高野山の植物と聞いてまず思い浮かぶのは、
「高野六木」…スギ、ヒノキ、コウヤマキ、アカマツ、モミ、ツガ。
町のあちこちで見かけます。
特に、コウヤマキは、町木に指定されていますし、おみやげ屋さんでもよく見かけます。

では、江戸時代には、何が知られていたのでしょうか。
『紀伊続風土記 (高野山之部 草木の章)』に、高野山を代表する植物が挙げられています。

・木蜜 (シキミ)
・黒モジ (クロモジ)
・松 (アカマツ)
・婆羅樹 (ナツツバキ)
・骨路草 (?)
・松蘿 (サルオガセ)
・萬年草 (コウヤノマンネングサ)

なかなか、渋いチョイスです。今回は、クロモジを取り上げます。
黒モジ 大和本草に云ふ 「黒モジ山中ニ生ス。葉ハ漆ニ似テ榎ニ似タリ。葉ニ大小ノ異アリ。冬ハ葉落皮黒クシテ香気アリ。故ニ是ヲ用テ牙枝トス、皮ヲツケ用ユ。又、ホヤウジト名ク。又其枝ヲ籬(まがき)トス。雅致ヲ助ク。二月ニ小黄花一所ニ多アツマリ開ク秋実ノル。榎ノ実ノ大ノ如シ。肉ニ油アリ。タブノ実ニ似タリ。云云」 此山渓畔嶺上に尤も多し。晩春の頃萌芽発るの時伐採て寺院園庭の籬(まがき)に造ることなり。(『紀伊続風土記』より)
籬(まがき)とは、垣根のことです。
ほかにも、高野山特有のクロモジの使い方として、箒(ほうき)があります。
箒といえば竹が一般的ですが、高野山で竹箒は忌み嫌われていました。
蛇原 伝人いふ此山開闢のとき此処に大蛇ありて人を害す。大師即ち竹箒を把めて是を払ひ終に大瀧に退けるに怨み竹箒にありとて山中今にいたって竹箒を用ひざるなりとぞ。(『紀伊国名所図会』より)

竹の代わりに使われるようになったのが、クロモジというわけです。そのおかげか、「高野にハブ(毒蛇)なし」として、高野の七不思議の一つとして言い伝えられています[3]。蛇は、クロモジの香りを嫌うのでしょうか。いちど試してみたいものです。


〇 参考文献
[1] "紀伊続風土記. 第5輯 高野山部 下" 国立国会図書館デジタルコレクション
[2] "紀伊國名所図会 三編(五之巻)" 国立国会図書館デジタルコレクション
[3] 高野山教報社(編) 島本芳伸(画) "高野山昔ばなし" (1981)