日本が産油国に変貌する?

 

変わりつつある石油と天然ガスの世界図

今回は、石油と天然ガスの世界図が変わりつつある。

地球温暖化対策は急務ですが、だからといって、化石燃料をまったく使わない生活がすぐに始まるとは思えません。

例えばPETボトルが使用禁止になったら大丈夫でしょうか。

石油や天然ガスはこれからも貴重な資源であり続けるでしょう。

しかも、油田やガス田は予想もしなかったところで次々と発見されており、エネルギー地図が大きく塗り替えられようとしているのです。

もちろん、日本周辺も例外ではありません。

中東も他のエリアも掘り尽くされてはいない

石油や天然ガスが産出される地域といえば、いまでも中東をイメージする人が多いと思います。

たしかに、この地域には巨大な油田が集中しています。

その理由としてあげられるのがテチス海です。

約3億年前、地球には「パンゲア大陸」という一つの陸地しかありませんでした。

その後、プレートの移動に伴って徐々にこの大陸は分裂を始め、約2億年前には北のローラシアと南のゴンドワナになります。

といっても完全に独立したのではなく、大きな海を挟んだ北部と南部に分かれていました。

参考までにその時代の地図を作ったので示しておきます。

もちろん大昔のことなので「だいたいこんな感じ」という程度に受け取ってください。

図1:約2億年前の大陸とテチス海 ⁠(筆者作成)

図1:約2億年前の大陸とテチス海

ここで重要なのが大陸を分けるテチス海です。赤道をまたいで大きく広がる、地球の歴史の上でも最大級の「内海」でした。

地図に示した大陸棚の範囲は想像でしかありませんが、奥地に向かうほど温暖で広大な浅瀬があったのは確かです。

そして、ここで大繁殖した植物性プランクトンが石油や天然ガスの主な原料になったというのが、石油地質学の長い間の常識でした。

このため「大きな油田はテチス海と重なる中東にしかない!」と断言する研究者も多かったのです。

ちなみにテチス海の最奥、つまり最も浅く、生物相が豊かだったと考えられるエリアがいまの中東地域になったと考えられています。

ところが、現実にはテチス海と関係がなさそうな場所でも油田やガス田が次々と発見されています。

メキシコ湾からカリブ海にかけても浅瀬があったと考えられるので米国南部やメキシコ、ベネズエラに油田が多いのは説明できるとしても、北海油田のあたりは温暖とはいえません。

さらにいえば、最近、次々と発見されている大陸内部の油田やサハリンの天然ガスなんて完全に的外れでしょう。

つまり、テチス海だけが石油や天然ガスの源ではないことがわかります。

すると、ここから考えは二つに分かれるのです。

説1:テチス海以外でも大量の石油や天然ガスが生まれている

説2:やはりテチス海には勝てず、他エリアの油ガス田は小規模なものだけだ

ところが、二つの説はどちらも同じ結論に向かいます。

説1が正しければ「世界中のさまざまな場所でこれからも新しい油ガス田が見つかる」でしょうし、説2が正しければ「テチス海由来の場所にはまだ膨大な石油や天然ガスが眠っており、巨大な油ガス田はこれからも見つかるはず」となってしまうのです。

つまり、いずれにしろ化石燃料は、当分なくならず、使用に厳しい制限が加わらない限り、エネルギー資源としての価値を保ち続けるのです。

非在来型化石燃料は「無限」にある?

化石燃料の資源量について、もう一つ、「化石燃料のトライアングル」という概念図を示します。

図2:化石燃料のトライアングル ⁠(筆者作成)

図2:化石燃料のトライアングル

最上部にある在来型の石油や天然ガスは、採掘が簡単であるものの、先述したように油ガス田が形成される地中条件が限られるため資源量には限りがあります。

よって中東でも自然に噴き出してくるような油田はもうほとんどありません。

しかし、取りづらくなった石油に水やガスを注入して絞りとる二次回収法や、さらに石油の一部を燃焼させ、そのガスの圧力で油を噴出させるなどの三次回収法などの増進回収法を使えば、まだまだ採取の対象となる「在庫」はあるのです。

最近の油ガス田開発は海底が主流ですが、こちらも、より深海にまで範囲を広げれば資源量は増えていきます。

ただし、陸上の増進回収と同様、採取はどんどん難しくなり、コストも上昇するので、どこまで深追いするのか判断は微妙でしょう。

そして、開発途上の非在来型化石燃料たちもあります。

コールベッドメタン(CBM:CoalBed Methane)は石炭に吸収されて存在する天然ガスで、廃坑に残った石炭層からも回収できることから、採取技術が確立されれば日本でも生産が可能になるかもしれません。

タイトガスは砂岩や石灰岩などに染み込んで保存される天然ガスで、埋蔵量はシェールガスより多いと予測する人がいるほどです。

オイルサンドは文字通り重質油が混じった砂で、オイルシェールは石油の原料であるケロジェンを多く含む頁岩です。

これらの他にも非在来型化石燃料はたくさんあります。

それらを合わせると、資源量は、ほぼ無限といってもいいでしょう。

石油も天然ガスも切り札にはならない

そんなことを考えながら日本列島とその周囲に目を移すと、規模は小さいものの油田やガス田は多くのエリアにありました。

たとえば、関東地方の南部は地下水に大量のガスが溶け込む国内最大級のガス田です。

本当かと思う人はネットで「南関東ガス田」と検索してみてください。

あまり知られてないところでは明治時代に開発された静岡県の相良油田があります。

ここから産出する原油は、そのままで自動車のエンジンを回せるほどクリーンな軽質油でした。

図3:静岡県相良油田の原油。世界でも有数の軽質油で、精製しなくてもエンジンを動かせる ⁠(筆者所蔵)

図3:静岡県相良油田の原油。世界でも有数の軽質油で、精製しなくてもエンジンを動かせる
 

あまり知られていないものの、佐渡島の南西沖に「中東の中規模油田に匹敵する量の石油があるかもしれない」とする調査結果をもとに、10年ほど前、経済産業省が本格的な探査を行っています。

残念ながら油田は見つからなかったものの、日本の領海や排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)内にそれだけのポテンシャルを持った海域が存在するのは確かなのです。

他にも、過去に採掘実績のある常磐沖や秋田沖、北海道の勇払(ゆうふつ)沖なども新たな技術で探査していけば状況は変わってくるかもしれません。

もちろん、地球温暖化対策により化石燃料の利用は減らしていく必要があります。

しかし、そうなると逆に「使用量が減る分、天然ガスくらいは自給できるのではないか」といった希望も沸いてくのです。

産油国や産ガス国が限られ、なおかつ化石燃料が絶対的なエネルギー資源だった時代には、国際関係は石油や天然ガスの動向に縛られてきました。

しかし、新たな油ガス田の発見や、非在来型燃料のシェアアップ、さらに地球温暖化対策による化石燃料の使用制限といった流れにより、世界は大きく変わってきました。

もはや、石油も天然ガスも「強い戦略商品」ではなくなりつつあるのです。そのことに気づき、新たなエネルギー戦略を展開できる国になることが、日本にとって大事なのではないでしょうか。