思い出の歌がいつもお気に入りの歌だとは限らない。


苦い思い出がある。


小5の時、ある朝のホームルームでの出来事。


担任の先生が教室に入ってくる前に、校内放送で曲が流されていた。

『アルプス一万尺』

合わせて一緒に歌うようにという指示だった。


真面目に歌っている者もいたが、半数以上はガヤガヤと騒いでいた。


そこへ担任登場。

若い女の先生だったが、もちろん怒鳴られた。


「歌ってなかった人、立ちなさいっ!」


オレもその中の1人だった。


お叱りの言葉の後に

「歌った人から座りなさい。」

と言われた。


立たされている者はそれぞれに歌い始めた。


次から次へと着席しだし、

遂に立っているのはオレ1人になってしまった。


どうしてみんなが歌っている時に一緒に歌わなかったのか、

今、自分自身でも理解出来ない。



…が、歌うしかない。

そこは真面目だった。


ただでさえ人前では緊張するのに、更に叱られて萎縮していたのか、

ボソボソと蚊の鳴くような声で、

『♪ちょうちょが飛んできてキスをする ランラララ ララララ~♪』

…と、何とか歌いきった記憶。


恐ろしく長い時間に感じた。


今その光景を想像すると笑える。