雷鳥(らいてう)季語/

 ライチョウ キジ科 留鳥 L37 W59

手前は雄 奥のは雌

冬羽

  これらの写真はウイキペディア「日本語版」より引用しました。
  https://ja.wikipedia.org/wiki/ライチョウ   最終更新 2017年12月18日 (月) 23:48

 

この鳥の名を知らぬ人はいないが姿を見るためには、しっかり装備した本格的な登山をしなければならない。今ライチョウが比較的よく見られるのは飛騨山脈。赤石山脈や火打山など、本州中部山岳地帯の2500メートル以上の高山である。それも、これらの山脈に属する山ならどの山でもというわけではない。局地的である。国外の分布は北極圏のツンドラ地帯であり、日本のものは氷河期に分布をひろげた生き残りとされていて、富士山のように新しい山にはもともといなかった。特別天然記念物と特殊鳥類に指定されているが、高山帯の観光開発の影響をうけて、この鳥も減少の一途をたどり将来をおびやかされているのである。

ライチョウはニワトリより小さくチャボくらいの大きさの鳥で、ずんぐりした体をしている。雄の目の上には肉冠と呼ばれる皮膚が露出した赤い部分があって、繁殖期には大きく発達する。羽の色が夏と冬と季節的に変り、夏は黒褐色で冬羽では嘴や目の部分と尾羽の外側を除いて純白になる。雪の中で見つけ出すことは容易ではない。雌の夏羽は黄褐色である。保護色の意味あいの強い換羽であるが、その意味のうすれる時季がある。春と秋は換羽の途中にあって白と褐色のまだらになるからである。五月といえば高山はまだ冬で、そのまだら模様の雄同士が一面の銀世界の中でなわばりをめぐって激しい戦いをくりひろげる。争いに夢中になっていてイヌワシなどのワシタカ類にさらわれることもあるのである。しかし冬山や春山は一般同きではない。

夏山のハイマツ帯、そのハイマツの中からグァアァワォーワァアというふうな異様な声が聞こえてくればライチョウである。ハイマツ帯と高山草原に棲み地上をよく歩きまわり、ハイマツの新芽をはじめ植物の葉、花、実などをついばんで食べる。晴天の日にはめったに姿を見せないが、荒天や霧の濃い日にはよく出合う。七、八月にはヒナを連れた雌親が登山道へ出ていたりする。ハイマツ帯から離れたがらない。危険を感じると、たちまちハイマツの下へもぐりこんでしまう。ヒナを連れてお花畠へ出ていることがあるが、この時の雌親の警戒心は恐らく頂点に達しているだろう。遠くから望遠鏡で眺めていると、緊張感の中にも細やかな親子の情愛がうかがえる。ライチョウが飛ぶときは、力強い羽ばたきのあとは流れるような滑空で、その真っ白い翼がはっとする美しさを見せる。厳冬期も高山帯からあまり離れず深い雪の中で過ごす。言い忘れたが、脚指までおおう羽毛は冬は長いものに変りかんじきの役目を果たす。

 

 雷鳥もわれも吹き来し霧の中        水原秋櫻子

いきなり吹きつけてきた霧に進路を閉ざされて立ちすくむ。見るとそこにライチョウがいる。同じ霧にまかれたもの同士としていい知れぬ親しみを覚えるが、ライチョウにその気があるかどうかは疑わしい。やがてゆっくりとハイマツの中へ姿を消したが、その落ち着いた態度がせめてものなぐさめではないか。

 

 雷鳥や雨に倦む日をまれに啼く    石橋辰之助

 雷鳥に鳴らすひとりの靴の鋲(くぎ) 岡田 貞峰

 

私本野鳥歳時記(8)1995年2月