土屋休丘さんは 第二俳句集『につぽにあにつぽん』 を 2005年に上梓されました。

休丘さんが66歳から73歳の時に作られた自信作296句を発表されたものです。

につぽにあにつぽんは、佐渡の日本トキ(学名ニッポニア・ニッポン)のこと。最後の一羽「キン」が死んだのは、2003年の10月10日でした。トキの死を悲しまれての、哀悼の俳句集と思います。

 この句集には73句の野鳥の俳句があります。

 まずは、これらの俳句を紹介させていただきます。

 土屋さんは、旧漢字による俳句標記をされています。ブログ子のパソコンに無い文字が多かったため、新しい標記にして、読み方に疑問をもちつつも辞書にある読み方で説明を入れさせていただきました。

 

怨念のにつぽにあにつぽん雪解靄

青鳩よそこは覚めずに死にゆく沼

岩ひばり鳴き雪渓の大蒸発

虎鶫燃えつきし星なほ流れ

飛びつつ死ぬ鳥もあるべし葛嵐

海浪の鹹(から)さどこまで河口の鴨

星消してゆく晨鴨海黝(あおぐろ)し

磯鵯や驟雨が濡らす海の色

鷹掴む骨樹と見れば老い桜

身を賭けて翔ぶ鷹ひとつ花の雲

青葉木菟古武士のごとく大和棟

どの鷹も命きらめく鷹柱

吉野熊野鷲の翼下になだれけり

日照かき消して隼枯木灘

雪腐りゐてみそさざい大音声

鵠発つとき長頚のあはれさは   鵠(くぐい):白鳥

日雀鳴く穂高の雲をはらひつつ

風蝕は栂にもおよび鷽の声

斑鳩鳴き濁世明るきひとところ

斑鳩の声高原野菜甘くなれ

鬱と森筒鳥も仔をふやしに来し

赤翡翠汚染を見せぬ雨が降る

仙台虫喰殘月のこのしらけやう

仙台虫喰滑瀧(なめ)の陶酔醒めずあれ

鷹渡るこれより海が力を借し

流れ藻の鹹き(からき)月日よ信天翁    信天翁:あほうどり

鯤は識らず鴎らに海吹きちぎれ       鯤:こん 空想上の大きな魚

殺気杳として大鷹の描く輪あり

死臭消し樹間(こま)の飛雪を灰鷹は

鶺鴒の白のひらめき恵方道

かいつぶり気が狂(ふ)れ沈む花吹雪

緋水鶏や野川にかかる水利権

富士にゐて富士を真つ向大地鴫

旅立ちのたましひ遊ぶ秋燕

雪に死す狗鷲絶滅危惧種として

農道と紛ふ参道雉の声

老残の栂に日当る瑠璃鶲

湿原をほろぼす煙霧目細の声

どこまでが現世の空燕去ぬ

田鷚や水あれば田も空映す    田鷚:たひばり

とろとろと夜噺風か梟か

梟や狩られるものに闇は充ち

みそさざい地下にこそある滾る水

月日星いづれがほろぶ三光鳥

芽落葉松にあふ老練の野鵐の唄       野鵐:のじこ

筒鳥やわが来し方か行く先か

遠郭公わが生つひにひと雫

暈に繭籠る月ゐる木葉木菟   

水葬やうねりを翻し水薙鳥

木菟老いて森もふけたり勾玉月

潜水艦掠めし鴨の吹きだまり

沢鵟(ちゅうひ)ゐて干拓済めば無用の地  沢鵟:鷹の一種

赤脚鷸鳴く音たどれば絵蝋燭  鷸:しぎ・鴫

ちりぢりに母国語吹かれ百合鴎

鶚消えまたずぶぬれの佐渡おけさ     鶚:みさご:鷹の一種

埋立てて増やす地の涯長元坊

群れ飛びの浜鷸消ゆる白日夢

覚めるたび嘴大曲り焙熔鷸    焙烙鴫:ほうろくしぎ

田鳧鳴く常世現世往来して    田鳧:たげり

沼に光る星雲そして虎鶫

黄鶲や龍笛の裡朱が奔り

土用東風一切空を鷹ひとつ

朱鷺の死につづく朱鷺なし秋の風

老杉にすだまの寝息木菟の夢

雁の声夜空かたぶくままに過ぐ

汚濁日本その上澄みに大鵟

絶滅ときまれば鶴の煌煌と

絶滅へ寂寞としてしまふくろふ

初松籟ばらばらで群れ地の便追(びんずい)

こぼれきてあれは貯木に寒雀

白炎と化す旅立ちの白鳥湖

地に紛ふ雲雀に夜が遠くから

囀りも燎(や)みマンモスの解け具合