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 薄薔薇色の花が咲いていた

 光りが 自らの結晶に分光してエメラルド
 サファイヤーと輝き 帯と流れる
 その上に茎も短く薄薔薇色の花がのっていて一緒に流れていくのだが
 誰が彼女のまわりに集い そして
 その手を捧げ持つのだろうか

 小鳥の囀りもない 静寂のこの上位界にあって
 諸霊の笑いがにぎやかに感じられた
 あるかないかの質量 に付帯しているほのかに暖かい光りの波打ち
 の中で
 地界から水波女が覗きみていた
 豊かな黒髪が右肩から乳房を経て腰に流れ
 悪戯もやりかねない陽気なのにこの天上の
 光りの自由を羨ましがっていた
 お前は彼女の手をとって踊れると言うのだろうか
 ためらいに冷めたさのない雪の穴に閉じ籠る のならばいっそ
 オノコロ島の岩肌の上に打ち伏して
 思い切り手足をばたつかして泣くがいい
 それは意志においてなされるのではない
 ダルマの帯は愛の粒子で出来ていて
 諸霊は完成の表情に安らいでいた
 思念は因果を投影していた

 白雲界では
 いろいろの念が狂わしく或いは悲しく渦巻いていた
 たまたまの救いが或いは聖者の誕生が
 透明への昇華となって光を発するのだが
 他方では新しい白雲が巻き起こっていた
 盲目に或いはなかば目睲めて人々は念の縄縛と闘っているのだが
 自由意志が人間の特権であり同時に罪の源泉であるのなら
 人々は自らを確立し又自らを裁かなければならない
 
 
 私は彼女に会えた このダルマの帯を踏んだと思ったのに
 あヽ 宇宙の重みよ その重みにはじき出されて
 澄んだ意識が星からこぼれ落ちる きんきんと金属製の音がする
 何時かダルマの帯は流れていって
 薄薔薇色の花は流れていって
 私はプラネタリウムの地球に取り残されていた

 再び一人ぼっちになって 水波女も姿を消していた
 眠れ 眠れ 精一杯の背伸びに疲れ果てた魂を休ませるがいい
 やがて朽ち果てた大地の一粒から涙の水晶が緑の芽を出す時
 傷つき
 すでに死につつある時間の部分
 老骨 朽木の家 から
真実私の空間は直立し
 真実私の時間は蘇るだろうか