斑鳩(いかる)  季語/春

 イカル アトリ科 漂鳥/留鳥 L23 W33

 イカル 鵤
この写真はウイキペディア「日本語版」より引用しました。
最終更新 2016年7月19日 (火) 06:28
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AB%E3%83%AB

 

 ムクドリぐらいの大きさ。日本のアトリ科では最大。ずんぐりした体に、何よりも黄色くて大きいくちばしが目立つ。体は灰色で、頭部、翼、尾羽が黒い。その頭部の黒色は喉までのびて太い嘴の根元を取り巻いているから、どう見ても頬かむりをしているようにしか見えない。翼には白紋があって、飛ぶときもはっきりした白い輪になって見える。雌雄同色。のっそりしていてあまり動かない。ケッ、ケッとかキョッ、キョッという声をだす。飛びながらケッと鳴いたりする。囀りは明るいよくとおる声でキィーコーキィーとかキキキィーコ、キコキコキィーなどと聞こえる。キョコ、キィーとかキョココキィーなどとも鳴いて、地方によって鳴き方に上手、下手があって、これも鳥の方言に数えていいだろう。しかし朗らかな澄んだ声に特徴があって、めったに間違えることもない。この声を「お菊二十四―」「あけべべ着いー」「これ食べてもいい」などと聞きなしている。繁殖期以外の秋冬でも鳴いていることがある。

 平野部から山地にわたってほぼ全国的に普通だが、標高の高い山岳地帯には生息しない。たいていは一羽か二羽で、大きい群れに密集することもなく、また行動圏は大きいのでいつでも見かけるという鳥ではない。個体数そのものもあまり多くないのかもしれない。北方のものは冬は暖地へ移動する。秋や春の渡りの途中にあるらしい十羽前後の小群に出合うこともある。樹の上で木の実をぱちんぱちんと音をたてて割っては中味を食べている。冬なら山ぎわの雑木林かハゼノキ、ヌルデなどのある谷あいでよく出合うだろう。樹の上でそれらの木の実を落ち着き払ってついばんでいる。特にエノキの実は好物らしいが、ナナカマドなどわざわざ果肉をむいて中の種子を割って食べているのを見たこともある。イカルを豆回しと呼ぶ地方もあるが、大きな嘴の先で種子をつまみ、くるくるまわしながら、くちばしを開閉して外皮を割っては吹きとばす。そのときパチンと音がして、外皮が落下して小枝やつるにあたるカラカラという音がつづく。風のない日だまりの谷あいで聞くその音は、山の静かさをそこねることのない不思議な音響である。

 繁殖期には低山の落葉広葉樹林とか、海抜千メートル前後の高原の灌木がたくさんあって、やや高い木が点在するような場所を訪れるとよい。そういう明るくてオープンな林を好むようである。一羽見つかるとたいていその近くにいくつかがいて、かたまるように繁殖している。集まって繁殖しているといっても、巣が集中してあるわけではない。つがいで防衛する縄張りは巣の周りの狭い範囲だけで、その小さいなわばりが隣り合っているのである。そこを離れると縄張りがないというような状態は、同じアトリ科のカワラヒワやウソにも見られる。それはコロニー的だと言われている。こういう鳥の例にもれず、イカルも餌は巣から離れて遠くへ出ていってとってくる。それだけに行動圏は大きく長距離を飛んでいってしまう。大きい波を空中に描いて翼の白紋をきわだたせながら遠く飛ぶ姿をよく見かける。その飛びかたといい、その囀りといい、いかにも高原の晩春にふさわしい。湧きたつように新緑へと移っていく風景の中で、「き緑キィー、気持ちがいい」などと歌う声はことのほかイカルらしくていい。

 
私本野鳥歳時記(追補左)1999年11月号