横浜市や青森県の自民党の地方組織、岸田首相に〝退陣要求〟 改憲断念なら保守派激怒 浜田国対委員長、憲法改正は「厳しい」

 

 

夕刊フジ

岸田首相は地方の声をどう受け止めるのか

岸田文雄首相(自民党総裁)の足元が、いよいよグラついてきた。横浜市や青森県の党の地方組織から〝退陣要求〟が突き付けられたのだ。「政治とカネ」の問題をめぐる場当たり的な対応をはじめ、駐日中国大使の「火の中」発言や、靖国神社での落書き事件への弱腰外交に国民の不満は鬱積している。さらに、岸田首相が掲げた「今年9月の党総裁任期までの憲法改正」についても、国会運営を担う自民党の浜田靖一国対委員長が「なかなか厳しい」との見方を示した。憲法改正は、安倍晋三、菅義偉両政権を強く支えながら、岸田政権とは距離を置く「岩盤保守層」をつなぎとめる〝公約〟でもあった。断念すれば、さらなる「失望」と「怒り」を招きかねない。 【画像】次期衆院選での「政党議席予測」(5月27日時点) 「党の支持率は危機的だ。2009年の政権交代に匹敵する」「自ら身を引く決断をしていただきたい」 衝撃の〝退陣要求〟が飛び出したのは4日に開かれた自民党横浜市連の定期大会だ。横浜市議の佐藤茂会長はあいさつで、「政治資金規正法改正案成立のメドがついた今、トップの総裁自らが責任を取り、身を引く苦渋の決断をしていただきたい」と、岸田首相に退陣を迫ったのだ。 さらに、佐藤氏は「総裁選で、大胆な計画と政治刷新を進められる、強いリーダーシップの新進気鋭の総裁を選び、変革の証しを国民に示さなければならない」と畳みかけた。 青森市で5日、小渕優子選対委員長と党青森県連幹部らとの政治刷新車座対話が開かれた。この席でも、県連側から「事件対応が後手に回っている」「このままでは次期衆院選は厳しい」などと批判が相次ぎ、岸田首相の総裁交代を求める声が出たという。 ある自民党議員は「国政選挙や地方選挙の連敗で、岸田首相の不人気は『実害』として顕在化している。国民と直接接して不満を受け止める地方組織の危機感は爆発寸前。当然の反応だ」と指摘する。 確かに、4月末の衆院3補選で、自民党は候補を立てない「不戦敗」を含め3戦全敗を喫した。さらに、5月末の静岡県知事選など、前後する地方選挙でも惨敗が続いている。 ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「次の総選挙は『岸田首相の顔では戦えない』というのが、地方組織の共通認識だ。例えば、ポスター張りをことごとく断られるなど、現場で動く秘書や運動員たちは『相当危機的』との実感がある。退陣要求が出たのは、岸田首相と距離がある菅前首相のお膝元・横浜であることを加味する必要もあるが、自民党は『地方組織の底力』で勝ってきただけに、無視できない声だろう」と語る。

 

さらに、岸田政権への怒りを加速させそうなのが、「憲法改正」に対する姿勢だ。

前出の浜田国対委員長は5日、23日までの国会会期末を考慮して、「今ある法案をすべて通すための努力を優先するべきであり、(憲法改正は)なかなか厳しい」と記者団に語った。

岸田首相は1月の施政方針演説でも、「総裁任期中に改正を実現したいとの思いに変わりはない」と明言していた。

昨年6月のLGBT法成立で、安倍、菅両政権を支えた「岩盤保守層」の多くが岸田政権から離れた後でも、保守派の一部は「岸田首相は憲法改正をやる気だから」といい、支持を続けた。

自民党は現在、衆院側の改憲勢力5党派が一致する「緊急事態時の国会議員の任期延長」を中心に論点を絞り、条文案作成の協議入りを提案しているが、立憲民主党の反対などにより、見通しは立っていない。

もし、「総裁任期中の憲法改正」を断念するなら、保守派の怒りは簡単には収まらない。

ある保守系の自民党議員は「最大のポイントは、岸田首相の『本気度』だ。憲法改正に必死に取り組むなら、国民への問題提起を含め、主導的な姿勢があって当然だ。だが、そうした〝意欲〟を感じさせる雰囲気は、ほとんどない。岸田首相が、憲法改正に一里塚でも築けなければ、保守層はことごとくソッポを向く」とあきれる。

それでは、今後の政局はどうなるのか。

岸田首相は今国会中(23日まで)の衆院解散を見送る方向で調整に入ったとされる。衆院議員の任期は来年10月30日までで、今年9月の総裁選以降の解散を視野に入れているという。岸田首相は総裁再選をあきらめていないというが、どうなりそうか。

政権交代の危機は間近に

前出の鈴木氏は「岸田政権は、官邸と与党の連携が完全に崩壊し、政権の体をなしていない。地方組織はここにも激怒しており、中央との絶対的な認識の差が生まれている。『政権交代の危機』は間近に迫っており、総裁選に岸田首相が出馬しても、地方票はほとんど獲得できないだろう。岸田首相は、麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長ら、政権を支えた主流派とも距離が生まれている。麻生氏らは自民党大敗への危機感から、解散を必死に止めているが、岸田首相は麻生氏らを信頼していない。結局、政局は岸田首相の腹一つだ。今国会会期末に、野党が内閣不信任案を提出するタイミングが、重大なポイントになるかもしれない」と指摘した。