私が8年以上、お世話になっている美容院。
そこは、病気になった時も、それまで以上にお世話になった。

店長は私より1才年下のHちゃん。
彼女は、私のことを「せせらぎセンパイ」って呼んでくれる。

そうなのだ。私は、彼女の高校時代の部活のセンパイ。
もう30年以上経ってもいまだに「センパイビックリマークっ」て呼んでくれる。

しかし、彼女は病気の事では私のセンパイ。
彼女は私とは、違うガンにかかり、手術や辛い抗がん剤治療を経て、病を克服して元気にお店に立っている。

私が病気のこと、抗がん剤治療が始まることを伝えると、「わかりました」と、静かにうなずいて、髪の毛をショートカットにしてくれた。

すぐに、髪の毛はどんどんとすごい早さで抜けていき、ひと月も経たない頃、Hちゃんに連絡をしてかけつけた。

お店の一角にカーテンを引いて即席の個室を作ってくれ、そこで私は断髪式を迎えた。

だけど、Hちゃんのアドバイスや、なにしろ超つらかった抗がん剤治療に耐えて見事復帰した姿を目の当たりにして、私の心は、とても強く、明るくしていられた。

丸坊主の私は、自分で言うのもなんだけど、とっても可愛らしかった。
はさみで、丁寧に切ってくれた頭をなぜてみたら、気持ちよかった。

Hちゃんとふたりで、大笑いをしながら断髪式をしたあの日、Hちゃんの心遣いが、ありがたかった。

そして、Hちゃんが、使っていたウィックをお借りして私のウィック生活は始まった。

まるで、私のオーダー品、と言わんばかりに、Hちゃんのウィックは私に似合っていた。

私に合わせて毛先を切ってくれたことも大きかった。

だから、私の病気を知らない人は、ウィックだと気が付かずにいたと思う。それほど自然なウィックだった。

ウィックに「ハッピイちゃん」と名前を付けて、かぶる時は「ハッピイちゃん、今日もお世話になるね。よろしくね」 外した時は「ハッピイちゃん、今日もありがとうね」と、なでなでしながら、挨拶していた。

だって、なんていってもこの子がいなけりゃ、外に出ることもできないのだ。まるで分身のようだった。
それほど、ハッピイちゃんには、活躍してもらった。

定期的にHちゃんの美容院に行ってハッピイちゃんをシャンプーしてもらい、傷んだ毛先をカットしてもらった。毛先は、人毛だったから、傷みやすかった。
その度に、Hちゃんと、ガン談義に盛り上がり、そして生き方を追求する哲学論のようなことにまで、話しはおよび、元気をもらった。

彼女のすごいのは、自分の体験をお客様に生かす、お客様の気持ちをわかって差し上げる、癒しの精神が非常に強いところだ。

彼女の友人やお客様もガンにかかることもあり、その度に、私に作ってくれた同じ個室の中で、
カットしたり、ウィックシャンプーをしている間、待っていただいたり、彼女の癒しを受けに、何人もガン患者さんが訪れている。

以前テレビでも、抗がん剤で脱毛した経験のある美容師さんが、体験を元にガン患者さんに気楽に来て頂け、脱毛やウィックなどの相談にも応じていただける美容院を開いていらっしゃるのが紹介された。

こんなお店はまだまだ少ないのかもしれない。

だけど、抗がん剤=脱毛は、どうしても切り離せない大きな悩みである。
特に女性にとっては、心の問題にかかわる重い課題でもある。

その時に、体験者がアドバイスをくださることは、とても勇気づけられるし、生きる希望も見出せる。


今年2月に、私はハッピイちゃんをHちゃんにお返しし、自毛で過ごしている。

先日、Hちゃんのお店でストレートパーマとカラ―をお願いした時、Hちゃんが気付いて教えてくれた。

「センパイ、新しく生えてる毛、1,5センチくらいは、もうストレートですよ音譜くせっ毛じゃなくて元の丈夫な毛になってきてますよビックリマーク」と。

そうなんだ。毛もどんどん新しくなって生まれ変わっているんだ。

くせっ毛もそれなりに楽しませてくれた。だけど、朝のバクハツ頭をおさめるのは、至難の業だった。

しかし、人間は進化していかないと。私の場合、髪の毛といっしょに、ねニコニコ