中国国営企業のロゴが政府資料に…あり得ないやらかしが一気に明らかにしてくれたエネルギー安全保障問題について

 

 河野太郎さんが先導役であったエネルギー問題を議論する内閣府「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(以下、再エネTF)」で、今回構成員の自然エネルギー財団の大林ミカさん提出の資料に中国国営の国家電網公司のロゴが入っていたという事件が勃発してしまいました。

 折しも、国家機密を中国など外国に漏らさない仕組みである「セキュリティ・クリアランス」が法制化に向けて検討が進み、また国民の払う電気代に上乗せされる『再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金単価)』の値上げで問題になってるところだったんですが。

 なんでまた、よりによって中国国営企業の介入が疑われる痕跡を残してしまったのでしょう。残念だなあ。

 

あまりにも無理があり過ぎた、ロゴ混入釈明のストーリー

 騒動が勃発した3月23日(土)、河野太郎さんがX(旧Twitter)上で素早く反応し、呼応するように内閣府規制改革推進室アカウントが「不正アクセス等による資料改ざんがあったのではないかとの問い合わせがあった」という内容を掲げて政府のホームページから当該資料を削除する騒ぎとなりました。せっかくの休日なのに、対応させられる官僚の皆さまも大変ですね。

 当初、河野太郎さんも本件は「チェック体制の不備」としており、すなわちチェックをする人である内閣府の役人や再エネTFの事務方が悪いのであって俺は悪くないという立場を取っておりましたが、後で「資料提出者であるTF構成員から掲載資料を差し替えたいとの要望があったため」後日公開と二転三転する慌てふためき方がお茶目です。一度公表した政府資料なら非公開にしちゃまずいでしょう。

©文藝春秋

©文藝春秋© 文春オンライン

 しかし間違って中国企業のロゴが政府資料に誤って混入という釈明のストーリーはあまりにも無理があり過ぎました。問題となった会議(今年3月22日)だけでなく昨年12月の会議や、果ては金融庁、経産省などで行われた会議でも自然エネルギー財団の資料にさらなる中国企業ロゴ混入の現象が起きていたことが発覚すると、さすがに保護者である河野太郎さんも釈明に追われる事態となります。

自然エネルギー財団の構成員3名が入っている点も見逃せない

 続く3月25日の参院予算委員会では、総理・岸田文雄さんや規制改革担当大臣としての河野太郎さんは維新・音喜多駿さんから本件でツッコミを受け「背景を含めてしっかりチェックする」との微妙な答弁に追い込まれてしまいます。そればかりか、河野さんは26日「お騒がせして申し訳ない」と記者会見で陳謝しながらも、同日の衆院特別委員会では立憲民主党の中谷一馬さんに8回「委員会の所管外」として河野さん自身ではなく事務方に答弁させ続けるまでに至っています。

 2018年、河野太郎さんが外務大臣であったときに、外務省が「気候変動に関する有識者会合」と名乗る大臣直下の会議体がエネルギーに関する提言を取りまとめていますが、この時点で、問題となっている大林ミカさん以下、自然エネルギー財団の構成員3名が入っている点も見逃せません。これは、その後に国民民主党の浜野喜史さんが国会(参議院経済産業委員会 18年3月23日)で取り上げるなどの問題視をされていました。裏を返せば、河野太郎さんが自身の関与は無いのだと言っても誰が信じるんだ、っていう話になるのではないかと思います。

 

 気候変動に関する有識者会合

  https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page4_003622.html

 そして、この人選を巡って、我が国の再エネ利権や取り巻く環境について単なるロゴ混入問題ではないと指摘され、1週間経過してなお燃えております。

 それもそのはず、この再エネTF自体は設置法上の根拠があいまいであるにもかかわらず、今回問題となっている再生可能エネルギーの固定価格買取制度であるFITの価格策定や、国民の電力代金に上乗せされる再エネ賦課金を幾らにするのかを決めるエネルギー基本計画に対し、具体的な提言をできる立場にあるからです。

 つまり、このロゴを混入させた人選が何故問題で、どうしてこういう人に国民負担の大きい国のエネルギー政策への低減が可能だったのか、きちんと検証する必要があるのです。

ソフトバンク系の自然エネルギー財団固有の問題点は…

 4人の有識者により構成されている再エネTFのうち2人はこの中国国営企業とゆかりが深いとみられるソフトバンク系の自然エネルギー財団の所属であり、残る2人も経済産業省OBの川本明さんと原英史さんです。原英史さんは産業競争力会議民間議員であった竹中平蔵さんのサポート役としても著名ですね。河野太郎さんが、なんでこのソフトバンク系再エネ推進派を経産省傍流の元官僚と共に重用してきたのかは割と重要なポイントなのです。

 このうち大林ミカさんは、反原発系の市民団体として古株でもある原子力資料情報室(CNIC)の元幹部であると同時に、国際的な環境主義団体である国際環境NGOグリーンピース・ジャパンの理事も務めています。グリーンピース・ジャパンは取材に対し20年3月に大林ミカさんの理事就任を認めている一方、後述するアジアでの送電網構想については「アジアでの国際的な発電・送電網については、現時点で弊団体としての見解はございません」としています。

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 再エネTFの有識者招聘・構成にあたっては、別報道でもある通り、河野太郎さんが信頼を置いていた経産官僚の山田正人さんの関与が深いとされてきました。しかし、関係先の話を総合すると本人の能力的な課題もあって山田さんはすでに事実上制御できる状況ではなくなっており、河野太郎さんのブレーン役として長く務める伊藤伸さんら一般社団法人構想日本などが関わっているのではないかとも見られます。

 関係先の資料を当たってみると具体的な政策提言において伊藤伸さんはむしろ再エネTFの動きに対して自制的に動いており、状況的に、河野太郎さんからの信頼をレバレッジにして国のエネルギー政策に介入しようとしている、という点で、大林ミカさんらソフトバンク系の自然エネルギー財団固有の問題であると考えざるを得ません。

 このソフトバンク系の自然エネルギー財団が抱える安全保障上のリスクと、再エネ賦課金におけるある種の戦犯の一端を担った部分については、かねて議論があります。

そもそも再エネ賦課金するきっかけは…

 そもそも再エネ賦課金を導入せざるを得なくなったきっかけは、もちろん東日本大震災に伴う福島第一原発事故で、原子力管理行政に疑念の声が高まり、すべての原子力発電所を再点検するため安全稼働が確認されるまで全原子炉を止める、という途方もないエネルギー政策の転換と引き換えに、当面は火力発電所で電力を賄う一方、再生可能な自然エネルギーへの転換を企図することになります。

 2011年3月11日に福島で原発事故が起きるまでは、経済産業省の下に原子力管理を統括する原子力安全・保安院が置かれていましたが、これが馴れ合い体質などで原発事故を防げなかったという反省から、より厳しい安全な管理基準と人事の切り離しを目的として原子力規制委員会が発足します。日本のエネルギーだけでなく、国土を壊滅的に損壊させかねない悲惨な原発事故ですから、安全稼働に向けて政策を打つのは当然ではあります。ただ、チェック機能の強化は重要としても、それまで安全稼働していた原発までついでに止めてしまう判断を下したのはまぎれもなく当時の旧民主党政権です。

 

 13年7月、ここで定められた、より厳しい安全基準を満たすまでは原子力発電所の再稼働を認めないという方針になったのです。

 そのあいだ、再生エネルギーについては太陽光パネルや地熱、水力、風力などによる再生可能エネルギーの振興を目指した旧民主党政権の総理・菅直人さんが、再生可能エネルギー拡大を企図する孫正義さんと意気投合しています。

 首相、孫正義氏と3時間会食

  http://www.asahi.com/special/minshu/TKY201105140583.html

 この時点で、孫正義さんが設立を準備しているとしていた財団こそが、まさに今回中国国営企業のロゴが入った資料を政府に打ち込んだ自然エネルギー財団です。

 その過程で、総理の菅直人さんが再生エネルギー振興を目的として、世界的に見ても突出的な高値である再生エネルギー固定買取価格であるFIT42円/kWh(キロワット・時)という法外な価格を決めてしまいます。

アジア各国を送電網で結ぶことのリスク

 最近再エネ賦課金が値上がりしており、その大元はいまの電力事情、再エネ問題というよりは、2011年から14年までに原因となる大問題が凝縮されています。原発事故のタイミングで別に止めなくてもいい他地域の安全稼働していた原発まで止めてしまったため、電力が不足し、火力発電を総動員させざるを得ず旧式火力も起こしてきて国富を垂れ流しLNGをボンボン燃やしてどうにか切り抜けたのも、昼間にしか発電しないのに電力システムに載せられて買取義務付けられて四苦八苦してるのも、対応しているのはすべてもともとの各大手電力会社(旧一電)の皆さまなんですよね。

 そして、ここで立ち上がった自然エネルギー財団は、幾つか報道でも出ておりますが、 孫正義さんによる日本の電力を海外から調達する野心的なプラン「アジアスーパーグリッド構想(ASG)」の実現を目指すための母体となっています。

 アジアスーパーグリッド(ASG)とは

  https://www.renewable-ei.org/asg/about/

 このアジアスーパーグリッドは多国間による国際的送電網のことであり、自然災害の多い日本のエネルギー調達先の多様化のために、中国や韓国、モンゴル、ロシアなどアジア地域各国を送電網で結ぶという壮大なものです。他方、すでに似たようなものが実現しているヨーロッパと異なり、経済圏としてのEUや集団安全保障体制としてのNATOのような枠組みがまったくないアジアにおいて、資源のない日本が中国や韓国で行われた電源開発で出来た電気を買って送電してもらう、というのがどれだけ安全保障上のリスクであるかという基本的な問題意識が欠けています。

アジアスーパーグリッドこそ、中国が進めている貿易政策のひとつ

 そのヨーロッパですら、主たるエネルギーをロシアからの天然ガスパイプラインに頼っていたところ、ロシアがウクライナ侵略を開始したためにエネルギー不足に陥り、それまではメルケル的理想主義もあって再生エネルギー中心の脱炭素・原発ゼロで頑張れると意気込んでいたのにすべてが崩れ去って原子力発電所もグリーンエネルギーですとか言い始めて手のひら返しすぎだろという状況になっています。

 アジアスーパーグリッドこそ、実のところ中国自体が世界で進めている覇権主義的な貿易政策のひとつである「一帯一路」で提唱されているもので、これを実現するために中国国営企業・国家電網公司が中心となって組成している非営利団体が「GEIDCO」です。

 15年9月に中国国家主席・習近平さんが国連開発サミットで提唱した国際送電網構想(グローバルエネルギー・インターコネクション)の実現を目標としており、その「GEIDCO」の会長こそ、今回ロゴの問題となっている国家電網公司の元董事長(経営者)の劉振亜さんであり、副会長がソフトバンクの孫正義さんでした。

東京都で太陽光発電設置義務化が策定される

 突き詰めれば、2020年、新しく総理に就任した菅義偉さんが所信表明で2050年までに脱炭素を政策的に推し進め、環境負荷実質ゼロを目指す方針に関与したのは紛れもなく河野太郎さんであって、我が国のメガソーラーなど再エネ政策の中枢にいた人物が河野太郎さんや務台俊介さん、秋本真利さんら再エネ議連の面々であったのは間違いありません。

 自然エネルギー財団の構成員に東京都の元環境局長であった大野輝之さんが就任すると、東京都知事の小池百合子さんが東京都において新築住宅などでの太陽光発電設置義務化を策定したのも見逃せません。環境重視の政策を採りたい小池百合子さんの考えや思いは分かりますが、住戸の屋根などに小規模な太陽光パネルを載せたところで再エネ的にはさしたる価値はないけれども、やった感が大事だということなのでしょうか。

https://www.koho.metro.tokyo.lg.jp/2023/01/04.html

中国製ソーラーパネルの国内利用が進むことに

 我が国の家屋やオフィスビルなどにおいて、確かに歴史的・文化的に断熱という考えが乏しく、アルミサッシなど外気の温度を伝えやすい建材が使われ続けてきたことで暖房・冷房効果が低いことは長年問題になっていましたが、効率がそこまで高くない太陽光パネルを家屋に設置させて脱炭素を目指すというのは荒唐無稽であるという議論もあります。

 これらの太陽光パネルというのはほとんどが中国製の製品であり、これらの産業に補助金を出して国産の割合を増やし中国製太陽光パネルに関税をかけるようなことも検討していない上、大規模なソーラーシステムの運用にはこれまた中国製ソフトウェアや制御機構が設置されます。安全保障上、中国製ソーラーパネルの国内利用が進むことの問題が大きいだけでなく、これらのエナジーグリッドに直結する関連ソフトウェアにバックドアが仕掛けられてしまうと「いざというとき」に電源系統に重大な安全保障上のリスクを抱えることになりかねません。

 言い方を変えれば、再エネを運用するためのソフトウェアが中国製である場合、それを電源系統や送電網にぶら下げられたら、普通に中国政府からハッキングされて有事の際に送電を止められかねないリスクがあるでしょう。本件が単純に政府内の再エネ利権に河野太郎さんや務台俊介さんらの再エネ利権があるのではないかという指摘だけでなく、安全保障上のリスクがあるとかねて指摘されてきたのもこのような懸念があるからです。これは「経済」安全保障ではなく、ど真ん中の安全保障の問題と言えます。

うっかりミスで一気に開いた、解決の扉

 ひとくちに脱炭素と言っても、世界的な環境変動に対して日本がどう貢献するかという重要な観点だけでなく、それを達成するためにどのような手当てをしなければならないかという安全保障的な観点からの取り組みが欠けています。今回の自然エネルギー財団のやらかしにしても、福島原発事故に伴って原発に恐怖心を抱いた国民の不安を煽って原発再点検の名のもとに安全に稼働していた他の原子力発電所も止めてしまった旧民主党菅直人政権と、ソフトバンク・孫正義さんが決めたFIT42円/kWhがそもそも大きく国益を損ねる大失政だったことが遠因と言えます。

 この結果、LNGなど多額の化石燃料・エネルギーを輸入せざるを得なくなり、こんにちに繋がる無駄な再エネ賦課金が国民や企業に課されています。この政策で、日本の国益が大きく損なわれたことはよく理解する必要があるでしょう。

 一連の議論では、エネルギー安全保障界隈ではさんざん警鐘が鳴らされ続けたものであって、ただほとんど妄信的に再エネ振興に全振りしてきた河野太郎さんの政治的パワーに阻まれて改善が見込めなかったものが、中国国営企業のロゴが資料に混ざっていたといううっかりミスで一気に解決の扉が開いたのは「世の中そんなものかなあ」と感じてしまいます。今までの努力は何だったのだ。

河野さんの突破力の源泉

 また、最後になりますが河野太郎さんについては「好漢、惜しむらくは」と私ごときが論ずるのもなんですが、河野太郎さんの育ちが良いこともあって、人を見る目がない、意見が合うだけで信用してしまう、意見の合わない人は排除する、意見が通らないと大声で恫喝する、という、河野さん固有の賢さと裏腹の人間的な未熟さとが絶妙なブレンドになっているように思います。

 私も河野太郎さんにはX上でも意見の相違からブロックされて久しいですが、イージスアショアの問題でも特定の誰かに焚き付けられて暴走し、結果として、専門家の議論を汲むことなく大臣として英断してしまって中国を利する結果になったのも見逃せません。

 規制改革についてもワクチンにしても河野さんの剛腕を評価する人は少なくありませんが、その突破力の源泉は河野さんの思い込みの強さと強引な政治手法にあります。

 それが通用する分野では仕事はできるけど、本件のようにそうでもない分野では河野さんのやってきたことは国益にかないません。河野さんの周りには国民に人気があるからきっと出世したら引っ張ってくれるだろうとぶら下がる人も少なくないのです。

 本当に日本の歴史に名前を残せる良い総理大臣を目指したいのであれば専門性のあるいろんな人の意見をもっと聴くなどして、独断専行や人の良さに付け込まれて意見の合う身内だけで周りを固めてインナーサークルを作るようなことがないようにして欲しいと願っています。

(山本 一郎)