それからしばらくして、校長のはからいにより、生徒は全員帰されることとなった。おそらく、混乱を防ぐためだろう。しかしそれが逆に、生徒たちの好奇心を煽るということを、なぜわからないのか。
ミコトは真里と共に家路につきながら、ふと考えた。
そんな時、真里がスマホをいじりながら、ミコトに話しかけてきた。
「このあと、暇?」
「え?」
ミコトは首をかしげた。すると真里が面倒くさそうに事情を説明した。
「あのね、さっきクラスラインで流れてきたんだけどぉ、この後クラスで集まって、話をしないかって」
「え」
話をするって、何を?ミコトは眉をひそめた。また、自分のせいで人が死んだというのに、のうのうとそんな話し合いに参加する気にはなれない。
それを察っしてか、真里は小さくため息をつきながら言った。
「そうだよね、ミコトは参加したくないよねー。じゃあ、アタシだけ行くよ」
「うん」
ミコトは小さく頷いた。
「あんま気落ちしないでよ?アンタのせいじゃないんだから」
そう言うと、真里は走って行ってしまった。
残されたミコトは、一人項垂れながら帰ることとなった。

ミコトの周りで人が死ぬ……しかも、殺されて死ぬようになったのは、ミコトが中学生の頃だ。当時、ミコトは唯一の親友と呼べる存在を殺人で亡くした。そしてその次の日から、不定期だが確実に、殺人が起こるようになった。
おそらく、山本雪乃の死も殺人なのだろう。
もう、慣れた。慣れてしまったが、やはり多少なりとも罪悪感が湧くのも事実。

ミコトは自室に籠もりながら、壁にもたれて頭を抱えた。
両親は長期出張でいない。
いつも殺人が起こるたびに慰めてくれる彼らのありがたみが、今わかった気がした。
「はー」
早く犯人が見つからないだろうか。
ミコトは考える。
犯人が逮捕されれば、少しばかりだがミコトの罪悪感は消え去る。
警察の努力に期待をしながら、ミコトは布団にもぐりこんだ。
気落ちしているときは、寝るに限る。
だがそんなとき、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。
だだっ広い家中に、ドタドタと階段を駆け下りる音を響かせながら、ミコトは玄関へと向かった。
両親だろうか。
ミコトは期待した。
殺人事件を聞きつけた両親が、急遽こちらに戻ってきたのでは?
実際、当事者でもない両親に、そんな早くに連絡が行くはずもないのだが、この時のミコトは精神的に少しまいっていた。
だから、スコープから尋ね人を確認することもなく、易々とドアを開けてしまったのだ。
「パパ、ママ?」
しかし、そこに立っていたのは、見知らぬ青年だった。
彼は、嫌らしい笑みをミコトに向けながら、ジェルで固めたであろう髪を撫で、偉そうに言った。
「どぉうも。僕の名前はヤタニ  ケン。探偵さっ!」
ミコトの本能が告げている。
この青年に関わっては、いけないと。
そしてその直感を信じ、ミコトは勢いよくドアを閉めた。
そして、静かに、迅速に、鍵を締めたのだった。

つづく