暗殺未遂のトランプ、再選引き寄せる流血の拳…!そのウラで深刻な分断示す「やらせ」Xトレンド入りとバイデンまた「問題発言」

 

現代ビジネス

トランプが掲げた拳は歴史に刻まれたか

6月13日、ペンシルベニア州で銃撃を受けた直後のトランプ前大統領  by Gettyimages

「青、白、赤…伝説だ」――テキサス州のグレッグ・アボット知事が7月13日、X(旧ツイッター)に投稿した内容だ。ペンシルベニア州の選挙集会でトランプ前大統領が銃撃され、耳から血を流した姿を、星条旗に模して表現している。襲撃を受けた後、空へ向け力強く拳を掲げたトランプ氏の姿は、不屈の精神を兼ね備えた強いリーダーとして、米国人の有権者の胸に刻まれたと言えよう。あと数センチ弾道が逸れていたならば、完全に歴史が変わっていたはずだ。なお、トランプ氏を狙った事件は、2016年6月の米大統領選最中にネバダ州ラスベガスで発生した事件から数え、同年11月の銃騒動を含め今回で7回目だ。 【衝撃の一部始終】銃弾は右耳を貫通、血しぶきと共に倒れこんだトランプ氏… ■アボット・テキサス州知事のSNS投稿 暗殺未遂事件を受け、トランプ氏再選の可能性が一気に強まっている。テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、政治から一線を画す姿勢を一転させ、トランプ支持を表明。また、バイデン大統領を批判してきたユダヤ系の著名投資家、ビル・アックマン氏もトランプ支持の立場を明らかにした。賭けサイトでは、トランプ氏が勝利する確率が一時70%へ急伸。トランプ氏が擁護する仮想通貨も買い戻され、ビットコインは7月4日以来の6万ドルを回復した。 過去、暗殺未遂事件に巻き込まれた大統領は、1835年1月のアンドリュー・ジャクソン氏を始め6人。トランプ前大統領が加わり7名となったが、大統領選の最中での未遂事件は米国史上初めてとなる。 ■トランプ氏を狙った7つの事件

警備不備? 下院委員会、SP長官を公聴会に召喚

バイデン大統領は事件を受け、「無事だと聞いて感謝している」との声明を発表。「米国にこのような暴力が存在する場所はない」と批判した。ただ、記者会見では暗殺未遂事件だったのかとの質問に回答せず、「事実確認」を待つ姿勢を強調した。 なぜ、トランプ氏が狙われたのか? 一部の保守派の間では、リベラル寄りのソーシャル・ネットワーク(SNS)での投稿を問題視する。 7月1日、米連邦最高裁判所がトランプ氏の主張を一部認め、在任中の公務に関わる行為には免責を認める判断を下した。この判断は党派色が鮮明となりリベラル派の判事3名は反対、ソトマイヨール判事は意見書で「大統領は今や法の上に立つ王だ」と指摘。リベラル寄りの間では、この意見書を基に、トランプ氏再選で言論が弾圧され、独裁者として振る舞うリスクを警告する投稿が増えたものだ。 ただ、米最高裁の判断は大統領経験者に該当するため、バイデン氏にも当てはまる見通し。トランプ氏は再選されればバイデン氏を訴追する可能性があっただけに、トランプ氏だけに利する判断ではなかったと言えよう。 ■問題とされる投稿 暗殺未遂事件の全容は今後、米連邦捜査局(FBI)が明らかにする方針だ。しかし、英BBCが事件現場に立ち会った人々にインタビューを行ったところ、不審人物を目撃しシークレット・サービスに通報したとの証言が得られた。さらに、ライフル銃を構える男性の写真がソーシャル・ネットワーク(SNS)を駆け巡り、警備不備への批判が高まっている。こうした状況下、米下院監視・説明責任委員会のジェームズ・コマー委員長(共和党、ケンタッキー州)は、シークレット・サービスのキンバリー・チートル長官に公聴会出席を要請。トランプ前大統領銃撃事件に関し、説明責任を求める見通しだ。 ■コマ―米下院監視・説明責任委員長が署名した召喚状

 

「暗殺未遂事件」と報じず、リベラル寄り米メディア

本件については、リベラル寄りメディアの報道にも、疑問符が付いた。CNNは当初「トランプ演説、シークレット・サービスによって中断」と扱っていたほか、ワシントン・ポスト紙も「トランプ、轟音の発生により選挙集会を去る」と報道。NBCニュースも「異音を受けてシークレット・サービスが壇上に押し寄せる」などと、銃撃を示す文言を使用していなかった。 こうした報道の影響か、米国内のX(旧ツイッター)では、「やらせ=staged」という言葉がトレンド入りした。反トランプ、民主党支持層の間で使用されていたとみられ、米国の分断を表す象徴と言えよう。 日本時間7月14日の15時時点で、犯人は明確となっていない。ただ、ニューヨーク・ポスト紙は、犯人はペンシルベニア州在住のペンシルベニア州在住のトーマス・マシュー・クルックと報道。ザ・デイリー・ビーストの記者などによるXでの投稿によれば、共和党員として登録されていたという。 真相は今後、明らかにされることだろう。ただ、トランプ支持者や共和党支持層の間では、バイデン大統領の言葉も、物議を醸している。バイデン氏は、7月8日、大口献金者向けに行った演説で「討論会に関する議論は終わりだ。今こそトランプの正鵠を射る時だ(We’re done talking about the debate. It’s time to put Trump in the bull’s-eye)」と発言。「bull’s-eye」と言えば、標的との意味を持つため、この発言を掘り返され、猛批判を受ける状況。6月27日に行われた米大統領候補TV討論会後にバイデン氏撤退論が急速に強まっただけに、同氏としては立て直しを図ったのだろうが、裏目に出てしまった格好だ。 ■TV討論会後はトランプ氏がリードを拡大 (トランプ氏暗殺未遂事件発生直前の7月12日まで)

政策転換の方向性は共和党の政策綱領に注目

1981年3月の暗殺未遂事件を経て、1984年の米大統領選で再選に臨んだレーガン氏は、当時の民主党モンデール候補の力不足もあって、地滑り的勝利を果たした。あと数で命取りとなっていたにもかかわらず、トランプ氏が力強く立ち上がった姿を見て、強いリーダーを求める米国の有権者が同氏の返り咲きを望んだとしてもおかしくない。米大統領選TV討論会で精彩を欠いた姿に加え、北大西洋条約機構(NATO)サミットでは、ウクライナのゼレンスキ―大統領を「プーチン大統領」、ハリス副大統領を「トランプ副大統領」と言い間違える痛恨のミスを犯してしまった。もはや、「もうトラ」段階ではなく、「確トラ」へ移行したといっても過言ではない。 共和党全国大会が7月15~18日に開催されるが、それ以前に発表された共和党の政策綱領は、今後を見通す上で非常に重要となる。今回の政策綱領では20の約束と10の方針が掲げられているが、主な柱は、1)移民の取り締まり強化、2)インフレ撲滅、3)エネルギー優位性の確保、4)製造業の復活、5)大型減税の実施、6)ウクライナ戦争や中東情勢緊迫化の終焉――が挙げられる。また、2016年と2020年の政策綱領では盛り込まれなかった「世界の基軸通貨たるドルを堅持する」との文言を確認した。 その他、注目は10項目で3番目に掲げる「歴史上最も偉大な経済の構築」では、1)規制緩和、2)2017年の税制改正法の恒久化、3)公正で互恵的な貿易慣行、4)信頼できる豊富で低コストのエネルギー、5)技術革新での王者を目指すーーなどが明記された。1)については財政悪化が懸念され、米金利上昇要因だ。2)についても、移民の取り締まり強化や一律10%の輸入関税導入を受け、格付け会社ムーディーズ傘下のムーディーズ・アナリティクスが物価高となる予想を表明する通り、インフレ加速と米金利上昇懸念をもたらす。 ■ムーディーズ・アナリティクスが分析したトランプ再選後の物価累積効果 ■共和党の政策綱領、10の方針 (出所:カリフォルニア大学サンタバーバラ校) 一方で、5)については、「人口知能(AI)のイノベーションを阻害し、過激な左翼思想を押し付ける危険な大統領令を撤廃する」と明記。その上で、共和党は「言論の自由と人類の繁栄」に根差したAI開発を支持するという。バイデン氏は2023年10月、AIをめぐり安全性確保やプライバシー保護を定めた大統領令を発令しており、これを撤回する見通しだ。 もう一つ興味深い点として、トランプ氏の方針に則り、仮想通貨を擁護する立場を強調した。中央銀行デジタル通貨すなわちデジタル・ドル(Fedコイン)に反対の立場を取り、仮想通貨のマイニングの権利や、デジタル資産を自己管理の権利を守ると明記している。なお、バイデン氏は2022年3月、デジタル資産をめぐる規制枠組みを構築するための大統領令に署名。2024年5月には、金融機関が顧客の仮想通貨を預かる際に、自社のバランスシート内で負債として保有するよう指示した規制撤廃に拒否権を発動し、金融業界や仮想通貨業界だけでなく、超党派からの批判を浴びていた。 仮想通貨と生成AIへのフレンドリーな立場表明は、仮想通貨の支持団体「スタンド・ウィズ・クリプト・アライアンス」の会員100万人の支持獲得、生成AIの普及を目指すテクノロジー会社への共和党支持への転換を促すものだ。実際、民主党の大口献金者だったオープンAIのサム・アルトマンCEOは、トランプ氏暗殺未遂事件を経て、「トランプ大統領(原文ママ)が無事でうれしい!」と投稿していた。なお、バイデン氏に支持表明した全米自動車労働組合の会員数は現役で約37万人、全米鉄鋼労組は引退を含め120万人とされる。加えて、中絶や同性愛に対する不寛容な姿勢を後退させ、無党派層や若手有権者を獲得する道を拓いた。 政治情報サイトのポリティコは、トランプ氏暗殺未遂事件後に「トランプ氏が掲げた拳は歴史に刻まれ、自身のレガシーを不動にする」と題した論説を配信した。その論説通り、トランプ氏が不屈の大統領として、米国史上にその名を刻んだことは間違いな