「岸田首相もお粗末だが後継候補はさらに……」上川外相が首相にふさわしくないワケ

 

 

上川陽子外相 Photo:SANKEI

上川陽子外相 Photo:SANKEI© ダイヤモンド・オンライン

 

ウクライナとパレスチナの問題で

独自性を打ち出せない岸田首相

 日本は20世紀の後半、経済は絶賛され続けたが、政治と外交の評判はよろしくなかった。「経済は一流だが、政治・外交は三流」などといわれていた。

 ところが、安倍晋三首相の登場で、「経済成長は世界最低水準だが、政治は先進国の中で最も安定し、外交では安倍首相が世界で最も尊敬される指導者の一人だ」とすらいわれた。

 だが、岸田文雄首相の下では、「対米追従」と、気前のいい「現金自動支払機」という昔の姿に戻ってしまった。

 岸田首相は、安倍内閣で5年間も外相を務めてたいへん評判は良かった。留学などはしていないが、小学生時代を通産官僚だった父親と共にニューヨークで過ごしたこともあって、英語の発音にはその名残があるし、社交にも不安がない。

 

 対米外交については、バイデン米大統領との信頼関係の構築には大成功している。米国外交を支持し、国内的にも防衛費の増強を、ハト派という印象を生かして、安倍首相のような抵抗を受けることなく実現している。

 先頃の訪米では、国賓待遇の歓迎を受け、議会演説も米国人をどうしたら喜ばせるか入念に練ったもので、良かった。

 しかし、ウクライナとパレスチナの紛争について、欧米との独自性を何も打ち出していないのは、理解に苦しむ。

 ロシアのウクライナ侵攻は明白な国際法違反だから、許すべきではない。ただ、西側が冷戦終結以降、東欧に始まり、旧ソ連諸国までNATO(北大西洋条約機構)やEU(欧州連合)に編入していくのはやり過ぎだ。

 そして、ついには歴史的にロシアと一体だったウクライナまでのみ込みかねない勢いである。しかも、ロシアについては、将来的にも西側の仲間に入れるのは拒否するというのは、理不尽であり、全体的な構図としては、ロシアより西側の方が挑発的であったことは看過できない。

 アジアでは日本などが、中国を国際的な枠組みの中に組み込んでいく努力をしているのと正反対である。

 

岸田外交の唯一の成果は

G7広島サミット

 欧州は、ギリシャ正教との勢力圏争いでロシアを攻めた中世のドイツ騎士団の時代から現在に至るまで、十字軍的な夢から覚めることができず、現実的な将来ビジョンもなく、ウクライナ人を扇動してロシア人と戦わせている。

 また、カナダやメキシコといった米国と歴史的に特殊な関係にある隣国が、中国やロシアと自由意思で民主的に軍事同盟締結や経済統合をしようとしたとき、米国がそれを許すとは思えない。

 パレスチナについても、ハマスの襲撃事件は許されないテロ行為だが、イスラエルのネタニヤフ政権が国際法無視の暴虐を続けているし、ガザの惨状はジェノサイドだと批判されるのも当然だ。国際刑事裁判所の主任検察官がネタニヤフ首相に逮捕状を請求したことも当然である。

 

 欧米のイスラエルへの甘さは、中世以来のユダヤ人差別とホロコーストへの後ろめたさに基づいているが、償いを自分たちではなくパレスチナ人に払わそうとするのは間違いだ。特にドイツがイスラエルの暴虐を批判することをためらっているのは、人道に対する罪を繰り返すことになるだろう。

 これらの問題で、日本が欧米と対立するのは、日米同盟やNATOとの協力関係にある以上難しい。だが、日本は先進国グループの中でいちばん後ろを付いていけばいいし、対立する両者の仲介の労も果たすべきだ。安倍首相ならそうしていただろう。

 ウクライナを支援することで、ロシアに対し、安直な軍事行動に対する代価を払わすことは、台湾や韓国の安全性を増すことにつながると言う人もいるが、あり得ない。ウクライナのように米国の思惑で戦わされるなど嫌だと台湾や韓国の人も思うだろうし、ウクライナ戦争によってアジア経済は大打撃を受けているから、4月の韓国総選挙では与党が惨敗して、中国や北朝鮮を喜ばせている。ウクライナの平和こそがアジアの利益である。

 また、北朝鮮によるロシアへの武器提供と実戦における使用、それに伴うロシアから北朝鮮への技術供与は、北朝鮮製の武器の性能の大幅向上に結び付きそうで、東アジアにとって相当に深刻な問題だ。

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に対する岸田首相の応援は正しいが、夫人を巡るスキャンダルで大統領の支持率は低迷しており、助けても徒労に終わりそうだ。岸田首相はグローバルサウス重視というが、ウクライナとパレスチナについて、極端な対米従属外交を続けるようでは効果は上がらない。

 岸田外交の目玉のはずの、核廃絶は、広島でG7(先進7カ国)サミットを開催したのが唯一の成果だ。

 

首相候補者の評価は

 駄目なのは、岸田首相だけではない。上川陽子外相の外相会合の映像を見ると、何かおどおどしている。外交現場からは、やたら形式的なことに細かいとか、文章を長くするのでメリハリがなくなるとの声があり、一方で、活躍したというエピソードは聞こえてこない。

 一部メディアは持ち上げているが、とてもサミットで大活躍などできそうもない。この人は、法相時代にオウム真理教関係者をいちどに死刑執行して蛮勇を一部からたたえられている。

 それは、安倍首相にとって重要な欧州歴訪直前だった。この訪欧は水害のために中止になったものの、もし訪欧していたら、記者会見でこれを追及されて、成果が台無しになるところだった。

 

 しかも、死刑執行の前夜に首相も交えた会食の場で「大はしゃぎ」していたなど、政治家としての国際感覚はゼロだとしか考えられない。

 ほかの首相候補といわれる人たちも、どうして外交面で首相が務まるというアピールをしたり、勉強したりしないのだろうか。

 そんな中で、茂木敏充幹事長が昨年の大型連休に訪米し、ブリンケン国務長官をはじめ、与野党の要人と会談を重ねたのは称賛に値する。

 河野太郎デジタル相の語学能力や外交能力は称賛すべきだが、父親が外相時代、太郎氏が勤務していた家業の日本端子が有利な条件で合弁事業を展開したことについて、「問題ない」で片付けず、きちんと説明した方がいい。これは河野氏が首相になろうとしたときのアキレス腱(けん)になりかねない。

 一方、麻生太郎元首相のドナルド・トランプ前米大統領訪問は評価したい。トランプ氏との対話チャンネルは一つでも多く持つべきだ。

 公明党の山口那津男代表は、たびたび訪中しているが、中国との関係が難しいとき、公明党と中国との信頼関係は日本外交の財産だと思う。公明党は日中国交正常化の時代から、親中ではあるが、反日・反米の色を持たないというのを原則にしているので、左派の親中派とは違う。エマニュエル駐日米国大使などとの交流もよく知られた通りである。

 また、支援団体である創価学会の原田稔会長が5月10日に、ローマ教皇との会談を実現した。これはいわく付きで、かつてローマ教皇と池田大作会長(当時)との会談の打診があった時に、日蓮正宗の宗門が難色を示し、実現できなかった経緯がある(当時は学会と宗門は対立していなかった)。

 それだけに今回の会談は、一つの区切りになるとともに、池田大作氏が高齢のため2010年から海外訪問をしなくなってから滞っていた、教団トップによる民間外交の本格的な再開ということでも注目される。

 

米国訪問の内容がお粗末だった

立憲民主党の泉健太代表

 野党では、立憲民主党の泉健太代表が昨年の8月、9月にベトナムと米国を訪問したが、米国訪問での内容は、会談相手、会談の成果共にお粗末だった。どこにも行かないよりはましだが、政権を取るつもりなら、外交で即戦力であることを示すために、全力を挙げるべきだし、それができないなら、総選挙の前に交代すべきだ。

 日本維新の会の馬場伸幸代表は、米ワシントンとニューヨーク、台湾、インドネシアなどを訪問している。台湾訪問についてはいろんな評価があろうが、もし、本気で野党第一党になろうというなら、中国や韓国との関係もこれまでとは違った配慮が必要になってくるだろう。

 

 維新の本拠大阪での開催となる25年大阪・関西万博を、馬場代表や吉村洋文知事がどう生かすか、外交面での政権担当能力として活用できるか注目だ。

 なお、政治家とは別に、天皇、皇后両陛下は6月下旬、国賓として英国を公式訪問される予定だ。すでに書いたこともあるが、チャールズ国王とキャサリン皇太子妃が闘病中で、国賓訪問にふさわしい行事が十分に組めるのかどうかが心配だ。

 それに、『英国王室と日本人:華麗なるロイヤルファミリーの物語』(小学館)でも書いたが、平成年間には両陛下(現上皇さま、上皇后美智子さま)が3回も訪英されながら、エリザベス女王はいちども訪日されず、極端な不均衡が生じている。体調を見ながらではあるが、国王夫妻の早期の訪日を実現してもらいたい。

(評論家 八幡和郎)