ロケット打ち上げ警戒区域に船、10分以上前に気付くも間に合わず…片道7時間かかったファン「まさか」

 

記者会見で経緯を説明する「スペースワン」の阿部耕三執行役員(9日午後、和歌山県那智勝浦町で)

記者会見で経緯を説明する「スペースワン」の阿部耕三執行役員(9日午後、和歌山県那智勝浦町で)© 読売新聞

 和歌山県串本町の民間ロケット発射場で9日午前に予定されていた小型ロケット「カイロス」初号機の打ち上げの延期は、安全確保のために退避を求める「警戒区域」とした海域に船が残っていたことが原因だった。区域内の船を強制的に排除できる法的根拠はなく、今後、速やかに打ち上げる環境をどう整えるかという課題が浮上した。

 「初めてということもあり改善すべきことはある。もっと早くから警戒監視活動をするのも一つの対策だ」

 この日午後に同県内で記者会見した宇宙関連の新興企業「スペースワン」(東京)の阿部耕三執行役員は反省の弁を述べた。

 海上保安庁によると、警戒区域は内閣府の指針に基づき、ロケット発射直後に破片が落下する恐れのある範囲を想定して、打ち上げを行う事業者が設定する。船に被害が出ることを防ぐためだ。

 

 区域が設定される日時や海域は、海保を通じて専用のシステムなどで船に伝えられる。区域に船が入らないようにする対策は事業者が担うが、強制的に排除できる法的な根拠はない。

 同社によると今回は、発射場沿岸の南東約6・5キロ四方の海域を警戒区域に設定し、数週間以上前から、地元の漁業協同組合や個人の船舶所有者らにチラシを配布するなどして周知してきた。この日は、打ち上げの数時間前から警戒船約10隻を周辺海域に配置し、区域に近づく船に無線で注意を呼びかけていた。

 しかし、発射予定時刻の10分以上前に、区域内を航行する船を発見。警戒船が近づいて退避を呼びかけたが、予定時刻までに間に合わなかったという。どんな船がいつ区域内に入ってきたかについては、明らかにされなかった。

 この船が故意に区域内に入ったのか、区域の設定を知らなかったのかは不明だ。和歌山東漁業協同組合の垣下良夫副組合長は「組合員には周知をしやすいが、個人の船にまで知らせるのは難しい」と話す。

 同社は将来的に年間20~30機の打ち上げを目指している。今回の船が警戒区域を把握していなかったとすれば、事前の周知方法も大きな課題となる。

 阿部執行役員は「今回の反省を生かして、警戒船の数を増やしたり、海域から退避していただく時間を早くしたりといったやり方を検討したい」と述べた。

 同社によると、ロケットの機体に異常はなく、次回の打ち上げは、12日に地球への帰還を予定している古川聡さん(59)ら日米欧露の宇宙飛行士4人が乗る宇宙船の安全確保のため、13日以降に行う。

■5000人のファンため息

 発射場から約2キロ離れた田原海水浴場と旧浦神小学校に設けられた公式見学場(定員各2500人)は満員となり、打ち上げ延期のアナウンスが流れると、ファンからため息が漏れた。

 和歌山県出身で、滋賀県甲賀市在住の会社員(34)は、かつて鹿児島県でロケット打ち上げを見学し、その迫力に魅せられた。「故郷で打ち上げを見たい」と車で約7時間かけて旧浦神小を訪れた。延期の理由を知り、「まさか船が原因だったとは。教訓として次に生かしてほしい」と望んだ。

 和歌山県によると、見学場のチケット購入者への返金はないが、3月中に再び打ち上げがある場合には見学できる。申し込み時の条件で定められているという。会社員は「ロケットに技術的な問題がなかったことは良かった。次回も来て成功を見届けたい」と話していた。