2019年11月に統計検定1級を受験しましたが、統計数理、統計応用(理工学)共に不合格でした。両方とも不合格者の中では成績上位20%内には入っていたのですが、結局合格できませんでした。

今年また受けるかどうかは分かりませんが、とりあえず統計検定1級について調べたこと等をちょっと書いておきます。

 

 

統計検定1級には統計数理と統計応用の2つの試験があり、両方に合格することが必要になります。ただし両方一度に受かる必要はありません。片方に合格して、10年以内にもう一つも合格できたら統計検定1級合格の認定がされます。

 

統計数理と統計応用、共に5問中3問を選んで解きます。3問中2問を解ききることが合格のラインだと俗に言われています。

 

統計応用には人文科学、社会科学、理工学、医薬生物学の4分野があり、受験申込の時点でひとつ選びます。(4分野共通の出題もあります。)数学科の学生やOB・OGが受けるなら理工学一択…とまでは言い切れないかもしれませんが、よほど他に得意な分野があるのでなければ理工学を選ぶのが良いと思います。難易度は全分野同じくらいだと思います。

 

毎年11月に実施されます。午前(10:30~12:00)に統計数理、午後(13:30~15:00)に統計応用です。

結果は5週間後にネット上で公開されます。(受験時にネット上で結果を公表することを希望しなかった場合、結果が郵送されて来るのはもう少し後になります。)模範解答の略解は、試験実施の1~2日後に公式ホームページに公開されます。

 

関数電卓でない通常の電卓は持ち込み可能です。

 

  • 歴史

 

2011年 統計検定発足。

2012年11月 第1回目の統計検定1級 実施。(従って2020年に受験する人には過去問が8回分存在。)

 

2014年までの3回分は統計数理と統計応用合わせて120分の試験時間でしたが、

2015年以降はそれぞれ90分になりました。

それが理由かは分かりませんがそれまで14%ほどであった合格率が20~25%程度に上がりました。尚、この合格率は合格者数/受験者数の値であり合格者数/申込数はもっと少ないです。また2015年以降も時々極端に合格率が低くなる回がありました。

 

2012年は午後の問題の問3~問5が共通の問題でした。

2013年以降は問5が4分野で共通の問題になっていて、それ以外にも時々共通の問題が出ることがあります。

2015年6月からは準1級が始まりました。

 

(追記:2020年の統計検定1級はコロナの影響で中止になりました。)

 

  • 公式過去問集

日本統計学会公式認定の過去問問題集が2年に1度(つまり2年分の過去問を収録して)発売されています。おそらく2020年の3~5月に2018年と2019年の1級と準1級の過去問を収録した物が発売されると思います。2012年と2013年の問題集にはRSS/JSSの問題がセットで収録されていて、それ以降は準1級の問題がセットで収録されています。

 

(追記:予想通り2020年3月に発売されました。

(追記2::2012~2015までは、1級の問題のみの収録に変わりました。

(追記3:2022年実施分からは、過去3年分セットになりました。)

 

  • 公式認定テキスト

日本統計学会公式認定 統計検定1級対応 統計学 (日本語) 単行本

2013年4月発行。出題範囲の内容が概ね全体的に解説されています。

ベイズや計算統計学(シミュレーション)についてはほぼ何も解説がなく、他の分野についても内容量にばらつきがあり、この本だけで勉強するのは難しいと思いますが、それでもとりあえず手元に置いておきたい本です。

重要語句が本の中で解説はされているものの索引には載っていなかったりします。

(追記:2023年4月に過去問の一部が追加された増訂版が発売されました。)

 

  • 出題範囲表
統計検定の公式ホームページでPDFファイルを見ることができます。そのPDFファイルの右上には2015.5.8と記載されていますので2015年からは変更されていないようです。
RSS/JSSの問題がセットで収録されていた時の2012年と2013年の問題集を見ると、昔の試験範囲が載っています。ちょっと今と違います。
 
  • 統計数理(午前問題)頻出キーワード
まず次のキーワードは教養レベルの統計学でも扱いますが、統計検定1級の統計数理(午前問題)でも関連問題が頻出です。
 
・ 一様分布
・ モーメント母関数 M_t(X) = E[exp(tX)]
・ ガンマ関数
・ 条件付き期待値
・ 最尤推定量
・ 不偏推定量
 
一様分布は単純に思われるかもしれませんが、統計検定1級に出てくる一様分布の問題は確率積分変換を用いた問題や順序統計量と組み合わさった問題などで、決して簡単ではありません。
モーメント母関数は常に存在するとは限らないため一般的には特性関数の方が好んで使われますが、統計検定1級ではモーメント母関数がよく使われます。
 

次に以下のキーワードは、所謂教養レベルの統計学ではあまり馴染みがないものですが、統計検定1級の統計数理(午前問題)では関連問題がしばしば出ます。

 

・ デルタ法

ネイマン-ピアソンの定理

・ 最小二乗推定量

平均二乗誤差(MSE)

 

勿論これらのキーワードの関連問題以外にもマルコフ性や十分統計量など色々な問題が出ますが、まず上記のキーワード関連問題を徹底的に勉強しておくというのが合格を目指す上で欠かせないでしょう。

 

また、統計応用(午後問題)では以下のキーワードに関する問題がよく出る傾向があります。

 

人文科学…因子分析

社会科学…標本調査、ローレンツ曲線、各種経済指数

理工学…計画行列、時系列モデル、ハザード関数

医薬生物学…オッズ比、ハザード関数

 
  • 基本的に数理統計学の試験であって確率解析の試験ではありません。

従って例えばバナッハ空間論などの関数解析の知識は問われたことがありません。一般的には基本的な測度論は数理統計学にも含まれることが多いと思いますが、統計検定では測度論自体の理解を問う問題も出たことはありません。今後も出題傾向に大きな変化がないのであれば、多変数の微積分、広義積分の計算ができればとりあえず解析学の力としては十分合格を狙えると思います。ただし、それらの微積分の計算は正確かつスピーディーにできなければなりません。とりわけ置換積分(多変数含む)は必須の技術です。また、確率過程も統計応用の共通部分の試験範囲に含まれていますのでご注意を。

 一方で線型代数につきましては、3次以下の行列演算だけでなく一般のn×n行列の各種演算を素早く正確にできることが必要になりますが、それ以上に抽象的な代数学の知識が問われたことは一度もありませんので、こちらも大学2年生相当の線形代数の知識があれば問題ないと思われます。(クロネッカー積の記号が公式過去問集の解答に用いられたことが一度だけありますが、その問題はクロネッカー積の記号を使わずとも解答できる問題でした。)

 

  • 機械学習について

2019年ごろまでは統計検定1級において機械学習関係の問題が出題されることはあまりなく、準1級が機械学習寄りで、1級は数理統計学や実験計画などがメイン、という住み分けがなされているような感じがありました。

しかし2021年頃から徐々に機械学習寄りの問題が増えて来ましたので、今後は機械学習の理論も押さえておくのが望ましいと思われます。

 

  • 出題傾向の追記
2019年頃から、統計数理ではグラフの概形を描く問題がよく出るようになりました。
 
  • 2019年11月のミニ受験体験記

明治学院大学での受験でした。大きな教室で、凄く受験者が多くて驚きました。出席率も思ったよりずっと高かったです。統計学に注目が集まっていることを感じました。

 

  • RSS/JSS

2012年から2017年までRSS/JSSという試験も行われており、2017年5月が最後の実施となりました。8モジュール中6モジュールに合格すれば資格認定されるというものでした。統計検定準1級は、この試験の代わりに作られたのかもしれません。(ただし統計検定準1級と出題傾向は全く異なる試験でした。)

 

http://www.toukei-kentei.jp/about/rssjss/

 

中途半端に4モジュールだけ合格して試験が終わってしまった人もいるそうです。ゲッソリ

 

  • その他

2015年の問題では確率を表すP (X = k )のような式を中括弧を用いてP { X = k }という式で表していました。そのことにより問題の難易度が変わるということは全くありません。また公式過去問集では相関係数をCorrという記号で表すことが多いです。