《お笑いタレントの志村けんさん(当時70)が新型コロナウイルスによる肺炎で死去した2020年3月。志村さんにコロナをうつした「犯人」に仕立てられた人がいた。大阪・北新地の「クラブ藤崎」のママ、藤崎まり子さん。朝日新聞の取材に応じ、デマが山火事のように広がっていった恐怖を語った。》



 新型コロナがはやり始めて、お客様や従業員、その家族を感染から守るために、お店を自主休業にすることにしたんです。

 ちょうど、志村さんがコロナに感染したというニュースが流れたのと同じタイミングでした。

 すると私のインスタグラムのフォロワーさんから、「クラブ藤崎 新型コロナ感染者で営業停止」という投稿がツイッター(現X)に出回っていると知らされました。

 《志村さんのコロナ感染と、クラブ藤崎の自主休業。全くつながりのない二つの情報は、SNSの空間で交錯し、ねじ曲げられていった》

 投稿の中に、志村さんのコロナ感染と結びつけて、私が感染源とも受け取れるものもありました。

 私は志村さんにお会いしたこともないのにですよ。

 これで志村さんがお亡くなりになられたら大変なことになると思っていたら、危惧していたことが実際に起こってしまいました。

 国民的なスターが亡くなった悲しみと同時に、これは私が人殺しにされる可能性があると。

 犯人が私だ、って日本中が思う可能性があると頭によぎりました。

 《志村さんにコロナをうつした、というデマは一瞬で拡散され、「死ね」などの脅迫メッセージが藤崎さんのもとへ届くようになった》

 インスタグラムで発信しない以前の藤崎まり子だったら、こうはなっていなかったと思うんです。

 インスタで見たことあるクラブ藤崎のママのお店だ、藤崎って派手らしいよ、となるから面白がって余計に拍車がかかったんだと思います。

 言論の自由って素晴らしいと思うんですけど、一方で誹謗(ひぼう)中傷となると、言葉が剣になったり、刃になったりとか、人を殺せるものに変わってしまう。

 文字は死なないというか、いつまでも踊っていて、一度世に出ると炎と一緒でなかなか消せない。ぼやが延焼していくというか、山火事のように広がって走り出す怖さを感じました。

 《藤崎さんは、うその投稿や拡散をした一部の26人に損害賠償を求める訴訟を昨年、大阪地裁に起こした。今年2月、被告26人のうち2人について、それぞれ12万円の賠償を命じる判決が下された。》

 その人を罰したいっていうよりも、根拠のないことを発信すると、こうなりますよっていうのを世の人に知ってほしい、という思いでした。

 私のデマが広がった時期と前後して、女子プロレスラーの木村花さんがSNSで誹謗中傷を受けて自死されました。

 同じことが続かないように。きれいごとじゃなく、本当にそう思っています。

 ふじさき・まりこ 大阪市出身。大阪・北新地のクラブでホステスやママを務め、2008年に北新地のPR活動などを担う初代「北新地クイーン」に。17年5月、「クラブ藤崎」をオープンした。趣味は全国各地を食べ歩くことで、自身のSNSやグルメサイト「食べログ」でレビューをつづっている。