イスラエルがガザ市民を拷問か 鉄棒で殴打、自宅に放火 市民ら証言

 

毎日新聞

イスラエル軍に拘束され、トラックで上半身裸のまま運ばれるパレスチナ人ら=パレスチナ自治区ガザ地区で2023年12月8日、ロイター

 イスラエル軍が、地上侵攻したパレスチナ自治区ガザ地区で、イスラム組織ハマスとは直接関係がない市民を多数拘束して拷問している疑いが出ている。複数の市民が毎日新聞の取材に証言した。拉致された人質やハマス幹部の居場所を突き止めるため、手段を選ばなくなっているとみられる。国連も事態を重く見て、調査を始めた。 【写真】イスラエル総保安庁の拷問方法「バナナ」  「(兵士に)鉄棒で胸や背中、足を殴られ、大型犬に追い回された」。ガザ最南部ラファで暮らすイッサム・アリさん(22)は2月下旬、毎日新聞助手に明かした。イッサムさんは昨年12月24日、ガザ北部ジャバリアの自宅で妻や子供と過ごしていたところ、イスラエル軍に拘束された。  収容先はガザ内の施設で、取り調べたイスラエル兵はイッサムさんをハマスの戦闘員だと疑い、「人質はどこにいる」と何度も尋ねた。「知らない」と答えると鉄棒で繰り返し殴打された。施設では12歳の子どもや高齢者、がんを患う病人らも同室。兵士らは深夜、寝静まった部屋に大型犬を放ち、脅迫したこともあった。拷問でけがをした人もいたが、イスラエル側は痛み止めを渡すだけだったという。  イッサムさんは19日後の1月12日、ラファで解放された。だが北部にいる家族とは離れ離れのままだ。「一体私が何をしたというのか。無実の市民を拷問し、辱めている」と訴える。  ◇「自宅に放火」も  カタールメディアの記者、ディアー・カフルートさん(38)も、イスラエル当局から暴行を受けた。昨年12月7日、ガザ北部ベイトラヒアの自宅にいた際、軍に拘束された。下着姿にさせられた後、他の住民数十人と一緒にトラックに乗せられ、イスラエル南部の軍基地に収容された。捜査を担当したのは、治安機関のイスラエル総保安庁(シンベト)だった。  ディアーさんは2018年、ガザでのイスラエル軍の秘密作戦について記事を書いたことがあったが、捜査官はその記事がハマス寄りだとして「お前はハマスの司令官の一人だ」と決めつけた。「ハマス幹部はどこにいる」と尋ね、殴打を繰り返した。捜査官は軍がディアーさんの自宅に火を放って燃やしたことを明かし、「家族の安否は分からない。知りたければ、真実を話すことだ」と迫った。  食事は毎日、パン1枚とジャムのみで、取り調べ中は冷たい床に座らされた。解放されたのは約1カ月後の1月9日。体重は10キロ以上減っていたという。ディアーさんは言う。「イスラエル軍はガザ市民を追い詰め、ガザから追い出したいだけだ」  相次ぐ被害の訴えを受け、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)もイスラエル軍による虐待や拷問について調査を開始している。米CNNは3月、UNRWAの未発表の報告書には、「男女双方に対する殴打、睡眠不足、性的虐待」などの証言が記録されていると報じている。  一方、イスラエル軍は、ガザ北部など避難を要請した地域に残る住民は「武装組織の協力者である可能性がある」と説明。「疑いが晴れれば、その都度釈放している」と正当性を強調する。【エルサレム三木幸治】