初出勤日。やはり隣から聞こえる喘ぎ声で眠れなかった。寝不足である。

出勤日は早めにバスに乗り、到着。2停留所くらいで、割と近い距離だが、しばらく足が痛むため、自転車は控え、バス通勤にした。

教師として就任するようになってからは、前任の方から引き継ぎを受けたりと、新しい学期を迎えるための準備が忙しく、しばらくは学校に夜遅くまで残ることが続いた。

そして、いく日かの時が過ぎた。

隣から聞こえてくる不快な騒音は相変わらずだったが、疲れからか、いつの間にか気にならなくなっていた。

そして、新学期。
新しい地域で新しい学校、新しい学年を受け持つ責任感と、新たなスタートに少し緊張を感じながらその日は出勤をした。
新しいクラスとの初授業も、問題なく終えることができ、私としてはホッとしていた。

しかし、そんな安心もつかの間。
その日の帰り道、問題は起こった。

4時半。
学校の近くの公園で、学校の生徒と思われる女子生徒が1人木陰でしゃがみ込んでいるのが見えた。
私はその女子生徒に、早く帰るように言おうと近づくと、彼女は勢いよくこちらに振り向いた。

よくよく見て見ると、彼女は私が担任をつとめる4年2組の生徒であった。

たしか、両親が離婚しており、クラスでも目立たない存在の子である。

みると、彼女の足元には怪我をして飛べない小鳥がいた。

私は彼女に近寄り、彼女の隣にしゃがみ込み言った。

「小鳥さんを助けてあげようとしてたの?」

しかし、彼女は下を向いて何も話さない。内気な所があるのだと私は思った。

私はできるだけ、優しい笑顔を浮かべるように心がけながらも

「優しいのね。でも、もう夕方だから家に帰らないとね。」
と言って、彼女の手に自分の手を重ねた。

しかし、彼女は私の手をおもむろに叩くと、顔色一つ変えずにこう言い放った。

「これから、この子のお墓を作ってあげる所なの、邪魔をしないで」

私は、ビックリして、
「でも、まだ生きてるわよ?」
と、言った。

すると彼女は、笑顔を浮かべて

「いいえ。もうすぐ死ぬわ。だから私が、この子を埋葬してあげるの。」
彼女の一言に、私は目を丸くした。

しかし、彼女はそんな私には目もくれず、まだ息のある小鳥を大人の拳以上ある石で叩き潰した。

私は、驚きのあまり何も言うことができなかった。
暫く沈黙が続く。

ふと彼女を見ると、彼女は少女らしい、可愛らしい笑みを浮かべていた。

私は頭が真っ白になった。
「酷い」

私は、自分で呟いたその言葉で我に返り、彼女に何でこんな事をしたのかと、強い口調で叱った。

きつく言わないと、この子はまた、同じことを繰り返す。直感的に私はそう思ったのだ。
しかし、それは間違いだった。
彼女は大声で泣き出し、走り去った。



私は校長室にいた。
中年で小太りな校長は、額に浮かぶ脂汗をハンカチで拭いながら、呆れたように私に言った。

「え〜、もう一回聞きますよぉ?
鹿島麗子先生。
本当にアナタは、生徒を叩いてないのですか?」

こちらを見下した口調に、苛立ちを押し殺しながらも私は必死に否定した。
「暴力など……叩いてなど、いません!!」

しかし校長先生は、まだ私を訝しんだ目で見ながら質問する。
「もう1つ、再度、質問します。
生徒の大切にする小鳥を殺しませんでしたか?」

私はうつむいて答える。
「何回でも言います。
私は、していません。」

校長先生は、頭をかきむしる。
私の拉致の開かない答えに、だいぶイライラしている様だ。

「良いですか、これが本当なら前代未聞ののです。
貴方のクラスの女生徒が泣きながら近所の人に助けを求めたんです。
彼女は、貴方に叩かれた。
大切な小鳥を殺されたと、
近所の人に泣きついて、
貴方も居て、
鳥の死骸もあって。
しかも、学校の目の前の公園で。」

校長生徒は、息を切らしていた。
深く深呼吸すると、落ち着きを払いながら、今度はゆっくりと吐き捨てるように話した。

「でも貴方はしていないと言っている。
私は生徒と部下、どちらを信じたら良いのでしょうか?」

私はため息を付いた。
「ですから、私は、していません。通りかかったら、うちの生徒がいて、私の目の前で彼女は小鳥を殺したんです。信じてください。」

私自身も何が真実か分からなくなっていた。

校長先生が切り出す。
「分かりました。もう、これ以上話しても仕方ありません。
不幸中の幸いか、あちらの親御さんは、訴える気はないようなので。
私としましても、また、新人教師にこれ以上辞められても困りま…………あ、いや……なんでもありません」
校長先生は、黙った。

しばらく沈黙がながれる。
すると校長は、

「こうしましょう。暫く、貴方の教室には誰かをつけましょう。
いいですか、暫くは、あなた一人だけは絶対に駄目です。
ご近所の方には、私が話します。
ここら辺は、まだ、うるさくないご家庭ばかりで、教師としてはやりやすい方だと思うのですがね。まあ、そいう地域は、一度噂話が出ると尾ひれががつく。。。」

「とにかく、貴方も教師なら、行動を慎むように。
変なことには首を突っ込まない。いいですね。」

私は深く謝罪をした。
最悪だ。それにしても、なんであんな嘘をあの子はついたのか。
私は教室にかえる間際、彼女の家庭環境をみるため、職員室へおもむき、彼女の経歴を調べた。
するとそこには、驚くべき事実が記されていた。

続く