こんにちは、訪問ありがとうございます。
前回のあらすじ
いかにも虐待しそうな太っちょで、
小さいタトゥーがあり、
言葉使いが悪いお母さん。
そのこども(1歳くらい)は、
左腕の多発骨折の過去があり、
左腕に新たな骨折をして受診したため
虐待か、BCGの副反応による骨折かを
判断するために大学病院送りになったというのが
前回の内容です。
さて、本題です。
数ヶ月後、大学からの遺伝子検査の結果が帰ってきました。
インタフェロンγ受容体の部分欠損が見つかり、
BCGの骨髄炎ということが判明したというのです。
BCG骨髄炎は年間に5件前後発生しているようです。
10〜15万人に一人出るようなごく稀なものです。
太っていて、豪快な話し方をする、
いかにもな感じの
小さなタトゥー入りの母子家庭のお母さんは
虐待はしていなかったのです。
私は、お母さんが虐待としていると思っていた派ですから、
部長のお母さんを信じる気持ちを尊敬しました。
いや、ほんと、以前の病院の部長先生の話を今度
書いてもいいですが、
とにかく、優しいのです。
仏様の領域です。
人は、見た目で判断してはいけないのですが
私は、お母さんが否定するものの、
虐待を疑った症例はいくつかあります。
○子供達が集まる施設で、母と乳児が遊びに行き、
おすわりの姿勢から、後ろに倒れて痙攣し、救急搬送された乳児
脳出血と、揺さぶられっ子症候群で見られる網膜出血があった。
激しい揺さぶりと、同程度の衝撃を後ろに勢いよく倒れただけで
本当に起こしたのか?
不明であったが、児相の保護下におかれた。
私の印象では、入院中もすごい優しいお母さんで
とても揺さぶるようには思えなかった。
○テーブルから転落したと言われた
脳出血の乳児
テーブルの上にバンボ置いてそこに座らせていたら、
抜け出して頭から落ちた乳児。
母が言うには、システムキッチンから顔が見えるように
テーブルの上に座らせておいたとのこと。
母がいう状況に嘘はなさそうだから、
虐待を強くは疑いませんでした。
ただ、ニュースではイライラして
高いところからわざと落として怪我させる事件が
報道されることがあります。
○兄弟がうでを強くひっぱたら、
骨折した4ヶ月男児
父が連れて来院。4歳児が強く引っ張ってから
泣くようになったと言って受診。
その現場は見ていないと言うこと。
話はしっくりしないが、
虐待の疑いもあり、発達followの名目で
経過観察したが、その後は虐待が疑われる怪我などはありませんでした。
小児科では、状況証拠と証言だけが
頼りなので
保護者が言うことが、本当か嘘か
信用するに値する人物かを判断していきますが、
実際は難しいことが多く、
疑わしきは、以後の虐待がないか経過観察という形になります。
小児科医としては
虐待を疑ったら、それを確定させることを
目的とはしませんが、
今後の虐待を未然に防ぐと言う意味では
疑い深くなります。
同じことが起きてはいけない。
命に関わることがあってもいけない。
ただ、母親を信用しないと信頼関係が崩れますので
その辺は難しいところで、
冒頭の、母親を信じた部長先生は
母とのやりとりで、母親を信じたからこそ
大学病院に遺伝子検査などの依頼をかけたのだと思います。
私であれば、虐待を疑うことはあれ、
超稀な、BCGによる骨髄炎を
疑うことはできなかったでしょう。
とても、勉強になった症例でした。