昔 アランの『幸福論』が流行った            

   5000に上るプロポ(哲学断章)

  アンドレ・モーロワが「世界中でもっとも美しい本の一つである」と言っている

  断章なるが故の散文の美しさを持つ

  一時一時の思考である 構えた構成的な文章ではない

  読み切る本ではない 傍らにおいて随意に頁をめくって読む本

  「悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する」

  しかし私にはキルケゴールの「絶望の深淵」があった

 

  私は道化から始まった お笑いではない ピエロである その無言劇

  そして地獄の底の淵のルチフェロの嘆きであった

  幸福の対語は不幸であるが 希望の対語は絶望

  私には希望はなかった

  ただ無意に生き続けること

  太陽と土 都会にあってはコンクリートの地下街の白光

  環境の中の一砂 

 

  しかし今 時間の幅に「幸福」を考える

 

  「ト・アリスト(最高善)はエフダイモニア(幸福)であること」

  「幸福」と「善」

  ソクラテスからプラトン アリストテレス 「善」は語るが神には触れなかった

  ソクラテスにあっては道徳

  プラトンにあっては至高のイデア

  アリストテレスにあっては不動の動者 人間にあって幸福である そして中間論

 

  ソクラテスには法 プラトン、アリストテレスにはポリスがあった

   そして「最高善は幸福であるというとき

  神や魂の不死の存在が付随するのである」と書き加えたのはカントである

 

  神における至福

  私はイエスを礼拝する 父なる神 神の子である 人間の原罪を背負う 裁きの神ではない 救済の神である

  裁きの神ではない 裁きはすでに二項対立 神自らの相対を表す

  魂は自らの重みによって上昇し 下降する そこに位相があった

  プラトンにあっても アリストテレスにあっても 神はその全体 包括神であった

  芥川龍之介の「蜘蛛の糸」

  確かに天国に至る道は針の穴より狭い

  キルケゴールは その絶望の深淵にあって 天上に 一筋の光りを見たのだ

  それは唯一絶対の裁きの神ではない モーゼの契約の神ではない

  イエス・キリストの一筋の光りである

 

  二項対立 ペルシャのゾロアスター教から派生したのだが アレキサンダー大王の東征 

  すでにアリストテレスには二項対立の思想は伝わっていた

  アウグスティヌスにとっても懸案となっていた

  二項対立にあって善と悪

  プラトンの至高善 三位一体にその善を顕す キリスト教の教義の大成である

  神の福音と至福 至高善によって顕わされるのだ

 

  日本神道には神の福音と至福の概念はない

  ただ神の守護 豊作と豊漁 家族安泰である 

  個人にあっては随神の道 直霊である 

  救済ではない 守護である 守護霊 指導霊 それに補助霊

  神前においてその姿勢を正す 和にあって修理固成であった

 善悪の二項対立はない

  狹蠅なす悪しき神々 善神と悪神 萬妖の言葉も見える しかし神々である

  同じ国生みの中の派生であった 清浄と汚濁 国生みの中の派生である  

  「いのち」の表裏ともいえよう 

  四魂一霊は幕末の国学者本田親徳の記述によるが 

  日本書紀

  三輪山大物主神の奇魂と幸魂 そして神功皇后征韓の神託の和魂と荒魂(墨江大神すみのえのおおかみ)

  智と愛と親と勇の解説には私はなじまない

  文字通りの意味である

  崇神天皇の御代には「大物主神の荒魂が災いを引き起こし、疫病によって多数の死者を出した」と記されている

  そして人は心の中にこの四魂をもっているのだ

  その偏り 人の性(さが)となる

 

  大祓詞

  「天乃益人等賀 過犯志介牟種種乃罪事波」

  同じ国生みの中の派生であった ただ直霊にあって随神である

 

  弱い存在 だから神様にすがる 私など縋りっぱなしであった

  縋りっぱなしで生きてきた そしてあるべくして生きてきた

  決して希望する道ではない 不如意の道 しかし精一杯生きてきた

  神との出会い 私の神であり 包括神でもある

  友にも恵まれた 不出来な私を迎え入れてくれたのである

  至福とは縁がない 善とも縁がない ただひたすら生きてきた 神の与えた道

  神様は厳しい 容赦はない ただひたすら生きる 道はおのずから開かれていた

 

  清浄と汚濁 表裏をなして私の心にあるが それでも神様に縋りついて生きている

  「いのち」の表裏 生と死

  伊邪那美命の死 伊邪那岐命の嘆き 根の国への訪問 そこで見たものは宇士多加禮許呂呂岐弖 そして八雷神成居である

  黃泉比良坂 石を置いての別れ そして青人草の生と死である

  ただ伊邪那美命の死 神避りての死 「い」と「ち」の分離 その「ち」の国の描写である

  八雷神 マグマの派生 地神である

  天神と天津神 地神と国津神 天津神と国津神にあって事象の地平面である

 

  単純にゼロ歳児の寝言 その夢に時間の幅 阿頼耶識の夢

  覚めて私の神様への縋りつき  ひと時の中今である

  ただひたすらに生きてきた 運命の神(縁起の神)の敷いた道