最近、閉店後の厨房で考える時間が増えました。
お客様が帰り、洗い物を終え、静かになった店内でショーケースを眺める時間です。
小さなスイーツ店を続けていると、どうしても毎日ぴったり売り切れるわけではありません。
特にスポンジケーキは難しくて、足りなくても困りますし、多く焼きすぎても困ります。
その日の天気や気温、お客様の流れによって売れ行きは変わります。
だからどうしても少しだけ残ってしまう日があるのです。
以前なら「仕方がない」と思っていました。
けれど最近は材料費も上がっています。
卵も生クリームも砂糖も、どれも大切な材料です。
お店の経営を考えると簡単には捨てられません。
でも食品として販売する以上、安全性も大切です。
その間でいつも悩みます。
そんなある日のことでした。
閉店後、残ったスポンジを見ながら私は考えました。
「このまま終わらせるのはもったいないなあ」
そこで思いついたのが、リメイクスイーツです。
形が少し崩れていても、小さくカットして新しいお菓子に生まれ変わらせればいい。
それなら食品ロスも減らせますし、お客様にも喜んでいただけるかもしれません。
ただ、問題もありました。
リメイク商品にどれくらいの価値をつけるかです。
私の中ではどうしても「元は売れ残りスポンジ」という意識があります。
だから普通のケーキと同じ価格で販売することに少し抵抗がありました。
「リメイクだし、翌日販売で賞味期限は当日限りだし…」
「思い切って他の商品より安くしてみようかしら」
でも一方で、安くしすぎると「価値の低い商品」と思われるかもしれません。
正直かなり悩みました。
新商品を出すときより悩んだかもしれません。
そんな中でまず試作したのが、レモンヨーグルトのひんやりスコップケーキでした。
暑い季節でも食べやすく、スポンジの再利用にも向いています。
【レモンヨーグルトのひんやりスコップケーキ】
材料(2〜3人分)
・スポンジ適量
・プレーンヨーグルト200g
・はちみつ大さじ1
・レモン汁大さじ1
・レモンの皮少々
作り方
①ヨーグルトにはちみつとレモン汁を混ぜる
②容器にスポンジを敷く
③ヨーグルトクリームを重ねる
④これを繰り返して冷蔵庫で冷やす
⑤仕上げにレモンの皮を少し散らす
酸味が爽やかで、夏でもぺろりと食べられます。
もうひとつ作ったのが、スポンジのミルクプリンパフェです。
【スポンジのミルクプリンパフェ】
材料(2個分)
・スポンジ適量
・牛乳300ml
・砂糖大さじ2
・ゼラチン5g
・季節のフルーツ適量
作り方
①牛乳と砂糖を温めてゼラチンを溶かす
②カップの底にスポンジを入れる
③ミルクプリン液を流し入れる
④冷蔵庫で冷やし固める
⑤フルーツを飾る
プリンの柔らかさとスポンジの食感が意外によく合います。
完成した試作品を見ながら、
「これはどうなんだろう」
と半信半疑でした。
作っている本人が自信を持てていなかったのです。
そこで数人の常連さんにお願いして試食していただきました。
「売り物じゃないんですけど、ちょっと味見していただけませんか?」
すると予想外の反応が返ってきました。
「えっ、おいしい!」
「これ夏にいいわね」
「普通に商品化しないの?」
皆さん想像以上に好意的だったのです。
私は正直驚きました。
もっと遠慮した感想が返ってくると思っていたからです。
特に長く通ってくださっている常連さんの一人が、
「こういうの待ってたのよ」
と言ってくださったのが印象的でした。
「最近暑くて大きなケーキは重たいの。でもこういう軽いデザートなら食べたくなるわ」
そう言われた瞬間、目の前が少し明るくなった気がしました。
私は売れ残りをどうするかばかり考えていました。
でもお客様はまったく別の視点で見ていたのです。
夏向きの軽いスイーツ。
手頃な価格。
食べきりサイズ。
それは売れ残りの再利用ではなく、新しい価値だったのかもしれません。
その後、思い切って店頭に並べてみました。
価格も通常のケーキより少し抑えました。
すると意外なことに、予想以上の反応がありました。
「今日はある?」
と聞いてくださる方まで現れたのです。
もちろん毎日たくさん作れる商品ではありません。
元になるスポンジがなければ作れませんし、賞味期限も短めです。
けれど、それがかえって特別感につながったのかもしれません。
食品ロスを減らしたい。
お店の経営も少しでも良くしたい。
そんな気持ちから始めた挑戦でした。
でも気づけば、私自身がたくさん励まされていました。
売れ残りという言葉には少し寂しい響きがあります。
けれど見方を変えれば、まだ可能性が残っているとも言えます。
形を変えれば、別の誰かに喜んでもらえるかもしれない。
それはスポンジだけではなく、人も同じなのかもしれません。
閉店後の厨房でため息をついていた数週間前の私に、「もう少しだけ試してみたら」と声をかけてあげたくなりました。
失敗だと思っていたものが、新しい人気者になることもある。
そんな小さな奇跡を、売れ残りスポンジが教えてくれた気がしています。