1
背中をカッパに抱かれた
ネズミ色のタイツを着て
毛糸の感触だった
胸のふくらみ 腰のまるみ
なまめかしく体温が私に伝わった
だがその目・指先からは殺意がほとばしり
嘴で私の腹を裂き 内臓を露出させて啄ばむのか
「俺は人間の隊長だ 俺を殺したら人間たちが
お前たちを攻めて皆殺しにする」
「私たちは姿を消せるから安心だ」
「火薬を使う」
「そうね」
気をゆるめて私の肩ごしに顔をかしげた女カッパの嘴を
黒ずんで 冷たい 三角形の嘴だった
私はすかさず布を巻いて包んだ
昨夜からの雨はどうやらあがったらしい
明るい日差しが窓こしに部屋にはいっていた
2
濁々の大河が流れる
山肌の岩を削り 丘を削り 野を削り
渦巻いて昇る雲の間を
鷲が けたたましく鳴きながら滑空していた
やがて一切が急速に黒の一転に凝縮し
あとには黒い透明の帳を通した青の色の宇宙の広がりがあって
そこに
銀色の目が
悲しく
輝いていた
3
流れが涸れて
えぐられた砂利の壁が露呈して
川底と函をなしていた
遠く陽は傾いて
灰色の河原に
朱の霞を投げていた
東から暗闇が迫ってきて
朱の霞を蚕食し
函の中を埋めていった
黒い影が歩いてきた
手長猿のような姿だった
4
蜜蜂が飛んできて
美の前で自嘲した
5
桃の缶詰だった
桃の色は
乙女の愛の明るさだ
桃の汁を飲むと
青春に映える乙女の
健康な肉づきを見る味わいがある
ぎしぎしした生活のなりわいを忘れて
暗い影を顔から消して
晴れ晴れした心で生命を想おう
北欧の人々が夏の太陽に裸身をさらすように
貧しさで一杯になった心を
愛の光に思い切り開放しよう
桃
花言葉で愛の幸福
甘く
とろけるような感覚だった