電気・ガス代の補助打ち切りを発表 もう物価高対策を緩めるのか?【播摩卓士の経済コラム】

 

 

電気・ガス代の補助打ち切りを発表 もう物価高対策を緩めるのか?【播摩卓士の経済コラム】

電気・ガス代の補助打ち切りを発表 もう物価高対策を緩めるのか?【播摩卓士の経済コラム】© TBS NEWS DIG_Microsoft

この大事な時期に打ち切るか、と岸田政権の政策の整合性のなさにあきれます。てっきり延長されるものだと思っていた電気・ガス代への補助金を打ち切るというのです。

電気・ガス代補助は5月終了

政府は29日、物価高対策として行ってきた電気・ガス代抑制のための補助金を、5月使用分をもって、いったん終了すると正式に発表しました。燃料価格が一時より落ち着いたことが理由です。

この補助金は、「ウクライナ危機」で燃料価格が高騰したことを受けて、2023年1月分から始められました。家庭向けの電気1キロワット時当たり3.5円、ガス1立方メートル当たり15円を補助しています。期間は2024年4月使用分までがその全額、5月分については半減させることになっていました。

6月使用分以降の補助が全くなくなると、標準家庭(400キロワット時)の電気料金は月1400円、ガス料金は450円、あわせて1850円高くなることになります。年間2万2200円の負担増です。

 

一方、ガソリンへの補助金については、原油価格高騰のリスクを見極める必要から当面継続するとしています。

電気代は再エネ賦課金による値上がりも

実は電気代をめぐっては、これ以外に「再エネ賦課金」の上昇による値上がりも、既に決まっています。「再エネ賦課金」とは、太陽光発電など再生エネルギーの普及に向けて、再エネで発電された電気を一定の価格で買い取るために、消費者が負担しているものです。

この再エネ賦課金の単価が2024年度は1キロワット時当たり3.49円と、23年度より2.09円も上がることになりました。電力の市場価格が下がったことで、再エネ事業者に支払う補助金が、逆に大きくなるからです。

こちらについては、月に400キロワット時使用する標準世帯で月836円の値上がりと結構な額で、年間では1万32円になりまます。こちらは5月使用分から実施されます。

結局、消費者の支払い月で言えば、電気代は6月、7月と連続して大きく上がり、標準家庭では、年間3万2232円もの負担増になります。これだけで賃上げが吹っ飛びそうです。岸田総理肝いりの1人4万円の定額減税だって、「ありがたみ」が薄まろうというものです。

岸田総理は、国民に「2つの約束」

岸田総理は28日、予算成立を受けた記者会見で、物価高を乗り越えるための「2つの約束」を表明しました。1つ目は、2024年内に物価高を上回る所得を実現すること。2つ目は、2025年以降に物価上昇を上回る賃上げを定着させることです。

こんなことを公約して大丈夫か、と心配にもなりましたが、岸田総理の問題意識、目標設定は実に正しいものです。

デフレ脱却、経済の好循環という命題にとって、最も重要なポイントは、物価上昇分を差し引いた実質の所得をプラスに転換し、消費(需要)の拡大に結び付けることです。

厚生労働省の毎月勤労統計によれば、実質賃金は2024年1月時点で22か月連続のマイナスで、消費の現場には弱さがはっきり現れてきています。

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実質所得をプラスにするには、名目賃金を上昇させなければなりません。

春闘で5%以上という画期的な賃上げが実現しました。その一方で、物価上昇率を緩やかなものにすることも是非とも必要です。24年2月の消費者物価は生鮮食品青除く指数で前年比2.8%上昇とまだ高い上昇が続いており、物価高が落ち着かなければ、実質所得のプラスへの転換はそれだけ遠のくことになるのです。

政策には優先順位をつけた調整を

もちろん、ガソリンや電気・ガスへの補助金には巨額の財政負担がともなっています。また、こうした政府による価格調整が市場機能を歪めていることもたしかです。

しかし、政策には優先順位というものがあるでしょう。

岸田政権にとって、今の最優先課題は、30年ぶりに図らずも訪れたこのチャンスを、確実にデフレ脱却と経済の好循環につなげることであり、それは総理自身が会見で表明した通りです。こんなチャンスはそうそう訪れるものではありません。

電気・ガス代への補助打ち切りは、物価上昇率が目標とする2%に近辺に落ち着くことや、実質賃金がしっかりプラスに転じたことを確認してからでも、決して遅くはないでしょう。

今回の唐突な電気・ガス代への補助打ち切り決定は、岸田官邸の政策調整機能が全く働いていないことを物語っています。総理大臣として来年のことまで約束するなんて、少し早すぎやしませんか。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)