものという

情報がなく、

ひどい気管支喘息発作と、たまたま併発した蕁麻疹

の可能性もあると、迷いましたが、

 

治療によって速やかに1時間程度ですっかり回復した姿をみると、

やはりウイルス感染などによる気管支喘息発作とは違い

薬がすぐに良く効いたな〜

と思いました。

 

ボスミン筋注すごい、速攻性です。

 

30分ほど診療時間をオーバーしましたが、

久しぶりに

医師として良い仕事したな!

と、充実した気持ちになりました。

 

母親と女児が笑顔で帰っていけて本当に良かったです。