「俺は前科があって人をさらったことがある。本気になればお前の好きな家族は全員殺せるんだ」

 1月27日、その男の逮捕の一報を聞き、震えが止まらなかったのは元交際相手A子さん。10年前の男の一言を思い出していた。

◆ ◆ ◆次女の元交際相手によって起こった不幸な死



 愛媛県今治市の住宅で、ピアノ教室を営む冨田小雪さん(64)が首を斬りつけられて死亡する事件が起きたのは1月26日のこと。



 翌日、県警は現場から連れ去られた次女(35)への暴行容疑で榊原正道容疑者(34)を逮捕した。榊原は次女の元交際相手だったとみられ、昨年11月には「別れたいけど別れられない」と次女が県警に相談していたことも後に判明。県警は殺人容疑での再逮捕も視野に捜査を進めている。

 不幸な死を遂げた小雪さんは地元ではピアノ教室を開き、子供たちに好かれる、温厚な人柄だった。

「若くして今治に嫁いできた頃からピアノ教室の先生をしていました。地元の演奏会に出たり、少年少女合唱団の指揮をしたりと音楽関係者には知られた存在でした」(近隣住民)

過去には女性を監禁し、逮捕されていた

 一方、事件現場から車で1時間弱離れた西条市に、榊原が事件直前まで暮らした平屋はあった。引っ越してきたのは5年前。

「榊原は半年前まで次女とは別の女性と暮らしていました。改造車に乗りエンジン音が爆音なので一度うるさいと注意したら、素直に従い、すぐに音が出ないように修理した。受け答えも普通で凶暴には見えなかった」(別の近隣住民)

 しかし榊原にはおぞましい過去があった。

「2011年、埼玉県に住む女性の自宅に侵入、殴るなどして1カ月の怪我を負わせたうえ、レンタカーに押し込み10日間監禁したとして、逮捕監禁致傷の疑いで逮捕されています。取調べで動機について『金が欲しかったから』と述べたといいます」(全国紙記者)

 榊原の鬼畜の素顔を垣間見たのが、冒頭のA子さんだ。榊原と13年から数カ月付き合っていたという。

「榊原とは池袋で路上ナンパされて出会いました。最初は優しかったけど、別れる直前は毎日のように殴られていました」

壮絶なDVを受けながらも榊原から離れられなかったワケ

 目の周囲が大きく腫れあがった自身の写真を見せながら、A子さんが振り返る。

「彼は歌舞伎町でホストをやっていた時期もありましたが、ほぼ無職で水商売で働く私のヒモでした。店が閉まるのを毎日外で待っていて、私の日当1万5000円は全額持っていかれた。ダイエットを強要し、『痩せろ』『春雨スープとアロエヨーグルト、どっちか選べ!』と、満足に食事すらさせてくれなかった」

 そんな中、A子さんの妊娠が発覚する。

「『俺は無精子症だから』と避妊をしてもらえず、13年に妊娠しました。堕ろすにもお金がなく、親から借りました。一緒に病院に行くと『受付が長い』とキレて、そのお金を持って勝手に出ていった。後日また親にお金を借り、1人で子どもは堕ろしました」

 壮絶なDVを受けながらA子さんが榊原から離れられなかったのは、“洗脳”の影響が大きかったという。

「彼は『両親に捨てられて施設で育った』と、天涯孤独をアピールするんです。自分がいなければ彼はダメになると、気づけば私が榊原に依存していた。見かねた私の親が13年4月に被害届を出し、彼は逮捕され、強制的に別れました」

「生きられん命だってある」手紙に綴られた身勝手な主張

 取材班は服役中に榊原がA子さんへとしたためた15枚に及ぶ手紙を確認。そこにはA子さんを必死につなぎとめようとする男の身勝手な主張が綴られていた。

 榊原はA子さんへDVを繰り返したのは中絶がきっかけと綴るのだ。

〈俺の昔の彼女が事故で亡くなったの。世の中には生きたくても、生きられんかった命もあるんだよ。それに、これは言ってなかったけど、俺の1番下の妹は産まれて1歳にもなれず亡くなった。心臓が弱わくて。こうやって産まれてきても、どうしても生きられん命だってある。俺にはおろすなんてできん。いくら法律が許したって、それは殺しだよ〉

〈命の大切さを、もっと知っててほしかった。A子にも。俺は、もう自分の周りで、人が死ぬのは嫌だった〉

 命の大切さを綴るその言葉はあまりに軽い。