介護と刑事上の注意義務について | 福岡の弁護士 矢口耕太郎のブログ

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3月25日、長野県の特別養護老人ホームで、おやつのドーナツを食べた直後に意識を失って85歳の女性が亡くなった事件について

業務上過失致死罪で准看護師の方が起訴された裁判の判決があり、有罪で罰金20万円であった。

 

無罪を求める約45万筆の署名が集まっていたという。

 

判決の内容がまだ明らかでないので、何故注意義務違反が認められて有罪とされたのかは不明である。

 

ただし、医療過誤の刑事弁護においても同じ問題が生じるが、民事と刑事では、求められる注意義務の内容が異なるとされる。

民事上の注意義務違反は認められても、刑事上の注意義務違反は認められないというケースはよくあるのだ。

 

福島県立大野病院事件と呼ばれる判決がある。判決は

「臨床に携わっている医師に医療措置上の行為義務を負わせ、その義務に反したものには刑罰を科す基準となり得る医学的準則は、当該科目の臨床に携わる医師が、当該場面に直面した場合に、ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じているといえる程度の、一般性あるいは通有性を具備したものでなければならない。

 

として、刑罰を科す基準となり得る規範については、「一般性あるいは通有性を具備したものでなければならない」と指摘した。

 

要するに、刑事上の注意義務については、民事よりも緩和され、一般的にほとんどの者が取るべき行動を、本人がとっていなかったといえるほどのことがなければ注意義務違反とは認めないということである。

 

本件の介護における事件でもこの論理は当てはまると思う。

 

ほとんどの介護職員が同じような場面に遭遇したときに、今回の介護職員の方と同じようなことをしていなかったか、無理からぬ場面だったのではないか、という事情があるのであれば、刑事上の注意義務違反は認められないと思うのである。

 

即日控訴したとのことで、控訴審の判決が待たれる。