バイデン氏撤退なら「まさかの人物」が出馬?トランプ氏に圧勝できる人物の名前
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選挙戦に留まるか、撤退するか
バイデンに残された時間は少ない
筆者は今、11月5日に行われるアメリカ大統領選挙を現地で取材するため、どこへ行くべきかを決められずにいる。
バイデン大統領(81)の選挙対策本部が置かれるデラウエア州ウィルミントンでその日を迎えるべきか、それとも、バイデン氏に代わる新たな候補者の地元で結果を待つべきか、不透明だからである。
「私は大統領としてふさわしく、選挙で勝つために適任である人物は自分以外にいない。私はまだ、いい状態だ」
7月5日、アメリカ・ABCテレビとのインタビューに臨んだバイデン大統領は、このように述べて、再選を目指す大統領選挙の選挙戦から撤退しない考えを改めて強調した。
しかし、日本時間の6月28日、バイデン氏がトランプ前大統領(78)との討論会で、言い間違いを連発し、言葉にも詰まる大失態を演じて以降、バイデン氏に対する選挙戦からの撤退を求める声は、日増しに高まりを見せている。
筆者は、バイデン氏が撤退を決断するならば、そのデッドラインは、7月18日あたりになるとみている。
なぜなら、トランプ氏を党の正式な候補者に選ぶ共和党大会が、7月15日からウィスコンシン州のミルウォーキーで始まり、通例では最終日の18日に、副大統領候補が発表されるからだ。
バイデン氏率いる民主党も、8月19日からイリノイ州シカゴで民主党大会を開く予定で、仮に候補者をバイデン氏から他の誰かに差し替えるなら、少なくとも1カ月程度は必要というお家事情もある。
バイデン氏の決断を
もっとも左右するのはジル夫人
バイデン氏自身が、再選に向け意気軒高であったとしても、この先、撤退を余儀なくされる要素は、下記の通り、いくつもある。
○ジル夫人など家族の反対
現状では、ジル夫人らはバイデン氏に戦いの続行を求め、支援する姿勢。
○大口献金者の反対
ディズニー家の財産相続人アビゲイル・ディズニー氏は、「バイデン氏では勝てない」と、バイデン氏の陣営への選挙資金の提供を停止する動きを見せ、慈善家で起業家のギデオン・スタイン氏は、すでに350万ドル(約5億6000万円)の献金を保留。
○主要メディアの反対
バイデン氏と同い年で著名なジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏や、有力紙ニューヨーク・タイムズなどが撤退を求めている。
○民主党議員団の反対
バイデン氏を支える側の民主党議員が公然と身を退くよう求め、集団で撤退を求める動きに発展。
これらのうち、バイデン氏の判断を左右するのは、ジル夫人だ。ジル夫人は、討論会後の6月29日、ニューヨーク州イーストハンプトンで、詰めかけた寄付者に「彼だけがふさわしい人物です」と強調し、ヴォーグ誌8月号では、「私たちは戦い続ける」と明言している。
ジル夫人は元高校教師でバイデン氏の2人目の妻だ。バイデン氏が最初の妻と長女を交通事故で失った後、再婚した相手だ。その後、長男にも先立たれたバイデン氏を精神的に支えてきたジル夫人は、バイデン氏にとって、人生を取り戻してくれた存在であり、何でも話せる唯一無二の親友でもある。
そんな彼女が、「ジョー、もう降りた方がいい」と進言すれば、バイデン氏はその歩みを止めると筆者は見ている。ジル夫人がこれまでどおり「GOサイン」を出し続けるか、それとも一転して勇気ある撤退を勧めるか、選挙の行方は73歳のファーストレディにかかっていると言ってもいい。
民主党と共和党それぞれの
「サマーサプライズ」はあるか
仮にバイデン氏が撤退した場合、最有力となるのは、やはり、カマラ・ハリス副大統領(59)だろう。
他にも、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏(56)やミシガン州の女性知事、グレッチェン・ウィットマー氏(52)などの名前が取り沙汰されているが、トランプ氏との対決を想定した各種世論調査では、いずれも2~5%ではあるが劣勢となっている。
そうした中、トランプ氏に勝つ可能性が極めて高い人物が1人だけいる。バラク・オバマ元大統領夫人のミシェル・オバマ氏(60)だ。
事実、7月2日に発表された、ロイターと調査会社イプソスによる世論調査では、ミシェル夫人とトランプ氏の対決を想定した場合、50%対39%と、ミシェル氏が11ポイントもリードしている。
ミシェル氏自身は、2017年、オバマ氏の大統領任期が終了した際、「私は絶対にやらない」と明言し、2019年には、彼女をバイデン政権の副大統領候補に推すPAC(政治活動委員会)が結成されたにもかかわらず、意欲を見せなかった。今回も、出馬の可能性を繰り返し否定してきた。
ただ、ミシェル氏は、2017年1月20日、トランプ氏の大統領就任式に出席した後、大統領専用機内で「30分間ずっと泣き続けた」と語っている。反トランプという点では筋金入りだ。しかも、民主党の正副大統領候補を決める党大会が開かれる場所は、前述したとおり、中西部のシカゴで、彼女の地元でもある。
つまり、万が一、ミシェル氏が翻意すれば、「民主党にとってはこれ以上ないサマーサプライズになる」(元FOXテレビプロデューサー)ということだ。
対するトランプ氏にとっても、正念場が訪れようとしている。迫る共和党大会で誰を副大統領候補に選ぶかによって勝敗を大きく左右するからだ。
トランプ氏は、バイデン氏との討論会で、いつもの下品な発言を封印し、比較的、おとなしめの発言に終始した。それだけで「以前より大人になったな」と感じさせるのは、得なキャラというしかない。
ただ、岩盤支持層と呼ばれる熱狂的支持者以外に広がりを生むには、副大統領候補に誰を起用するかが重要になる。トランプ氏からすれば、「民主党がバイデン氏のまま」が理想だが、若い候補が立つ事態になれば、今度はトランプ氏が「高齢すぎる」という批判を受ける懸念もある。
どのみち、トランプ政権は大統領主導のワンマン政権になる。副大統領など誰になっても露ほどの影響もないのだが、若手の黒人もしくは女性を据えれば、高齢批判を交わし、多様性を尊重する姿勢も打ち出すことができるだろう。
共和党大会を前に地元紙の記者は語る。
「トランプ氏が、同じようにアメリカ第一主義を掲げるJ・D・バンス上院議員(39)とかではなく、黒人のティム・スコット上院議員(58)、女性のエリス・ステファニク下院議員(39)あたりを指名するようなら、相手がバイデン氏であれ、もっと若い候補者であれ、トランプ氏が有利になると思います」(ミルウォーキージャーナルセンチネル紙記者)
副大統領候補と目される上院議員や下院議員はほとんどが60歳以下だ。そのうち、共和党穏健派も取り込める人物であれば、民主党の候補者がバイデン氏から大幅に若返ったとしても十分戦えるというのだ。
筆者が得た情報では、トランプ氏はすでに3~4人に絞り込んでいるという。黒人や女性、それもトランプ氏とは異なる考え方を持つ人物を指名できれば、それは共和党にとってサマーサプライズになる。
自民党総裁選挙でも
「サマーサプライズ」の可能性
一方、日本で9月に予定される自民党総裁選挙は、投開票日を9月20日とする方向で調整が進みつつある。
9月は、24日から国連で各国首脳による一般演説が始まるため、それより前に選挙戦を終えておく必要がある。また、臨時国会での首班指名選挙や閣僚人事などの日程を考慮すれば、9月20日投開票というのはベストかもしれない。
選挙期間は12日間で、これを考えると、告示日は9月8日になるため、この夏は、「岸田文雄首相続投」か「岸田おろし」かで、自民党内が大きく揺れるのは避けられそうにない。
その構図は、攻める菅義偉元首相(75)と守る麻生太郎副総裁(83)だ。
菅氏は、6月6日、筆者ら報道陣を前に、萩生田光一前政調会長(60)や加藤勝信元官房長官(68)、それに小泉進次郎元環境相(43)と会談したほか、7月1日には石破茂元幹事長(67)とも会談し、公然と「岸田おろし」の号砲を鳴らして見せた。
また、文藝春秋電子版のオンライン番組でも、新谷学執行役員の「総裁選挙では新たなリーダーが出てくるべきだと思うか?」という問いに、石破氏、加藤氏、小泉氏といった首相候補の「手駒」の豊富さを背景に、「そう思う」と明言することで、「岸田首相は交代すべき」との考えをあらわにした。
これに対し、麻生氏は「手駒」がない。6月18日と25日、岸田首相との2回に及ぶ会食は、派閥解消問題や改正政治資金規正法をめぐって生じた亀裂を修復し、茂木敏充幹事長(69)とともに岸田首相の再選を支持するしかないという手詰まり感を象徴するものとなった。
ただ、自民党内で唯一現存する派閥、麻生派の議員の見方は異なる。
「石破さん、高市早苗経済安保相(63)、野田聖子元少子化担当相(63)はいずれも総裁選出馬経験者で60代。能力のある方々ですけど新鮮味がないですよね。麻生先生には手駒がないと言われましたけど、そんなことはないですよ」(自民党麻生派衆議院議員)
麻生氏が目をつけているのは、麻生派に属する河野太郎デジタル相(61)ではなく、旧二階派で千葉2区選出の小林鷹之前経済安保担当相(49)だ。
東大から大蔵省(現在の財務省)に入省し、ハーバード大学大学院を修了し在アメリカ日本大使館勤務なども経験した若手のホープである。
186センチと長身で、「とても優秀な方で、二階派時代は、夫、宮崎謙介とツインタワーと呼ばれカッコ良かったです」(元衆議院議員・金子恵美氏)という声もある人物だ。
「党3役(党幹事長、総務会長、政調会長)のうち幹事長を含む2つ。それから、蔵相(現財務相)、外相、通産相(現経産相)のうち2つ」
これは、かつてキングメーカーとして権勢をふるった故・田中角栄氏が総理総裁の条件として語ったもので、まだ当選4回の小林氏は、経済安保相を1度経験したにすぎないが、財務族の麻生氏が、財務官僚に受けが良く、旧二階派も乗れる小林氏を切り札に、と考えるのは、むしろ自然なことだ。
菅氏vs麻生氏と言えば、バイデン氏vsトランプ氏と同様、「老老対決」の感を否めないが、もし小林氏が立てば、何よりのサマーサプライズとなり、国民の関心度も高まるのではないだろうか。
筆者にとっても、アメリカの渡航先を決める前に「政局の夏」が到来しそうだ。
(政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学特任教授 清水克彦)