信用買い残が急減、株暴落で追い証多発-「傷んだ個人多い」

長谷川敏郎

日本株相場の歴史的な下落により、個人投資家が信用取引で損失を抱えたポジションの手じまいを余儀なくされ、大きな痛手を受けた。

  東京証券取引所が14日発表した9日時点の信用取引の買い残(東証・名証の2市場合計)は前週比9086億円減の3兆9635億円。減少幅はブルームバーグのデータでさかのぼれる2005年以降で最大となる。

  急減の背景として浮き彫りになったのが、株価の暴落で損失確定の売りを余儀なくされた個人投資家の姿だ。信用取引で買い建てている銘柄の含み損が大きくなった場合、不足分の担保を差し入れる義務(追い証)が生じ、入金するかポジションを解消する必要がある。新型コロナ後に株式市場に参入してきた個人にとって初めての暴落。損失を被り不安から株離れに動けば、株式相場は支えを失いかねない。 

信用買い残の推移 | 単位:10億円

 

 

  松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは、第1週(5-9日)は「株価急落で追い証を回避するための売りや実際の追い証発生に伴う売りが5日と6日に多かった」と振り返り、「レバレッジを効かせた個人はほとんど投げさせられた」と述べた。同証ではレーザーテックなどの半導体関連や銀行株などで影響を受けた投資家が目立ったという。

  5日は東証株価指数(TOPIX)と日経平均株価がともに12%安と、1987年10月20日のブラックマンデー時以来の下落率を記録。半導体製造装置の東京エレクトロンが値幅制限いっぱいのストップ安まで売られるなど、多くの銘柄が急落した。

レーザーテック株の推移 | 個人の人気銘柄も下げが拡大

 

 

  松井証が日々算出している買い残の評価損益率は5日にマイナス25.7%まで悪化、特にグロース市場では同42.7%になったという。窪田氏は「傷んだ個人が多く、回復には一定期間が必要」とみている。

  急落場面では一般的に逆張り志向の個人の信用買い残が膨らみやすい。しかし今回は個人の受けた傷が大きく、すぐに信用ポジションの再構築が進まない可能性がある。その場合、その後の戻り売り圧力は強くならないことになる。