「私は30万円の記載ミスで辞めたのに…」元東京都知事・舛添要一が自民党裏金問題を許せぬワケ

 

Photo by Wataru Mukai

Photo by Wataru Mukai© ダイヤモンド・オンライン

派閥は悪なのか。政治資金はなぜ透明化できないのか。「派閥とカネ」に関する素朴な疑問を当事者らにぶつけた。テレビや新聞の報道からは見えてこない問題の真相に迫る。連載の第5回は、元東京都知事の舛添要一氏が、自身の政治資金問題と自民党裏金問題を比較。「今さら抗弁する気はないが…」と言いつつ、ぬぐいされない不公平感を吐露した。(取材・文/ライター 田之上 信)

この連載は、派閥論の名著と名高い渡辺恒雄氏の『派閥と多党化時代』(雪華社)を復刊した『自民党と派閥』(実業之日本社)を事前にお読みいただいたうえで取材をしています(一部を除く)。連載の新着記事を読み逃したくない方は、連載のフォローがおすすめです。メールで記事を受け取ることができます。

――前回、「自民党と派閥」の優れた点として、理想論だけではなく、カネの問題など現実の政治が踏まえられていると指摘されました。舛添さん自身も政治家としてカネに苦労したと先ほど(前編)述べられていましたね。

 私は政治学者ですが、実際に政治家になって大臣まで務めました。要するに政治の理論と実践の両方をやったわけです。こういう人間はほとんどいないと思います。

 日本にも優れた政治学者はいっぱいいますし、みなさん著書などで正しい立派なことを述べられているけれど、実際に政治家になってみると、現実は違うんだよなというのが相当あることがわかるんです。

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Photo by Wataru Mukai© ダイヤモンド・オンライン

――舛添さんご自身、カネの問題で東京都知事を辞任されました。いまの政治資金の問題とは違うのでしょうか。

 まったく違います。誤解が多いのですが、私は政治資金規正法の入りの部分、つまり収入の面では1円の不正もありません。

 政治資金規正法というのは、入りのほう、ワイロしか規制していないんです。だから私は政治資金規正法にはいっさい触れていません。

――舛添さんの政治資金の問題は何がダメだったのですか。

 支出です。これはのちに別の政治家にバカにされたんですけど、なんで1円単位まで全部出したんだって。例えば文房具などを買うと、100円でも領収書をとっておいて、政治資金収支報告書にすべて記入して領収書を全部貼っていくわけです。

 そうすると、経理の担当者だって忙しいからちょっとしたミスが起きる。この飲食代は、先生方と一緒にご飯食べてたから政治活動費だなって判断して、その項目に貼るわけです。私も忙しいから、いちいち確認できない。そういう中に一部間違いがあったんです。

連載「真相証言!派閥とカネ」に登場する大物議員ら

連載「真相証言!派閥とカネ」に登場する大物議員ら© ダイヤモンド・オンライン

 誰か政治家を叩こうと思ったら、政治資金収支報告書をくまなくチェックすれば絶対に何かミスが見つかります。ただ、マスコミにそれを指摘されたら、「間違ってました」と言って収支報告書を訂正すれば済むんですよ。

 ところが私の場合は、国会議員時代の記載ミスを報道されたんです。すでに都知事になっていて、前の政治団体は解散していたので訂正できないわけですよ。その政治団体が続いていれば、訂正して一発で済んでいたわけですが。

 それで結局、支出の記載ミスの金額はいくらだったかというと、5年間で約30万円だったんです。1年間で6万円ほど。それで他の議員にバカにされたわけです。支出の項目を1円単位で細かく記載するからミスが起こって失敗するんだと。支出で辞任まで追い込まれたのは舛添さんしかいないって。

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 そう考えると、今回の自民党派閥の裏金問題は1人何百万という金額です。私は1年間6万円の支出ミスで辞めたのに、自民党議員の中には何千万円も懐に入れていた人間がいるのに辞職しない。

 正直、不公平というか、入るほうをもっと厳しくチェックしろと言いたい。それはおかしいじゃないかと私は怒っているわけですよ。

――なるほど、舛添さんのカネの問題は、裏金とはまったく違うものなんですね。

 違います。とはいえ私もミスはミスですから、今さら抗弁する気は何もないですけど、事実を述べるとそういうことです。

 いずれにしろ、政治にはカネがかかりすぎるので、この問題を解決するには選挙システムを変えるしかないと考えています。選挙制度を全部変える、選挙のやり方を全部変えるほかない。そうしないと志ある若者が無所属で、政治を変えたいと思って選挙に出ようとするのを妨げます。

 

――どのように選挙システムを変えればいいのでしょうか。

 前にも話したように、事務所や秘書などの経費、ポスター、掲示板などムダなカネと労力を費やしていることがいっぱいあります。

 これらはリアルなものですから、たとえばすべてデジタルに変える。ネット選挙ですよ。YouTubeやSNSなんかを使ってやればいいじゃないですか。

 そうすれば少なくともポスターを1枚1枚掲示板に貼るようなムダがなくなります。ネット上で有権者とつながり、やり取りができれば、有権者の声も聞けます。自分の選挙区に事務所をあちこちつくって、秘書を張り付けるようなことも減らせるかもしれません。

 要はいくらでも改革できるんです。でも、日常生活はどんどんデジタル化されているのに、選挙システムの変革は遅々たる動きですね。高齢者が使えないとか、平等性の問題とかいろいろ課題はありますが。

 だけどあんな使い勝手の悪いマイナンバーカードをつくって、一生懸命普及させようとする暇あったら、先にそれをやれって。総務省にはそう言いたくなる気持ちがありますけどね。