愛知県警岡崎署(同県岡崎市)の留置場で2022年12月に男性(当時43歳)が死亡した事件で、同署の島崎浩志署長(60)=警視正=は10日間の勾留中、内規に反して一度も留置場の見回りをしていなかった。県警関係者への取材で明らかになった。署トップが男性の容体悪化を確認していれば、署員に踏み込んだ対応を指示するなどして、最悪の事態を免れることができた可能性がある。

 県警は1日、業務上過失致死や特別公務員暴行陵虐などの疑いで、留置担当の警部ら数人を書類送検するとみられる。署長については、巡視状況などから異変を把握できておらず、男性の死亡を予見するのは困難だったとして立件を見送る方針。一方で監督責任を問われ、減給など懲戒処分とされる見通し。

 毎日新聞の情報公開請求で開示された「愛知県警察留置管理規程」は、留置業務管理者の署長と副署長について「積極的かつ不定期に留置施設を巡視することにより施設内の実態を的確に把握する」などと定める。しかし、男性が22年11月25日に公務執行妨害容疑で逮捕されてから、同12月4日未明に保護室の中で動かなくなっているのを発見されるまで、島崎署長は留置場の見回りを一度も行わなかったという。

 男性は搬送先の病院で死亡が確認された。死因は腎不全だったが、食事や水分をほとんど取っておらず、死亡の1週間前から脱水症状を起こしていた。

 ある県警幹部は自身の経験を踏まえ「署長は1日1度は巡視し、留置場でトラブルがないかを確認する。署長の大事な仕事の一つで、長期間、巡視しないのは考えられない」と首をかしげる。別の幹部も「休みの日も巡視している。留置場で何かあれば市民に不安を与えることになり、責任は重い」と話した。

 男性には統合失調症と糖尿病の持病があった。男性の父親は入院させるよう求めたが、署内で検討しているうちに死亡した。

 この問題を巡っては、留置場で暴れた男性を保護室に収容する際、署員が問題行為を繰り返していた疑いが浮上。手錠などによる身体拘束は延べ約130時間に及び、男性を蹴るような様子が監視カメラに残っていた。留置業務の報告書に、医師の所見などを虚偽記載した疑いもある。

 県警は昨年12月、特別公務員暴行陵虐容疑で岡崎署を捜索。関係した署員から事情を聴くなどして捜査するとともに、署幹部らの対応が適切だったかも検証していた。島崎署長は11月上旬、毎日新聞の取材に「本部が調べているため、自分から話すことはできない」と答えた。