日本で一番「説明責任」を求め続ける朝日新聞から「回答期限4分前」に届いた「捏造疑惑記事への説明」の中身

 

 

現代ビジネス

朝日新聞当該記事のスクリーンショット

前編記事『朝日新聞福島総局長の捏造疑惑炎上ではっきりした「不安な空気」を創っては拡散する「風評加害者」の正体』では、朝日新聞の4月21日付記事アナザーノートに見られた、捏造を疑われるなど多数の問題について指摘した。後編では、筆者が5月4日に朝日新聞に送った質問状の内容と得られた対応について具体的に記していく。 【写真】なぜ東電原発事故関連の「フェイクニュース」は野放しのままなのか?

不当な印象操作への「説明責任」

 筆者が朝日新聞に送った質問書は、以下の通りである。  〈 4月21日付の朝日新聞福島総局長大槻規義記者による記事、アナザーノート『「総代で卒業の被災者」その注目がつらい 茶番に苦しんだ子どもたち』において、捏造を疑われる報道がありました。  この報道を巡りSNSでは「炎上」しており、避難や風評を経験しいまも苦しむ福島の被災者などからは重大な事実誤認がある、被災地を傷つける報道被害だという旨の声が殺到しています。事実関係を独自に調査した投稿の一つ、福島県議会の渡辺康平県議の投稿だけでも5月2日時点で53.5万以上のPVとなっており、すでに朝日新聞様の福島県内購読数3.7万部の実に14倍以上も読まれている状況です。  そこで、本件について朝日新聞社としての見解を伺いたく質問書をお送りさせて頂きます。お忙しいところ恐縮ですが、以下11の質問に対して、ご担当者様の部署とご芳名を明らかにした上で、5月10日(金)17時までにメールでの回答をお願い申し上げます。  また、返答の有無や回答内容も含めた貴紙のご対応は、記事や書籍、SNS、学術論文などに記録・掲載させて頂きますので予めご了承をお願い申し上げます。  1.記事には「イベントは町内の復興住宅の花壇に、放射性物質をできるだけ取り除いた除染土を用い、花を植える催しだった」と書かれていますが、渡辺県議が福島県と大熊町、さらに環境省と福島高専などの当事者それぞれに事実を確認したところ、その全てから「花壇に花植えはあったが除染土を用いた事実はない」との回答が得られています。なぜ事実に基づかない捏造報道をしたのでしょうか。その理由をお答えください。  先日は読売新聞記者が紅糀サプリを巡る談話を捏造して諭旨退職、幹部も更迭する事件が起こったばかりです。仮にこれが事実誤認であったとするならば、朝日新聞社では、今回の捏造に対しどのように責任を取るかも具体的にお答えください。  2.これまでSNSで当該記事に対し無数に寄せられている抗議を無視している理由をお答えください。また、この対応は大月総局長個人の判断であるか、朝日新聞としての判断であるかも合わせてお答えください。  3.処理土の最終処分・再生利用の課題解決と合意形成はこれまで当事者である大熊・双葉両町長と議会が繰り返し要望し、これは中間貯蔵施設敷地内にかつて暮らしていた住民2000人を抱える最も深刻な被災経験をした多くの住民たちの悲願でもあります。  事実、複数の調査によって、多くの福島県民、双葉郡の住民も県外最終処分や再生利用の推進を望んでいます。そうした状況を伝えるどころか、地元が反対ばかりであるかのような見解のみを一方的に書いた根拠と理由をそれぞれご教示ください。  4.この記事では、あたかも中立的な第三者であるかのような立場から合意形成がなされていないといいつつ、一方では前述のような一部個人の見解のみにスポットを当てることで、また事実誤認の可能性がある記載を含めることで、民意を誤解させ、事実上合意形成を自ら妨害するスタンスの構成となっています。  問題が残っているからダメだといいつつ、問題を深刻化させる側に加担する。これで読者の耳目を引いてメディアとしての収益をあげる。これは利益相反ではないでしょうか。利益相反という認識があるか否か、イエスかノーかのどちらかで明確にお答えください。  5.この記事には、陰謀論的なナラティブもほのめかされています。新宿・所沢等での再生利用についてネガティブに触れ、「被災者でもある地元の子どもと住民が環境省と組み政策への合意形成を進めようとしている」かのような論調の上、福島高専の先生が「町の人が再利用に合意するように頑張ってほしい」と言ったとまで書かれています。  ところが現実には、前述のように双葉町大熊町では首長や多くの住民が早期の県外処分を繰り返し要望してきた実態があります。中間貯蔵・環境安全事業株式会社法においては、除染等の措置に伴い生じた土壌等について、「中間貯蔵開始後30 年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」ことが国の責務としても明記されています。そうした状況で、「持ち出される側」の町の人に対して再利用の合意を強く求める行為は極めて不自然と言えます。  前述したように、すでにこの記事では「使われていない土を使っていた」かのような捏造がありました。福島高専の先生による当該発言も、本当にあったのでしょうか。  文章からはこの発言の主体がぼかされています。「住民が合意するように」という旨の不自然な発言は具体的に、いつ、どこで、だれが言った発言で、大月記者はどのような方法で事実の裏付けを取ったのでしょうか。お答えください。  なお、当然ですが、「取材源の秘匿」という理屈は成立しえません。あたかも被災地の誰かが不正なことをしているかのような陰謀論じみた仄めかしをすること自体が、被災地に、貴紙がしばしば懸念を表明してきた「分断」を招く故です。この記述は、ただでさえ苦境にあえぐ被災者に対して報道被害を起こす可能性を誘発するものであり、実際にこの記事によって、記事の登場人物や福島高専に疑念をもつ反応も多数でています。  既にこの記事は公表され、社会的影響が生じてしまっています。誰かが不正をしたかのような認識させる事実を公表した以上、取材源と取材方法を明確にし、説明責任を果たす必要があります。もし違うと言うのであれば、その社としての理由を明確に述べてください。  6.上記の記述も事実に基づかない捏造であった場合、記事は福島高専や大熊町の住民の方々をはじめとする多数の被災者の方々の民意に対する全国からの誤解を招くと共に、要望されている早期の県外処分と復興を阻害することにも繋がります。記事を訂正・謝罪するか、あるいはこの記事の作成に関わり責任がある者にいかに処遇するか明確にお答えください。  7.記事内では『「子どもたちのため」「社会のため」にと、大人が子どもの語りを誘導することもある、と指摘する。それは、報道機関にも当てはまる。』『震災をテーマにする限り、視聴者が理解しやすい「子どもたちの像」が必要なのかもしれない。』『子どもの側も、報道機関の発信に協力したり、発信を見聞きしたりしながら、「像」をつくっていった。』との記述がありました。  これらに対し、<朝日新聞による当事者の口を借りた腹話術報道、マッチポンプ・クレイムである。当事子供であった女性をまるで人質のように矢面に立たせ、更に傷付け、その被害をもってさらに問題を深刻化させて記事にする利益相反であるし、記事中の記述をそのまま返せば、『震災をテーマにする限り、朝日新聞が利用しやすい「当事者たちの像」が必要なのかもしれない。先日、処理水の報道を確認したが、やはり海洋放出を懸念し反対したり、風評への不安を語る姿がほとんどだった』とさえ言える「前科」が朝日新聞には大量にある。>との批判も出ています。この批判が正当でないと考える場合、それを覆す具体的な根拠と共に反論をお願いします。  8.別の関連記事についても質問致します。大月記者は2021年9月にも、「風評加害者」って誰? 汚染土利用に漂う不安な空気との記事を書き、返信が624件、引用コメントも含めたリポストが1532件と大炎上状態になっています。その中には、「(風評加害者は)お前だ」「鏡を見ろ」などといった意見論評にあたるものもありますが、「処理土を汚染土と書いたこの記事自体が風評加害」などと事実誤認や不当な印象操作への疑念を呈した反応も多数含まれます。  貴紙はしばしば社会の「分断」に懸念を呈し、政治・行政に「説明責任」を求めます。当然、Xアカウントへのリプライ等は御社側でも見れる状態になっています。しかし、この記事自体が、事実として、火のないところに煙を立てて「分断」を煽り、同時に事実誤認や不当な印象操作への「説明責任」を果たさない大月記者の姿をあらわにしています。これらの批判を無視し続けてきた理由をお答えください。  9.上記2021年記事では風評加害について「いやな空気」などと書いていますが、風評加害という用語と概念は3.11前、それどころか2004年以前から使用されてきた事実があり、学術的な定義付けもされてきた概念であります。これを無視し、偏った見解のようにとりあげたのは何故でしょうか。その理由をお答えください。  10.私の取材の中で、これら記事内にて実名で名指しされた個人に対し、この記事をきっかけにSNSや仕事上で誹謗中傷をされ、社会的評価が低下し、日常生活・業務に大きな被害がでたという告発や懸念の声があがっています。現在、SNS誹謗中傷は多数の自殺者やうつ病等を引き起こす深刻な社会問題になっていることは貴紙でも報道されてきた通りです。そして、報道倫理上それは深刻な問題として捉えられています。  例えば、民放連は2024年4月1日に改正した放送基準「第8章 表現上の配慮」において、「放送内容によっては、SNS等において出演者に対する想定外の誹謗中傷等を誘引することがあり得ることに留意する。また、出演者の精神的な健康状態にも配慮する。」と条文を新設しています。  このような社会情勢の変化がある中で、あえて社会的評価が下がりえる意見論評が含まれる記事内で、特定個人を実名で記述したのか。その理由、そして、その被害の声に対して謝罪するか述べてください。  11.外務省は、『国家及び非国家主体が、日本の政策に対する信頼を損なわせる、あるいは、民主的プロセスや国際協力を阻害するといった目的のために、偽情報やナラティブを意図的に流布する』『ALPS処理水を巡っては、事実とは異なる偽情報を拡散する試みが見られた』とまで明言しています。  これまで挙げた記事の問題点などを根拠に、朝日新聞様は外務省が指摘した勢力と足並みを揃えて復興と問題解決を妨害しようとしている、そのために、ALPS処理水の次には除染土で対立を煽ることを手段にしようとしていると批判する声もあります。  この批判に対してイエスかノーか、また、その意思を証明するために今後具体的にどのような取り組みをするかと共にお答えください。  本件の対応に対しては、他社のジャーナリストも含め高い関心が示されています。お忙しいところ恐縮ですが、ぜひ回答のほど宜しくお願い申し上げます。 〉

 

質問事項への具体的回答無き返答

写真:現代ビジネス

 すると5月10日16時56分、設定した回答期限の4分前に以下のような返答があった。  この回答をSNSで公開したところ、多くの人々から朝日新聞に対する批判が起こった。  朝日新聞への質問書に対し、16:56分。〆切の4分前にPDFで返答が来ました。 取り急ぎコメントや感想は後、以下に内容をそのまま転載します。 https://t.co/RSwMW4Ny7N ― HAYASHI Tomohiro (@SonohennoKuma) May 10, 2024   批判コメントの主な内容は以下の5つに集約される。 ---------- 1・記事の訂正を周知するアナウンスが極度に不足しているとの指摘 2・提出された質問書について、個別の質問に対する具体的な回答を避けたことへの疑問と批判 3・記事の根幹となるはずの当事者の発言も含む多数の箇所が突如改竄された。それらに対する合理的な理由の説明がなかったことで、当事者の存在や発言も含め、記事の多くが捏造ではないかと疑う声 4・誤報の原因究明や再発防止策などの説明責任が全く果たされておらず、吉田証言・吉田調書問題事件の教訓が全く見られないこと 5・紅麴にかかわる捏造報道で関係者を処分した読売新聞との違いと、その理由に対する説明がないこと ----------  著者は上記の問題点を伝えた上で、改めて朝日新聞に以下の内容で再質問書を送り、内容をSNS(X)でも公開した。  〈 1.すでに送った質問書に対し、「まとめて回答」ではなく個別の質問それぞれに対する回答を重ねてお願いします。また前回、個別の回答を避けた理由とこの対応に責任をもつ担当者名と肩書とを明確にお答えください  2.なぜ前回の回答では、その対応に責任をもつ担当者の名前を出さずに回答したのでしょうか。何か理由があるならば、具体的にお答えください  3.なぜ記事の写真を女性の顔写真からそうではないものに差し替え、事実誤認があった箇所以外の部分の複数個所の文言を何ら説明無く改ざんしたのか。その理由を具体的にお答え下さい  4.関連して、新しい記事では、当初の記事から69文字が追加され、72文字が削除されていました。以下、変更箇所の一部について具体的にお伺いします。  <変更前> 受賞をきっかけに取材や講演依頼が相次いだ。高専の5年になったある日、先生に呼ばれた。除染土の再利用を進める大熊町の催しに参加してほしいとの依頼だった。 「大熊町の出身として、町の人が再利用に合意するようにがんばってほしい」。除染土の再利用は福島県内でも疑問の声が上がっていた。  <変更後> 受賞をきっかけに取材や講演依頼が相次いだ。高専の5年になったある日、先生に呼ばれた。除染土の再利用を進める大熊町の催しに参加してほしいとの依頼だった。 除染土の再利用は福島県内でも疑問の声が上がっていた。「大熊町の出身」として、再利用への合意が広がるように言われた。  <変更前> 「結局、地元が合意するという結論があって、それに自分たちが利用されていた。気持ち悪かった」  <変更後> 「結局、地元が合意するという結論があって、それに自分たちが利用されているようで気持ち悪かった」  この改変について、括弧書き内の発言は自然な読み方をすれば当然その言葉を誰が言ったのかは特定可能ですが、この発言者本人に、記事を変更する許可をいつ、どのような手段で取ったのか具体的にお答えください  5.記事の事実誤認を認めた後も、いまなおこの記事に対してこの変更の経緯等に対して多くの疑念が提示されています。そして、この背景の調査・検証と周知が足りないとの声が多数あります。今後、社内で調査・検証をし、その内容を公表する予定はありますか。しないならば、その理由を具体的にお答え下さい  6.改変の結果、当該記事は客観的な論拠に乏しい1人の女性の「主観」に過ぎない状況がより強く疑われるようになりました。なぜ、客観的な論拠と多くの住民の悲願、客観的なエビデンスを差し置き、「止まらない涙」「被災者として注目されることを避けたいと願う」女性の主観を敢えて強調し矢面に立たせたのでしょうか。  大月福島総局長がしたことは、単に、極めて基礎的な事実確認を怠り、報道が守るべき最低限の公平性・公益性を無視したということにとどまらず、若年者・被災当事者のトラウマをさらに深める加害行為にあたる人権侵害ではないでしょうか。本件がもつ報道倫理上の問題について、御社のコンプライアンスとの整合性の中でいかに捉えているのかご説明ください  7.関連して、既に先の質問書でも触れた点ですが、地元多数派の声を伝えず「地元合意の不確かさ」ばかりを訴えることで合意や理解を妨害して問題を解決困難にさせ、その解決困難を以てさらに記事を書こうとする。それをもって購読者からの収益等を得ている。このマッチポンプ型の報道が利益相反にあたるのではないかとの批判も改めて出てきています。この批判を認めますか。これが正当でないと考える場合、具体的な論拠と共に反論をお願いします  8.記事で女性は『「子どもたちのため」「社会のため」にと、大人が子どもの語りを誘導することもある、と指摘する。それは、報道機関にも当てはまる』と語ったとされていますが、今回の朝日新聞報道こそがその際たるものではないかとの批判もあります。この批判を認めますか。この批判が正当でないと考える場合、具体的な論拠と共に反論をお願いします  9.読売新聞で記者が処分された対応との違いを指摘する声も相次いでいます。読売新聞と違い、担当者への処分は行わないのでしょうか。イエスかノーか、さらにその理由もお答えください。  10.今回の記事を「捏造」と指摘する声が数多くあります。捏造であったか、イエスかノーかでの明言をお願いします  以上10点へのご回答をお願いいたします。 〉  朝日新聞社広報部 ご担当者様 先日は質問への回答をありがとうございました。先にお伝えしていた通り、お送りした質問書と合わせて一般公開したところ、非常に大きな反響を呼んでいます。そのほとんどが朝日新聞社様への批判であり、代表的な傾向をまとめると、主に以下の5点に集約されます。… ― HAYASHI Tomohiro (@SonohennoKuma) May 18, 2024 この再質問書は大きな注目を集め、PVは当日夜のうちに朝日新聞発行部数350万を大きく超える442万以上となり、回答期限の22日までには500万PVを超えた。それだけ多くの人が朝日新聞の対応に疑問を持ち、質問書を拡散共有し、事態を注視したということだ。  すると、今度は回答期限となる5月22日17時の1分前、16時59分にメールが届いた。  内容は以下の通りである。 ---------- ・1度目の質問書に続き今回も文責と担当者名を明らかにするよう求めたにもかかわらず、匿名のまま。 ・質問への具体的な返答の一切を避ける。 ・捏造を疑われる根拠を具体的に突きつけられているにもかかわらず、何ら有効な反論が出来ていない ・「」で括った当事者の発言が改竄されたことに当事者の許可や裏付けを取ったかの質問に一切答えず、「分かりやすくするため」などとして済まそうとしている ・マッチポンプ・クレイムによる利益相反の疑いについて何の弁明もない ・これらを覆すための根拠を何一つ示さずに「捏造ではない」の一点張り ----------  わざわざ回答期限の1分前まで待たせて送ってきたこの対応が、他者に対しては日本一「説明責任」を求め続けてきた新聞社が自ら果たした「説明責任」であった。  著者は本件を、これで有耶無耶のまま終わりにはさせない。今後は本記事を以て、朝日新聞社が掲げるガバナンスにある「メディアと倫理委員会」「パブリックエディター制度」などに引き続き訴えていく所存である。