「企業で考えたらとんでもない!」【裏金脱税】キックバック議員「逮捕が逃れられないこれだけの訳」

 

「不明」だらけの収支報告書…「全員、逮捕されなきゃいけないような事件」

確定申告期間の真っただ中、SNSで「#確定申告ボイコット」がトレンドワードに浮上したかと思えば、国税庁のポスターに大書されたキャッチコピー「脱税は、犯罪。」が納税者の反感を買っている。

「確定申告バカらしい。ちゃんと納税してから、こっちに『納税しろ』と言えよって思う」と憤っているのは小泉今日子だけではない。

自民党派閥による政治資金パーティーをめぐる裏金事件。衆院政治倫理審査会(政倫審)が開かれた1日の「news23」(TBS系)で、政治資金に詳しい浦野広明税理士はこう喝破した。

一般企業で考えたらとんでもない。全員、逮捕されなきゃいけないような事件

「納税するつもりはございません!」と衆院政治倫理審査会で断言した元安倍派の座長・塩谷立元文科相だが…(PHOTO:共同通信)

「納税するつもりはございません!」と衆院政治倫理審査会で断言した元安倍派の座長・塩谷立元文科相だが…(PHOTO:共同通信)© FRIDAYデジタル

政治資金収支報告書への不記載が判明した安倍派と二階派の議員、支部長の計85人に「脱税の疑い」があるとして、先月、全国商工団体連合会が税務調査を実施するよう国税庁に要請したが、今回の裏金事件は「脱税」にあたるのか。浦野税理士に聞いた。

これは悪質な脱税です。もちろん、全員が逮捕の対象になります。 

では、具体的にどういう脱税なのか。一つは法人税の脱税です。 

政治資金パーティーは原則として、政治団体が開催します。政治団体のうち政党は『公益法人』、派閥や各種の政治団体は『人格のない社団』などと言われているわけですが、収益事業を行う法人には法人税が課されます

 

政治団体の政治資金は、政治活動に使うことを前提に原則として非課税とされるが、今回に限らず政治資金パーティーの収益はそもそも該当しないという。

政治資金パーティーと謳っているけれども、実態は利益率が8割も9割もあるイベントです。つまり、政治活動の名を借りて商売をしているわけで、法人税法が規定する収益事業のうちの興行業に該当します。 

法人の所得に対しては国税の法人税、地方税の法人住民税と法人事業税の3税が課されます。それだけでなく、今回は脱税なので重加算税も賦課される。これは、事実を隠蔽したとか意図的に申告内容を仮装したと判断された場合に課される罰金のようなものです

さらに、決められた納税期限までに税金を納めなかったことにより、延滞税が課される。

脱税の場合は7年分遡って課税されます。 

法人税も事業年度ごとに計算しますが、所得に対して課される3税を合わせて大体30パーセントです。それが本来の納税額で、重加算税は本税の40%。延滞税は納期限の翌日から2ヵ月過ぎるとかつては14.5%でしたが、今は10%ぐらいでしょう。それが7年遡ると、延滞税だけですごい金額になる。

ということは、政治団体がパーティーで設けた金額の大体50か60%が追徴税額になるんですよ

政治資金規正法違反(虚偽記載)ではすでに、パーティー収入の一部を政治資金収支報告書に記載しなかったとして、安倍派と二階派の会計責任者が在宅起訴されている。

政倫審に出席した事務総長経験者たちは皆、会計責任者がやったことで自分は会計に関与していないと言っていましたが、会計責任者は単なる職責上の名義人。収益が帰属するのは、政治団体の実質的な主宰者です。本来は派閥のトップですから、二階派なら会長の二階(俊博)さん、安倍派であれば事務総長が責任を取る立場にあります

不記載があった議員85人の「裏金への課税額」は約1億3500万円

脱税にあたるのは法人税だけではない。当然、所得税も対象だ。

裏金は全額、雑所得として課税対象になります。雑所得は収入金額から必要経費を引いて計算するのですが、たとえばサラリーマンが原稿料をもらったとしましょう。その原稿を書くために参考書を買えば、それは必要経費になります。政治家は歳費を得ていて、しかも今回はそっくり裏金を懐に入れたわけですから、必要経費はゼロ。キックバックを受けた全額に所得税と住民税が課されます。 

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この場合の課税額は、所得税と住民税を合わせて所得の大体30%。これに法人税と同じように重加算税と延滞税が課されるので、追徴課税はキックバックを受けた金額の少なくとも50から60%の額になるでしょうね

全国商工団体連合会が、’18~’22年の政治資金収支報告書に不記載のあった85人が追徴された場合の税額を浦野税理士の見解を基に試算しているが、それによると裏金総額は5億7949万円、裏金への課税額は約1億3500万円に上る。そのうち追徴税額が最も多いのは二階元幹事長で1000万円以上。安倍派5人衆で衆院政倫審に唯一出席しなかった萩生田光一前政調会長は750万円以上だ。

今回はあまり問題視されていませんが、消費税も課されます。興行業で儲けている事業者なわけだから、消費税の納税義務者になるんです

インボイス制度によって消費税の納付を強いられることになった小規模事業者や個人事業主からすれば、確定申告がバカらしくもなるだろう。

萩生田氏は5年間で計2728万円の裏金を受け取っておきながら、収支報告書を訂正してもなお「支出の目的」や「金額」などの欄に「不明」と記載していた。個人事業主が「不明」だらけの青色申告決算書や収支内訳書を提出するとどうなるか。

税務署が認めるはずもありませんね。私たちが『不明』と書いて提出すれば、追加の税金を徴収されます

国民は確定申告書に不備があれば調査される。政治家は多額のキックバックを受け、収支報告書にでたらめな記載をしても、税金を支払わずに済んでいる。

偽計行為によって脱税した場合は「10年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金」

昔から税務行政は『弱きをくじき、強きを助ける』と言われていて、実際そうなんです。零細事業者の確定申告が1万円違っているだけでも、税務署は厳しく追及します。 

たとえば、フリーランスの個人事業主は、税務署から『申告の内容について知りたいので税務署に来てください』というような連絡を受けることがあるかもしれません。おそらく、ほとんどの人は真面目に応じるでしょう。でも、そんな要請は何の根拠もないから、放っておくに限ります。

 

税務署は本来、法律に基づいて税金を徴収しなければいけない。そして国民は、法律に基づいて納税することになっています。だから、税務署の調査を受けて追加の税金を払うよう言われた場合は、どの法律に基づいて追加の税金を払わなければいけないのか、根拠を確かめることが大事なんです。税務署は、根拠を問われるとあきらめることが多い。税務署の職員が一番、税法を知らないから。憲法を道具として使うことに慣れていないんです

一方、税務行政が「強きを助ける」、つまり政治家に手ぬるいのには理由がある。

なぜ政治家を放っておくかというと、財界や財務省が税法を作るからですよ。大企業優遇税制がほとんどですが。 

日本の税法は、国会に提出されたら3週間ほどで衆議院を通過します。国会で賛成してくれるのは与党自民党の議員なのだから、税金の問題で追及しないで放っておけというのが税務行政のスタンスです

裏金を得た議員が納税を免れていることに、国民は怒っている。脱税にあたるとすれば、罪に問われて然るべきだろう。

偽計行為によって脱税した場合は所得税法違反、法人税法違反、消費税法違反で10年以下の懲役もしくは1千万円以下の罰金に処されます。あわせて、追徴税額を支払わなければいけない。懲役に服して、議員も辞めるべきでしょう。 

脱税となれば、国税庁は検察に告発する義務があります。告発を受けて検察は取り調べを行い、立件することになる。ただ、脱税は犯罪ですから、事実であれば国税の告発を待たずに検察が独自に捜査することもできます。 

今回の裏金事件でボロ儲けしている議員が何の罪にも問われないのは、どう考えてもおかしな話です。これをどう変えていくかが、我々に与えられた課題であることは確かでしょうね

「次の選挙では入れない」――。今、そんな声がSNSなどで上がっている。まずは、そこからかもしれない。

浦野広明(うらの・ひろあき)税理士、立正大学法制研究所特別研究員。1940年、北海道生まれ。’02~’11年、立正大学法学部教授・立正大学大学院法学研究科教授。’11~21年、同大学法学部客員教授。著書に『税務調査に堂々と立ち向かう』(日本評論社)、『税が拡げる格差と貧困』(あけび書房)、『税財政の民主主義の課題』(学習の友社)など。

取材・文:斉藤さゆり