トランプは、フクシマが「3000年は戻れない」とは言っていない…!主流メディアがねじ曲げて報じる「イーロン・マスクとの対談」本当の中身

 

最初から悪しざまに捉えようとして

8月12日にX上で行われたイーロン・マスクとドナルド・トランプとの対談は、DDOS攻撃(サイバーアタックの一種)によって開始が約45分遅れるトラブルに見舞われながらも、130万人以上がライブ配信に参加し、10億回を超える再生回数となった。

トランプvs.マスク、X対談 X画面より

トランプvs.マスク、X対談 X画面より© 現代ビジネス

この驚異的な再生回数など、トランプのプラス評価につながることは日本の主流派メディアは極力報じず、トランプのマイナス報道に終始した。

例えばFNNプライムオンラインは「福島県民『私たち住んでますよ』怒り トランプ氏が福島第一原発事故『3000年は戻れない』暴言…マスク氏『福島で野菜食べた』と反論も」との記事を掲載した。

ところが、これは文脈を完全に無視した、相当に問題のある切り取り報道だと言わざるをえない。

こうした切り取り報道はFNNばかりでなく、毎日新聞、読売新聞、共同通信、さらに共同通信の配信を受けている地方新聞やスポーツ新聞などにも広がっている。

 

公正な目で評価しようとしていながら、たまたま誤った解釈をしてしまったというのではなく、最初からトランプを悪しざまに捉えようとしていて、案の定そうなったと見たほうが正しいのではないかと、私は思う。

私の言っていることが正しいかどうか、以下具体的に検証していこう。

トランプは原子力が悪いのは「印象」と言っている

問題の箇所の前で行われている、マスクとトランプの以下のやり取りをまずは確認してもらいたい。

マスク「(原子力発電は)電力源として過小評価されている。考え直す価値のあるものではないか。規制が多すぎてうまく使えていないんだ。」

トランプ「(原子力発電という名前が印象がわるいので)名前を変えなきゃいけないじゃないかな。名前が大雑把すぎるんだ。」

このやり取りから、原子力発電を積極的に見直すべきだというマスクの主張に、トランプは同意したうえで、英語では原子力発電(nuclear electricity generation)が核兵器(nuclear weapon)と同じ nuclear という言葉を使っていることで誤解が生まれていて、名前をイメージのいいものに変える必要があると主張しているのがわかるだろう。

「原子力は危険で、福島事故で3000年も人々は戻れなくなっているとトランプが言った」という、日本の主流派メディアの報道内容とは真逆の話をトランプは行っている。事実に基づかない勝手なイメージが広がっていることが問題を生じさせていて、名前を変えるなどしてイメージを変えることが必要だと、トランプは指摘しているのだ。

以上を確認した上で、では、トランプは問題の箇所を実際にはどう話しているのだろうか。

トランプは「根拠のない話はひどい」と言っている

「約3000年は上陸できなくなるだろうと世間は話している日本で(実際に)起こったことを自分の目で見て、そう思ったかい?」( When you see what happened in Japan, where they say you won’t be able to go on the land for about 3000 years, did you ever see that?)

「約3000年は上陸できなくなるだろうと世間は話している」は「約3000年は上陸できなくなるだろうと言われている」と訳すこともできるが、この部分だけを主流派メディアは切り取っていることがわかるだろう。その日本を見てきてどう思ったのか、実際に噂通りひどいところだったのか、そうじゃなかったのかと、トランプは尋ねているのである。

 

ただし、トランプの話もわかりにくいところがあったということは一応言える。実はこのあとすぐにロシアの話(明確には書かれていないが、チェルノブイリ原発事故のことと思われる)に飛んでいるのだ。

このトランプの発言の後にイーロン・マスクは福島に関して返答しているのだが、間にロシアの話が挟まっているので、流れるように二人の話が噛み合っているとは、確かに言えない。

なお、チェルノブイリ原発についてトランプは「再びあの土地を人々が利用できるようになるのは2000年後だと世間では話している。随分とひどい話だよね」のように話しているのだが、この「随分とひどい話」だというのも、文脈を無視すれば2通りの解釈が可能であることも、やや混乱させるところだ。

1つは、再びあの土地を人々が利用できるようになるのは2000年後だということが随分とひどい話だという理解で、もう一つは再びあの土地を人々が利用できるようになるのは2000年後だという根拠の薄いうわさ話が広がっているのは随分とひどい話だという理解である。

そして文脈に沿って理解するならば、トランプの発言は後者の側、つまり再びあの土地を人々が利用できるようになるのは2000年後だという根拠の薄いうわさ話が広がっていることが随分とひどい話だと語っているのがわかるだろう。

マスクは「安全だって証明したんだ」

ところが主流派マスコミは、なぜか文脈に合わない前者の解釈を採用したうえで、トランプを断罪しているのである。

福島は3000年無理だ、チェルノブイリは2000年無理だという勝手なうわさ話が広がっていることを、トランプは問題視したのだ。

これに対してイーロン・マスクは次のように答えた。

「実は言われるほどひどくはないんだよ。日本で福島(での原発事故)が起こった後、カルフォルニアにいると、核の雲が日本から流れてくるのが心配じゃないかって人々が尋ねてきたりするんだよ。自分はそんなの狂っている。実際福島は危険ですらじゃない。現に自分は福島まで飛んでいって、地元で育った野菜をテレビ番組で食べてみせて、安全だって証明したんだ。」

 

なおその後のトランプの発言は誤解を助長したところもあるから、この点も厄介だ。

トランプは「最近君は元気そうじゃないよな。自分は心配しているんだよ。」と答えたからだ。「君が元気そうじゃないのは福島に行ったからじゃないのか」というわけである。

マスクが慌てて「いや、いや」と言い始めると、続けてトランプは「単なる冗談だよ。」(I’m only kidding, you know)と答えている。

トランプは「福島は危険だ、3000年は住めない」みたいな噂話を広めている人たちの側に立てば、福島に行けば病気になるって話になるけど、そんなことは現実にはないよねということを、こういう噂話を広げている立場をからかって、冗談を交えて伝えているのである。

300年後までに

ちなみに時事通信は、トランプが石油の増産を訴えたことが、マスクと意見を異にしているかのように報じているが、この点についても私は文脈上問題のある捉え方だと感じた。

マスクは次のように語っている。

「気候変動と石油・ガスに関する私の見解は、おそらく多くの人が想定していることとは違うと思うので、一言言っておきたいのだが、この点に関しては、私の見解はかなり穏健だと思う。経済を支えるために必要なエネルギーを供給するために、石油産業やガス産業で懸命に働いてきた人々を中傷すべきではないと思う。もし今、石油やガスの使用を止めるとしたら、私たちはみな飢え、経済は崩壊してしまうよ。」

 

マスクは今すぐ化石燃料から離脱しないと世界は大変なことになるという考えには立っておらず、脱炭素の見地から、石油産業やガス産業を今すぐなくすべきだという世間の考えとは、一線を画していることがわかるだろう。

この上でマスクはこうも語っている。

「アメリカが他国よりも石油や天然ガスを生産するほうがおそらくいいだろう。それはアメリカの繁栄にも役立つことになる。」

この発言から、マスクは石油の増産を求めるトランプと考えが基本的には変わらないことがわかるだろう。

マスクは次のようにも話している。

「化石燃料は無限ではない。そしてリスクもある。自分の言っているリスクは、多くの人が地球温暖化と結びつけて語るものほど高いものではないが。」「二酸化炭素の濃度が上昇して1000ppmを超えるようになると、頭痛や吐き気を催すようになる。今は400ppm水準になっていて、年に概ね2ppm上昇している。だからまだ時間は結構ある。急ぐ必要はないし、農家が農業を止めるとか、ステーキを食べるのを止めるなんてことは必要ない。農家のやりたいようにさせていればいい。」

マスクが言っていることが日本にいると理解できないかもしれないが、欧米では地球温暖化を防止するために、畜産や酪農を中心に、農業を厳しく制限すべきだという考えが広がっているのだ。

そういう極端な脱炭素の議論に与するつもりはないが、化石燃料が有限である事実を認め、また1000ppmを超えるような二酸化炭素濃度では人間は暮らせなくなるから、緩やかに脱炭素を考えていくことも必要なのだという議論を、マスクはしているのである。

なお、マスクの想定しているペースでは二酸化炭素が1000ppmに達するのは300年後ということになる。それまでには脱炭素を実現すべきだというのがマスクの考えだ。

「ゆっくりと取り組めばよい」

これに対してトランプは次のように発言している。

「電気自動車を作るにも、電気自動車に必要な電気を作るにも、発電所では化石燃料が必要だ。だから、現時点では化石燃料から逃れることはできないんだ。いつかは逃れるようになるかもしれないが。(それまでには)あと100年から500年かかるんじゃないかという話だ。」

おそらくトランプは核融合発電などをイメージしながら、その実用化はまだ100年以上先のことだと考えているようだ。そして技術的にそういうことができるようになるなら、脱炭素に向かえることになると示唆していることになる。今慌てて脱炭素に走るのではなく、ゆっくりと取り組めばよいとの考えだ。

ということは、マスクと基本的な考え方は大差ないということになるのではないか。

なお私は日本の主流派メディアばかりを批判しているが、実はアメリカの主流派メディアも同じようなトランプ批判を行っている。

トランプに関する報道が魔女狩りでもするかのように、日米ともに極めて歪んだものになっているのは、今回の事例からもわかるのではないだろうか。