雲 「おい。君。」
弟 「雲・・・。」
雲 「そうやって、グルグルグルグル悩んでるじゃないか。」
弟 「悩んでない!考えてるんだ!今必死で考えてるじゃないか!!」
王女 「あなた。」
弟 「なんですか?!」
王女 「あなた。」
弟 「なんですか!なんですか?!なんなんですか!!!!」
青年の手は、絵本を描くのをとめてしまう。
二人のうちの一人。
女 「太陽。見つかりませんね。」
男 「太陽?」
女 「そう。太陽。」
男 「・・・見つかりません。見つかりませんよ。」
女 「太陽。出てますか?」
男 「太陽?出てるよ。」
女 「どこ?」
男 「ここ。」
弟 「ここ?」
女 「影。」
弟 「影?」
女 「太陽に照らされた山は、影を差す。そうして、あなたの居る街まで影を運ぶ。」
男 「太陽に照らされた街は、影を差す。そうして、君の居る山まで影を運ぶ。」
王女 「影は、見えませんか?」
弟 「・・・影?」
王女 「自分の影。」
弟 「自分の影。」
王女 「御覧なさい。」
弟 「・・・。」
王女 「ほら。そこにあるでしょう。あなたの影。」
弟 「僕の、影。」
青年は、自分の足元を眺める。
足元には、自分の影がある。
影は青年に語りかける。
女 「ねぇ。」
男 「はい。」
女 「一人きりですか?」
男 「違うよ。」
女 「誰か、いますか?」
男 「居るよ。居る。」
女 「それは、誰ですか。」
男 「家族もいる。友達もいる。」
女 「太陽、見えますか?」
男 「見てるよ。毎日見てる。」
女 「太陽は、誰ですか。」
弟 「太陽?なんだよ。太陽は太陽じゃないか!」
女 「わかりません。」
弟 「は?」
少年 「すいません。」
弟 「なに言ってるんだお前。」
少年 「僕のいるこの街は、太陽に照らされてるのにいつも影だ。」
弟 「それは・・・それは。」
雲 「どうするね。」
弟 「何が?!」
雲 「このまま、旅を続けるかい?」
弟 「続けない。今、ここで終わらせるんだ。だから、だから・・・。」
王女 「あなた。」
弟 「なんですか!!」
王女 「それは、誰のため?」
弟 「はい?!」
王女 「この旅は、誰のため?」
弟 「この旅は・・・。」
王女 「あなたのためですか?」
弟 「・・・。」
王女 「結局、あなただけのためだったのですか?」
弟 「違う。」
王女 「なら。」
弟 「・・・。」
王女 「顔をあげなさい。」
弟 「・・・。」
青年は、顔を上げる。
そこには、青年の絵本を待つ姉がいた。
王女 「あなた。」
弟 「姉さん。」
王女 「さぁ。決めなさい。」
弟 「王女さま。」
王女 「あなたが、自分で決めるんですよ。」
弟 「王女様!!!」
少年は、ゆっくりと動き出す。
弟 「この花は。姉さんにあげようと思います。」
王女 「そう。」
弟 「はい。この花は、姉さんに。そして、僕の絵本を待ってくれている人たちに。」
少年の手に握られた花は、姉に渡される。
姉は、その花を大事に受け取る。
花は、また命を取り戻す。
弟 「姉さん。」
姉 「何?」
弟 「俺。」
姉 「うん。」
弟 「俺は・・・。」
姉 「弟よ!」
弟 「はい。」
姉 「よく頑張った。」
弟 「はい。」
姉 「だから。」
弟 「はい。」
姉 「これからも頑張りなよ。」
弟 「はい。」
姉は、弟を優しく抱きしめる。
少年は少し大人になった。
そうして、グルグルと渦巻く雲を引き連れて新たな旅に出る。
今度は、何を探すのだろう。
きっと、素敵な心を探すに違いない。
【語り部が語りだす】
人は、太陽を大切にした。
太陽は、命を生み出したから。
人は、太陽を忘れた。
砂に埋もれてしまったから。
人は、月を大切にした。
月が色々と教えてくれたから。
人は、月を忘れた。
月は満ち欠けだけを繰り返すから。
人は、人を大切にした。
人の痛みが解ったから。
けれど人は忘れてしまった。
なにもかもが満たされたから。
満たされたから忘れていく。
満たされたことを忘れていく。
そして。
そうして。
二人のうちは二人。
二人のうちは二人。
女1 「最近。眠れないんです。」
女2 「なんで?」
女1 「朝が、来るんだなって思って。」
女2 「そう。」
女1 「まだまだやらなきゃいけないことがあるんじゃないのかなって思うんです。」
女2 「ないない。」
女1 「あるんじゃないかなって思って。」
女2 「そう。」
女1 「太陽は、始まりの合図ですよね。」
女2 「いつの話よ。」
女1 「今も、変わらず。昔から。」
女2 「そう。」
女1 「夜は、いいところで終わりますよね。」
女2 「そうだねぇ。」
女1 「でも。調度いいですよね。」
女2 「そう?」
女1 「眠らなかっただけなんですよね。」
女2 「そういう考え方もあるよね。」
女1 「太陽、眩しいですよね。」
女2 「そうだね。」
女1 「だから影が生まれる。」
女2 「・・・。」
女1 「影はスーッと延びてきて。私の足元まで。」
女2 「ねぇ。」
女1 「私。」
女2 「うん。」
女1 「辛くなくなりました。」
女2 「そうなんだ。」
女1 「確認。したんで。」
女2 「確認。したんだ。」
女1 「はい。」
女2 「そう。」
女1 「はい。」
女2 「・・・ありがとう。」
女1 「はい。」
二人のうちは二人。
二人のうちは二人。
二人のところに一人。
女3 「あの。」
女1 「あれ。」
女2 「珍しい。」
女3 「ども。」
女2 「どしたの?」
女3 「歌詞。書いてみたんです。」
女2 「歌詞?」
女3 「はい。」
女1 「どんなの?」
女3 「聞いてもらえます?」
女2 「聞く聞くぅ。」
女3 「・・・朝になる度どこかが痛み、消えることのない淋しさを抱え。いつもの道で雑草に出会う。密かな力をもらってた。雑草に出会う君を見て、僕はヒマワリになりたかった。大きく大きく手を広げ、たくさんの陽を受け、照らし、君の歩む一本道をずっと照らし続けるように。あれから何年たっただろう。今ではあの雑草の横にヒマワリが咲いている。」
女2 「わぁお。」
女1 「へぇ。」
女3 「・・・どうですか。」
女2 「恥ずかしい。」
女3 「そうですか。」
女2 「でも。いいんじゃない?」
女1 「いいいい。」
女3 「いいですか。」
女2 「なんか、やる気でるよねぇ。」
女1 「出る出る。」
女2 「あんたさぁ。」
女3 「はい。」
女2 「歌手になりたいの?」
女3 「歌は好きです。」
女2 「そう。」
女1 「確認、した?」
女3 「確認?ですか?」
女1 「確認、する?」
女2 「確認しますか。」
二人と一人で三人。
太陽に手を翳す。
太陽の光を吸い込み、手は赤く染まる。
ギラギラギラギラ輝く太陽。
そわそわそわそわ沸き立つ期待。
まだまだまだまだ終わらぬようだ。
それでも太陽は僕らを照らす。
命はまだまだ続くから。
【舞台は現実に戻る】
演者たちは演じることを止める。
演者は演者として役から離れる。
演者と観客は本番の終わりを認識し、舞台から演者は去り
舞台は終演を迎える。
(幕)