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 ピイーヒョロロー
 と唱う此方に自己の真実に生きることが唯一の人生
 と思う泣き顔男の頭に塵が降って積もって
 掻きむしれば白いくもの糸
 サワレ
 死ぬがいい それが宿命なのだ
 の重累に再び生え出でる泣き顔男の細い体
 おろおろと両肘を狭めて
 跳躍する

 ピイーヒョロロー
 と唱う此方に自己を売ってのサーカス芝居
 せめて位置の哲学に自己の主体を見出すがいい
 私はこれこれの役割です
 カチカチ
 「人生から私が学んだものは苦しみと救いと
 あきらめである」とワグナーは言った
 舞台は
 黄昏雲に縁どられていた

 やがて夜にでもなれば道化衣装も映えない
 そこで変化のメフィストフェレス
 堂々と悪魔ぶって
 軽快即妙の弁舌
 安心立命に自らを繕うとしたが
 彼女を殺してしまった
 どうっと流れ出る涙に
 「おお 寧ろ 腐臭鼻衝く皮膚の夜 であるべきだった」
 とわめけどもかえらぬ 時

 この非詩的な言葉を許し給へ
 お前が自由であるならばおまえ自身が原因であることを知らなければならない
 お前自身に耐え切れないのならば一切自性なしとして空に逃げるしかない
 空に逃げて 空になってなにを遊ぼうとするのか
 お前もない 他者もない 物もないところでなにを享楽しようとするのか
 すべて存在は個別において形象され
 個別は関係の因果の中に流されていく

 ピイーヒョロロー
 と唱う此方にいヽんですよ いヽんですよ
 なんせ たいしたことはありませんものな
 なすにまかせ なされるにまかせ
 ようは楽しくなし 楽しくなされ
 苦しい時も楽しく苦しみ 死ぬ時でも楽しく死に
 即ち それぞれの具合を楽しさで彩る
 あきらめの哲学ですな

 彼女を殺してしまった
 どうっと流れ出る涙に
 夢みるはてしない航路の
 白い帆のはたはたとなる

 夜の大海の 闇の大波の 中に
 なおぽつんとひとつお前の白い帆が起立するのならば
 帆をたたむがいい
 傷つき膿んだ肉は夜の海に捨てて抉られた肢体
 船室のドアを閉ざして
 を白い帆で包むがいい
 うずく痛みをこらえ黙して
 「時」をして等差間隙に刻ませるがいい

 ピイーヒョロロー 
 と唱う此方の昼の大海の 光りの大波の
 碧く澄みわたる 白い雲の豊かに流れて
 道化は胸を張って前方を見やっていた