その日の夜空は曇っていた。
山本雪乃はその時、自身の通う高校の屋上にいた。
普段ならこんな危ない場所には来ないし、そもそも校則で『立ち入り禁止』をうたわれているのだから、入ることはない。
だが、今日は訳が違った。校則も、危険もどうでもよいほどの用事が、この屋上にあるのだ。

ギギィッ
軋むドアの音とともに、雪乃が後ろを振り向くと、そこには雪乃を屋上に呼び出したあの人が。
「やっと、来てくれた」
雪乃は微笑んだ。
しかし、雪乃の笑顔とは裏腹に、あの人は表情筋をピクリとも動かさない。
「ど、どうしたの?」
雪乃はオズオズと、あの人に近づく。しかしその瞬間、雪乃の視界がグラリと歪んだ。
「?!」
雪乃は思わず地に膝をつく。
するとようやくあの人は雪乃に近づき、たった一言彼女に言った。
「ありがとう」

雪乃の意識はそこで途切れた。