国に無登録の暗号資産(仮想通貨)「ワンコイン」の共同購入を持ちかけて女性から現金約4千万円をだまし取ったとして、千葉県警は29日、詐欺容疑で、元バルセロナ五輪柔道男子代表の丸山顕志(けんじ)容疑者(58)=福岡県大野城市=を逮捕した。丸山容疑者はワンコインを巡り、「取引が始まれば利益が出る」などと説明し、全国で30人以上から数億円を集めてトラブルになっていたとみられ、県警は経緯を調べる。



逮捕容疑は平成30年7月、すでに購入済みのワンコインのアカウントについて、新たに購入すると噓を言い、千葉県東金市の女性(71)に共同購入を持ちかけて現金4千万円をだまし取ったとしている。県警は認否を明らかにしていない。

県警によると、丸山容疑者は女性に「すごいアカウントが手に入った」「もうかると思う」などと勧誘。総額約4億円を受け取ったといい、詳しく調べる方針。

ワンコインはブルガリアに拠点がある企業が発行した仮想通貨で、運用の実態は不透明。「30年10月に取引所に上場すれば、価値が上がる」などとうたい、運営側が多額の出資を募っていたが、実現していない。

丸山容疑者は1992年のバルセロナ五輪の柔道男子65キロ級で日本代表として出場し、7位となった。昨年11月の産経新聞の取材には一連のトラブルについて「詐欺ではない」と否定していた。

「あなたにも、僕と同じ景色を見せてあげたい」。競技引退後、後進指導のかたわら美容機器やサプリメントを扱うマルチ商法を手がけるようになった丸山顕志容疑者。投資セミナーでは聴衆を前に熱っぽく訴えかけ、巧みな話術と元五輪選手という肩書を武器に10万人規模の会員を獲得した。しかし、華々しい「やり手経営者」として知られた一方、7年ほど前からは培った人脈を活用しワンコインへの投資を執拗(しつよう)にすすめるようになったという。

「元五輪選手ともあろう人が、悪いことをするはずがないと信用した」。大阪府内の50代の女性はこう振り返る。

女性は平成25年ごろ、友人からコーヒー豆を使った健康食品を紹介され、「元五輪選手が売っている商品だ」と説明を受けた。名前は知らなかったが、新聞の切り抜きを見せられて「すごい人なんだな」と感じた。

商品にも興味があったため会員登録し、購入。以降、丸山容疑者が開くセミナーに招かれたり、個別に新しい商材や投資話を紹介されたりするようになった。

女性には聴覚障害があり、同じ障害のある仲間にも商品を紹介していた。丸山容疑者とは普段はLINE(ライン)でやり取りしていたが、ホテルのロビーや喫茶店で面会し、筆談で会話することもあった。ワンコインを巡るもうけ話を持ち掛けられたのは29年秋ごろ。ちょうど、ビットコインの価格が高騰し、「仮想通貨元年」といわれていた時期だった。

手渡された資料には、魅力的な数字が並んだ。ワンコインは30年10月8日に市場に公開される予定で、事前の出資額に応じて2万円なら7万2800円、2730万円なら61億円相当の資産を手にすることができると書かれていた。

筆談で説得され、計約120万円分を購入。しかし、30年10月8日になっても換金できず、丸山容疑者に連絡したが「自己責任」と取り合ってもらえなかった。女性は「そこで初めて詐欺だと分かった。私が紹介して購入した人もいる。申し訳ない」と肩を落とした。

関係者によると、近年丸山容疑者は韓国のカジノでバカラ賭博に熱中しており、集めた金はほとんどカジノで使い果たしていたとみられる。「障害者と高齢者は説得しやすい。ボロい商売だ」。こうこぼすのを聞いた知人もいる。

丸山容疑者が平成8年に立ち上げたマルチ商法の会社名は「丸山スペシャル」。現役時代の得意技から名付けたものだった。10年来の知人は「五輪出場という、普通の人には到底できないことを成し遂げながら、なぜこうなってしまったのか。自分のやってきたことに向き合ってほしい」と話していた。(花輪理徳)

■山顕志容疑者が昨年11月、産経新聞の取材に応じた際の一問一答は次の通り

--ワンコインの上場は実現していない

「詐欺だと分かった上で勧めたわけじゃない。運営が必ず上場すると言っているので今でも信じている」

--元幹部から上場の見込みがないと聞いたのに勧誘を続けていたとの指摘もある

「当時、その人は既にワンコインを離れて別のビジネスを始めていた。私をそちらに引き込むために噓をついたんだろう」

--元五輪選手という肩書で信用を得ていたのでは

「私自身は元五輪選手の経歴を強調した覚えはない。肩書が独り歩きしていると思う」

--被害を訴えている人には

「責任は感じている。被害意識を持っている人には返金に応じたい。教育者の立場にある以上、後ろ指をさされないように生きていきたい」