中国で「出国禁止」多発 外国企業幹部が足止め・・

 一方、岸田政権は中国・米国へ日本を売り渡している・・

 

【香港】中国在住のある米国人企業幹部は6年前、米サンフランシスコに出張するため、いつも通り上海浦東空港を訪れた。出国手続きを始めた途端、中国を離れてはいけないと告げられた。

「何をしたかわかっているだろう」。国境管理を担当する職員はこの幹部に告げた。別の空港でも出国を試みたが、同様の反応だった。

この幹部は以後ずっと中国に足止めされている。彼は出国禁止の対象者になっていた。中国の裁判所が用いるこの法的手段によって、多くの外国人企業幹部が中国国内に閉じ込められ、大抵はいつ出国を許されるのか分からない状況だ。

出国禁止の大多数は、刑事告訴ではなく民事訴訟(通常はビジネス上のトラブル)に巻き込まれた人に適用されている。訴訟に対して個人的な責任がない外国人や係争が起きる何年も前にその会社を辞めた外国人でさえ出国禁止の対象となっている。

 

中国政府は、外国企業や実業家を呼び込もうと、ほほ笑み外交を仕掛けているさなかだ。昨年、外国企業に対して一連の家宅捜索や拘束が行われたことで、幹部が敬遠するようになり、同国でビジネスを行うリスクについて深刻な疑問が突きつけられている。

だが政府は、中国から出国できない可能性という、同国で働く外国人が直面する重大なリスクの一つにまだ対処していない。

冒頭の企業幹部が経験したことはその典型例だ。彼は欧州企業の上海子会社の社長を務めていた。2016年、本社から上海拠点への送金が途絶え、月給が支払えなくなった。彼は中国国内で資金調達を試みたものの失敗した。従業員の多くが訴訟を起こし、少なくとも1人が裁判所にこの幹部の出国禁止を求めた。

中国では長年、出国禁止が発令されてきた。銀行幹部や弁護士、企業経営者を巻き込んだ注目度の高い事案も起きている。だが出国禁止がどの程度広がっているかや、中国の裁判所がいかにささいなことでこの措置を命じているか、その詳細は謎に包まれている。

ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が数百万件の文書を含む裁判所のオンラインデータベースを検索したところ、外国人が出国禁止になった37件の事例が見つかった。弁護士らによると実際の数ははるかに多く、学術調査では150件余りの事例が確認されている。

裁判所のデータベースに掲載された事例では、支払いを滞納したり、債務の返済期限を守れなかったりして出国を止められた複数の米国人や、ドイツ人の共同経営者と出資配分をめぐり意見が対立した台湾人の飲食店経営者、従業員に対する7000ドル(約100万円)の支払い義務が原因で数カ月出国できなかったイラン人実業家などがいる。WSJが取材を申し込んだ人々はコメントを控え、自らの経験を認めることすら拒否した。最終的に中国を出られた人々でさえそうだった。

中国で「出国禁止」多発 外国企業幹部が足止め

中国で「出国禁止」多発 外国企業幹部が足止め© The Wall Street Journal 提供

ビジネス上のトラブルか

ハリー・クリフォード・ビラーズ氏は、完璧なタイミングで中国に移住したはずだった。

2001年に世界貿易機関(WTO)に正式に加盟した中国は、世界を相手にする貿易大国としての地歩を固め、数十年に及ぶ経済成長の時代に突入した。ビジネス向け交流サイト「リンクトイン」のプロフィルによると、ビラーズ氏は同年に中国に拠点を移した。

同氏が最終的に落ち着いた先は、オーブンや暖炉のメーカー「SureHeat Manufacturing Suzhou」だった。だが2014年にこの会社は倒産。その2年後、ビラーズ氏は出国禁止の身となった。

中国の法制度では、いかなる一般的な民事や商業上の紛争でも、原告は被告に対する出国禁止措置を裁判所に求められる。これは通常、評決が下された後の話だが、必ずしもそうとは限らない。被告が企業である場合、企業の法定代理人や責任者、上級管理職を対象として出国禁止を命じることもできる。

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出国禁止の対象者は、全国データベースに名前が掲載され、全ての空港や駅で警察がそれをチェックする。本人が旅行や出張をして初めて出国禁止対象だと知るケースも多く、場合によっては足止めされる理由すら告げられない。

中国で外国人が民事紛争に巻き込まれると、出国禁止によって力関係が変化し、一方の当事者が非常に強い立場となる。カリフォルニア州立工科大学サンルイスオビスポ校のジャック・ロードセン教授(商法・公共政策学)はそう指摘する。

業績好調な企業の幹部や多額の借金を抱える人物が出国禁止になることもある。この問題をよく知る複数の関係者によると、野村ホールディングスの香港拠点で中国投資銀行業務を統括する王仲何(チャールズ・ワン)氏は、昨年の出張後に中国本土を離れられなくなり、調査に協力していたという。米リスク助言会社クロールの幹部マイケル・チャン氏も昨年、中国本土からの出国を禁じられたとWSJは以前報じた。

高まる恐怖

出国禁止は、中国の法制度において企業と個人の責任がいかに混同され得るかを示している。ハリス・スリウォスキー法律事務所のパートナーで、国際法を専門とするダン・ハリス氏はそう指摘する。中国は有限責任会社として企業を運営することを認める一方で、出国禁止に関しては企業の責任がそのまま個人の責任とみなされる場合がある。

中国が出国禁止を発令することは、米外交官の頭痛の種となっており、米中間で対立している多数の問題に含まれる。だが米政府が出国禁止に異議を唱えるための選択肢は限られている。たとえ比較的わずかな借金で米市民が巻き込まれたとしても、だ。

「基本的に何も手は打てない。出国禁止は中国では合法だからだ」とハリス氏は言う。「借金の額は問題ではない。非常に少額の場合もあり得る」

在北京米国大使館は2017年、中国外務省に書簡を送り、米国人が出国禁止の対象となる事例が多数あることに懸念を表明した。情報公開法(FOIA)による請求に基づき2020年に公表された書簡のコピーで明らかになった。

米政府はFOIAによる請求に基づき、中国の出国禁止に関連する一部データを開示している。米国務省は在北京米大使館が提供した情報をもとに、2010~19年に30件の出国禁止事例があったことを明らかにした。

中国外務省はWSJに寄せた声明の中で、観光・ビジネス目的で訪れる全ての国々の市民を歓迎し、彼らの安全性および出入国の自由を含む正当な権利と利益を守ると述べた。

「それと同時に中国は法治国家であり、司法機関は事件を法律に厳密に従って処理し、民事裁判で係争中もしくは犯罪の疑いがある外国人の出国を制限する」とも述べた。

中国公安部と国家移民管理局は問い合わせに応じなかった。