妖刀物語 花の吉原百人斬り(東映1960) ★5

内田吐夢監督による、歌舞伎の人気演目「籠釣瓶花街酔醒(かごのつるべえさとのえいざめ)」の映画化ですね。原作は、河竹新七(黙阿弥の高弟)作で、江戸時代に実際に起きた「吉原百人斬り」事件が元になっている。

 

忘れもしない、2008年の夏、渋谷のシネマべーラにて鑑賞。

DVDも出ていなく、「めったに観られないであろう本作が渋谷で上映される」ことを知り、このチャンスを逃すまい!と時間をやりくりして観に行ったことも、良い想い出となっている。

私は幼い頃、兄にくっついて、時代劇を沢山(当時は巨匠内田吐夢監督作などと知る由もなく)観ていたのだが、東映全盛期の頃の映画から受けるインパクトは、映画というものの基礎を学ぶのに充分だったと思っている。やがて洋画を観るようになってからも、優れた(昔の)日本映画と比較したりすることもあるし・・・・💦

 

前置き、長!! キメてる

 

              

キャスト: 片岡千恵蔵  水谷良重(当時) 片岡栄次郎 木村功 三東昭子 千原しのぶ        

    花柳小菊 千秋実 北竜二 原健作 阿部九州男 青山京子  星十郎  沢村貞子  

 

 

 

私の映画備忘録【2008年8月】より  鑑賞後レビュー

いやはや・・・あらゆる意味で、想像以上に凄い映画。 ショッキングでもあり、見応え充分!

*冒頭から、英語字幕が出ているのに驚くと同時に、英語訳を興味深く読みながら観たわ。


江戸時代、互いにコンプレックスを抱えた男と女の出逢いと、すれ違い。

吉原という特殊な世界が絡み、哀しい結末を迎えるのでした。
 

次郎左衛門(片岡千恵蔵)は妻が欲しかった=結婚したかった。 

玉鶴(水谷良重)は太夫という頂点が欲しかった。


冒頭の、隅田川の屋形船のお見合いシーンの美しさに始まり、ラストの桜舞い散る吉原の美しく哀しいシーンで終わります。
 

屋形船でのお見合いとは、互いに別の船に乗っている見合い相手を、船のすれ違いざまに垣間見るというなんとも粋なお見合いである。初めて知りました。風流~!!

その映像の、目を見張る美しさに、冒頭から心を鷲掴みにされてしまいました。

 

全編、内田吐夢の徹底したセット・美術の拘りと、手を抜くことのない撮影に溢れ出る意志。

その「空気」は最後まで観る者に伝わります。いや、見せつけてくる。

 

 

主人公・次郎左衛門は、赤子の時に名刀ナイフと一緒に捨てられており、佐野の絹織物商人の心優しい夫婦が、我が子として育てることにしたのです。次郎左衛門は、生まれつき頬に大きな痣があり、一緒に置かれていた名刀とは、村正の妖刀「籠釣瓶」だったことも、悲劇の一端を担っているような、哀しい物語です。

   

 

 

やがて絹商人としても成功し、謹厳実直で使用人たちにも思いやりのある人間になった次郎左衛門を、流石の千恵蔵が穏やかに「らしく」演じています・・・・・・・ラストに狂うまで。

 

顔の痣が原因で、くり返すお見合いもうまくいかず、それだけが辛いところだ。

江戸に来たのだからと、同業者に誘われて、渋々吉原に足を踏み入れたのが運の尽き!

顔に痣のある次郎左衛門の相手をした玉鶴の言った「心に痣があるわけでなし、気にしない・・」の言葉にいたく感動した次郎左衛門は、(置屋にもおだてられ)、その後、玉鶴に入れあげていくのに時間はかかりませんでした。 

 

  

したたかな玉鶴の言う「心に痣があるわけでなし・・」は、名台詞と言えましょう。

 

玉鶴はと言えば、岡場所(字幕はStreetGirl)上がりで、吉原の芸妓たちからはバカにされ、何としても‘太夫の座’にのし上がって、皆の鼻を明かしてやるという底力漲る強かな女。

やくざの情夫もいるのだ。そんな女のヒトコトに、次郎左衛門はコロリと・・・・ラブ

 

玉鶴に貢いでいき、商売の金にも手を付けるようになる次郎左衛門。

 

いよいよ玉鶴と「夫婦になる約束付き」で、太夫披露目を決め、最後の手段で金を工面する筈だった次郎左衛門だが、うまくいかずえーん金はない。

そこで玉鶴の口から発せられたのは、金だけが目当てだったという酷い言葉だった。 

 

 

太夫襲名披露の花魁道中を目の当たりにした次郎左衛門は、妖刀籠釣瓶を抜き、道中の列の中に斬りこんでいく! もう止まらない!

 

「おのれ騙したな!(字幕はBETRAY)」という怒りも頂点に達し、

「吉原の悪い奴出て来い!出て来~い!」と声を嗄らして叫ぶに至るその姿、千恵ちゃん(片岡千恵蔵)の大熱演、迫力がありました。これがあの大菩薩峠の机竜之介、赤穂浪士の大石内蔵助を演じた片岡千恵蔵とは・・・ある意味、新鮮。

 

このラストシーンは、歌舞伎的演出が目立つが、カメラはす~ッと上がって俯瞰になったり、また近づいたり離れたり、こだわり抜いて、クライマックスを存分に盛り上げる。
男たちを何人も斬りつけた次郎左衛門は、玉鶴を斬りつけようと追いかける。
逃げる玉鶴の帯がくるくると解け、蛇のように地面を這って逃げる。

とうとう玉鶴は黒塀の門で行き止まり、乱れ髪と着崩れた着物姿で黒門に手をかざして張り付く如くは、まさに歌舞伎画。 

しかしながら、これだけのシーンの撮影はどれだけ大変か、想像に難くない。近年の時代劇がチャチに見えてしまうのも、解っていただけるでしょう。

 


それまで穏やかだった男が、ラストに狂喜乱舞で斬りつけるパターンは、同じくリバイバル公開で鑑賞した同監督の「カチンコ血槍富士(1955 片岡千恵蔵主演」

と同じだけれど、

本作・籠釣瓶はコンプレックスが土台となっている分、そして男と女の愛憎MAXゆえ、激しさ倍増、壮絶な印象を受け、やり場のない感情が込み上げてくる。
 

調べると、水谷良重(現2代目水谷八重子)は、この時なんと二十歳そこそこ!これには恐れ入る。流石に初代水谷八重子の娘・・・血か。
太夫になってやるぞ!という玉鶴を好演。ふてぶてしさも然る事ながら、花魁道中の勝ち誇った姿に、どことなく生まれの悪そうな風情も残し、実に見事なのだ。今、これだけの役をこなせる若い女優はいるかい? いないわね~。 


機会があれば、また映画館で見てみたいと思うほど、レベルの高い映画で、私の「古い邦画お気に入りリスト」に入れた。

これだけのものを撮る、内田吐夢は、やっぱりたいしたものだ。

あらゆる意味で、もう、こんな映画は作れませんね。

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参考までに 歌舞伎の「籠釣瓶花街酔醒」では

●冒頭、田舎もんの次郎座衛門が、商いで江戸に来たので、話の種にと吉原ぶらをした帰り際に、吉原一の「八つ橋の花魁道中」に出会うのです。

八ツ橋のあまりの美しさに驚き見とれる次郎左衛門だが、な、なんと八ツ橋が、次郎左衛門に振り返って、ニコリと妖艶な笑みを送り、去っていく(舞台から消えていく)。

次郎左衛門は天にも昇るほどポ~ッとなり、この場面が、八ツ橋に入れ込むきっかけです。

●ラスト、斬りつけるのは、

八ツ橋に愛想を尽かされた次郎左衛門は、名台詞「そりゃあ、あんまり袖なかろぉうぜ」を言い、一旦は国に帰り、数か月後に吉原を訪れ、もう気にしてないからということで、八ツ橋も部屋に来て詫びを入れたりする・・・・この後、割とすぐいきなり、次郎左衛門は斬りつける。

「よく切れるな~、籠釣瓶は」とか言います。 
 

 

カチンコ内田吐夢は、ラストに華やかで美しい花魁道中から悲劇へと映画・・・・でもそれは哀しくも美しいシーン映画として終わりたかったのね~。
 

 

長くなりました。おわります。