イスラエルのイランへの報復攻撃が「秒読み段階」に…「戦争前夜」のなか、限界を迎える「日本の八方美人外交」

 

現代ビジネス

報復攻撃は「秒読み段階」

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 イスラエルのイランに対する報復攻撃が「秒読み段階」に入った。最大の焦点は、核兵器の完成が間近に迫っている「イランの核施設を攻撃するかどうか」だ。大打撃を与えれば、イランはまた報復するだろう。中東情勢は一挙に、本格的な戦争前夜の様相を呈してきた。 【画像】韓国・文在寅の「引退後の姿」がヤバすぎる…!  ベンヤミン・ネタニヤフ首相は4月17日、英国とドイツの外相と会談した後、イスラエルの防衛について「明確にしておきたい。我々は自ら決定する。イスラエルは必要なことを、すべてやる」と述べた。イスラエルのメディアは先週末から相次いで、戦時内閣が「イランへの報復攻撃を決定した」と報じていた。首相発言は、これを裏付けた形である。  いまや、イスラエルの反撃は、あるかどうかではなく、何を攻撃するか、が焦点になっている。攻撃対象とその方法は、他国にあるイラン革命防衛隊基地のようなソフトな目標から、イラン国内の軍事施設、電力やパイプラインなどのインフラ施設、重要人物の暗殺まで、幅広く検討されている模様だ。  もっとも強硬なのは、イランの核施設に対する攻撃である。  イランには、ブシェール原子力発電所のほか、秘密裏に建設したナタンズのウラン濃縮施設、アラクの重水製造施設などがある。4月5日と12日に公開したコラムで紹介したように、国際原子力機関(IAEA)によれば、秘密開発を続けてきたイランは「その気になれば、5カ月で13個の核爆弾を作れる」段階に達してしまった。  イスラエルは、難しい選択を迫られている。  報復攻撃するとしても、核施設を無傷のままで許してしまえば、イランはいずれ核兵器を完成させ、いよいよ手を出せない状態に追い込まれかねない。かといって、核施設を攻撃すれば、逆上したイランは本格的に反撃して、全面戦争に発展する可能性が高まる。  そうなったら、イランの影響下にあるレバノンの軍事組織、ヒズボラやイエメンの民兵組織、フーシ派などもイスラエルに全面攻撃を仕掛けるだろう。戦争の目標だったガザのイスラム過激派、ハマスを完全に殲滅しきっていない段階で、そんなイランや手下との全面戦争は、できれば避けたいところだ。

 

「報復攻撃すれば、米国は協力しない」

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 米国など同盟国、同志国からの圧力も強まっている。  ジョー・バイデン米大統領はネタニヤフ首相に対して、自制を求め「報復攻撃すれば、米国は協力しない」方針を伝えている。13日夜から14日にかけてのイスラエルに対するイランのミサイル・ドローン攻撃を「99%」迎撃できたのは、米国はじめ英国、フランス、ヨルダン、サウジアラビアなどの協力もあったからだ。  米国では、民間人に多くの犠牲者を出しているイスラエルのガザ攻撃に対する批判も強まっている。米国の制止を振り切って、イスラエルが本格的に報復すれば、国際社会で孤立しかねない。イスラエルは米英などを離反させず、しかし、イランには効果的な懲罰を加えるギリギリの選択を迫られている。  核施設に対する攻撃は、技術的な難しさもある。  イラン中部にあるナタンズのウラン濃縮施設は地下100メートルの地中深く、しかも周囲は山岳地帯という場所に作られている。完成したら「イスラエルや米国の爆弾でも貫通させるのは難しい」と言われている。  そんな施設をどうやって攻撃するのか。注目されているのは、サイバー攻撃だ。  ナタンズの施設では、2021年4月10日に原因不明の停電が発生し、最新の遠心分離機に障害が起きた。イランは「イスラエルによるテロ」と主張し、真相は不明だが、イスラエルの複数のメディアは「モサドによるサイバー攻撃」と指摘していた。  イスラエルは、今回も同様の「サイバー攻撃をするのではないか」と見られているのだ。核施設への空爆は、1981年6月に建設中だったイラクの原子炉を戦闘機と爆撃機で攻撃した例がある。

サイバー攻撃か、はたまた暗殺か

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 要人暗殺も前例がある。  2020年11月27日、車に乗っていたイランの核兵器専門家が、何者かにリモート操縦された機関銃で殺された。イランは「イスラエルの仕業」と主張し、米国でも「背後にイスラエルがいる」と報じられた。  21年9月18日付のニューヨーク・タイムズは、これ以外にも、イスラエルの情報機関は「ミサイル開発チームの将軍と16人のメンバーを殺害した」と報じている。米国もドナルド・トランプ政権時代の2020年1月、イラン革命防衛隊の司令官だったカセム・ソレイマニ氏を空爆で殺害している。  これらの選択肢のうち、どれを選ぶか、あるいはどんな組み合わせにするか、は分からない。だが、「何もしない」という選択肢はおそらく、ないだろう。  米シンクタンク、民主主義防衛財団(FDD)の最高経営責任者(CEO)マーク・ドゥボウィッツ氏らは、4月13日付のニューヨーク・ポスト紙への寄稿で「バイデン氏のイスラエル支持をめぐる動揺は、イランの最高指導者、アリ・ハメネイ師を大胆にさせただけだ。イスラエルが反撃しなければ、イランの攻撃を常態化させてしまう。イスラエルがイランの核施設を攻撃するチャンスだ」と主張した。  同じく、15日には英デイリー・メールで「イスラエルが意味のある対応をしなければ、イランは米国の要求に屈した弱さと降伏の表れとみるだろう。イスラエルの抑止力を回復するには、ハメネイ師と政権に深刻な打撃を与えなければならない」と指摘した。  ネタニヤフ首相は、こうした強硬派の主張に耳を傾けているのではないか。

 

「八方美人外交」も限界か

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 日本についても、触れておく。  今回、イスラエルとイランが衝突したのは、イスラエルが4月1日、シリアにあるイランの領事館を空爆し、司令官たちを殺害したことが発端だ。イランは報復として、13日から14日にかけて、イスラエルを300発以上のミサイルやドローンで攻撃した。まさに、報復が報復を呼ぶ連鎖の形になりつつある。  上川陽子外相は14日、イランの攻撃について、外務省のホームページに「我が国として、今回の攻撃は、現在の中東情勢をさらに一層悪化させるものであり、深く懸念し、このようなエスカレーションを強く非難」する、という談話を発表した。  欧米の首脳たちはそろって、いち早くイラン非難を発信していたのに、岸田文雄首相は14日夜の時点で何も語っていなかった。イランに遠慮しているのである。岸田首相は日米首脳会談で「日本は米国のグローバル・パートナー」と胸を張ったばかりだが、たちまちメッキが剥がれてしまった。  イスラエルが報復したら、今度はイスラエルを強く非難するのだろうか。だが、欧米は日本に歩調を合わせないだろう。日本の「八方美人外交」も、いよいよ限界を迎えつつある。