人間の思考回路にはバグがある
━━あなたはギルの笛に勝てるか━━
私が、小学校の時、『人造人間キカイダー』というテレビ番組があった。 キカイダーは、正義のアンドロイドであるが、『良心回路』に不備(バグ)があって、敵の総帥「ギル」の吹く笛の音を聞くと、良心回路が働かなくなり、味方を攻撃したり、悪いことをしたりするのである。……そして、最終回、敵である「ギル」を倒し、キカイダーはサイドカーに乗って去ってゆくのであるが、去り際に、博士が「おまえの良心回路を治してやろう」と言う。しかし、キカイダーは「このままでいい……」と去って行くのである。私はたしか小学校3年であったが、「治してもらえば良いのに……」と思った。でも、今考えれば、「良心回路をなおされたキカイダー」は、ロボットそのものにすぎないのである。不完全な良心回路をもつロボットは人間に限りなく近い存在なのである。キカイダーは人間になりたかったのだ。
人間は、コンピューターではない。大脳進化の結果、たまたま思考という高度な精神活動ができるようになっただけである。そこには、非常に多くのバグがある。
(1)人間の論理的思考は、己の欲望や感情を満足させるために行われることが多い
たとえば、ものを客観的に評価しようというときでも、その根本には「好き・嫌い」ということがあって、後から理屈や理論をつけてそれを評価する。余程注意しない限り、まず、感情論が先なのである。我々人間が、感情を抜きにして思考することは、冷徹な思考ロボットになるか、神のごとき心になるか━━そうでないと不可能にちがいない。自分の心をコントロールする以外に、純粋な論理的思考は不可能に近いのである。
さらに、私たちの心の中には、「ねたみ」とか「自分さえよければよい」とか「楽をしたい」「努力をせずに儲けたい」とか利己的な心が渦巻いている。思考をするとき、その思考過程がこれら利己な心に歪められてしまうのである。そしていつのまにか、思想自体が自分だけの利己的欲望を満足させる道具となり果て、自分の思想信条が、自己の成長とはおよそ無縁なシロモノとなっていたと言うことは、ありがちなことではなかろうか。
思想信条の内容によっては、賛否両論が戦わされている分野がある。互いがメリット、デメリットを客観的に挙げ、注意深く検証されていることであろう。そこに思想のウイルスが入り込む余地はない。しかし、誰もが正しいと認め、誰もが疑いすらもたない、普遍的な「ことがら」においてはどうだろうか?(たとえば、自由・平等・平和など)そこにこそ、思想のウイルスが潜んでいるのだ。
(2)人間の利己的欲求は、人間本来の聖なる心さえも欺く
人間には二つの心があるといわれる。一つは、自分さえよければよいという心(利己心)である。
人間は、食欲・性欲・睡眠欲を始めとし、みんなと一緒にいたいとか、自己を実現したいとか、様々な欲求を持っている。それ自体は善でも悪でもない。しかし、我々は一方で、その欲求を他人を押しのけても通したいとも思っているのである。これを利己心と呼ぶ。特に知的な人間は、ありとあらゆる権謀作術を用いて自己の欲求を実現しようとするので、「不道徳な知識人の末路は悲惨である」と言われている。
いま一つは、人を思いやり、育てる心である。「愛」とか「慈悲心」と言ってもいい。
この二つの心は「同時に使うことができない」という制約があるらしい。どちらの心を使う時間が長いか──その心の積み重ねによって性格・人格・運命が作られるとも言われる。
だが、私は恐ろしい事に気づいたのである。この二律背反とも言える2つの心。実はそれを使っている人間のソフトウエアに大きなバグがあるのである。もしも、この利己心が慈悲心を利用したらどうなるか。それは、「努力をしないで良いことをしたい」「自分は犠牲を払わずに正義を実現したい」というふうになってしまうのである。我々はこの考え方に容易に陥りやすいのである。「慈悲の心が利己心を押さえるどころか、利己心を増長させる隠れ蓑にされる」のである。人間の心はなんと恐ろしいのであろうか。さらにこれが高じれば、「自分の利己的な欲望を満足させるために、愛や正義や人類普遍の価値を主張する」ようになる。社会正義(自由・平等・人権・平和)を主張しながら、心の中には利己心が増長し、怒りと不平不満で一杯になるといった事が起こってくるのである。(このことは思想のウイルス感染者の大きな特徴である)
また人を故意にこの状態に導く"技法 "?があるとするとどうだろうか?いわば、これが「思想のウイルス」ある。
人間は、(1)人間は論理的思考を感情で行う。(2)犠牲を払いたくないが、良いことをしたい──という2つのバグを、少なくとも持っている。思想のウイルスはここに感染するのである。
【付記】
どのような種類の利己心に取り憑くかによって、思想のウイルスの種類が決まっている。
(1)自由のウイルス……「犠牲を払いたくない」
(2)平等のウイルス……「ねたみ」 「ひがみ」
(3)平和のウイルス……「自分だけが大切」
(4)団結のウイルス……「闘争心」
(5)歴史のウイルス……「現在の自分たちの平和や繁栄はあたりまえ」
(現在の平和や繁栄を、歴史の尊い犠牲の上に成り立っていると感じることができない)
(6)弱者のウイルス……「強者は悪で、弱者は正しい」
感染した人間の図
──そのCATS’ME構造──
C
思想のウイルスは、普遍的真理に酷似しており、容易に異議を唱えることができない
A
思想のウイルスは、人間の利己心にとりつき、良心の目を覆う
T
思想のウイルスは、人間の利己心をかき立て、口では正義を叫びながら、心の中は不平不満でいっぱいになる。
S
思想のウイルスは、人間の利己心を利用し、雲の上の正義よりも、より楽で廉価な身近な"すりかえられた正義"を選択させる
M
思想のウイルスが感染すれば、外部からウイルスを強化できる。感染した人間は、思想的に操作されやすくなる。(なんとか研修や、オルグだな)
E
思想のウイルスに感染したら、自立心・公共心・努力などの重要な部分が破壊される。
(図は寄生虫体質になった例)
思想のウイルスの構造
━━それはCATS’ME構造だった━━
思想のウイルスは、いわゆる『偏狭なイデオロギー』そのものを指すのではない。非常にファイルサイズの小さい、見えにくいものである。まるで、線路のポイントを切り替えるように、列車の行き先を正当な思想から、偏狭なイデオロギーの方向に変えてしまうのような━━その線路の「ポイント」のような存在である。すなわち、
平等思想+思想のウイルス=利己的な平等思想
平和思想+思想のウイルス=利己的な平和思想
思想のウイルスの構造は、次の6つの特徴をもつ。
(2)アンカー〔A部〕……ウイルスの本体
(3)ターゲット〔T部〕……狙われた思考のバグ
(4)セレクション〔S部〕……不平不満による選択
(5)メソッド〔M部〕……ウイルス発症・強化の外因
(6)エフェクト〔E部〕……ウイルスの効果・症状
この頭文字をとってCATS’ME構造と呼ぶことにする。
常に、「人類の普遍的な価値」の陰に巧みに潜み、人間の利己的な欲望の力を借りて、その「人類の普遍的な価値」を変質させるのである。
ウイルスの構造 | 要約 | 本質 | 内容 |
カバー〔C部〕 | ウイルスの宿主 | 普遍的な価値観 反対できない |
自由・平等・平和など、 人類の普遍的な価値観。 |
アンカー〔A部〕 | ウイルスの本体 | 巧妙なすりかえ | 普遍的な価値を巧妙にすり替え、 これを『絶対正義』とする。 |
ターゲット〔T部〕 | 狙われた思考のバグ | 人間の利己心 | 思想のウイルスが結びつく人間 の利己心 |
セレクション〔S部〕 | ウイルスによる誤誘導・誤選択 利己心による選択 |
楽な方(正義の廉価版) を選ばされる |
普遍的な価値(C部)に似せて作った ウイルス(A部)を不平不満と結びつけ、 二者択一を迫り、安易にウイルスを選 択させる。 |
メソッド〔M部〕 | ウイルスの発症・強化 外部コントロール |
感染させた人間を 外部から操る |
ウイルスを外部からコントロールする 言論。ウイルスを発症させ、強化する。 |
エフェクト〔E部〕 | ウイルスの効果 | 不平不満の増大 | その思想のウイルスが何を破壊し、 どんな症状を呈するか。 |
『自由のウイルス』を例にとった詳しい説明
(※自由のウイルスは、人間を寄生虫に変えてしまう恐ろしいウイルスである)