性欲減退でセックスレス、喧嘩で包丁が...女性50代前後、男性60代以降は、更年期障害の疑いも

 

年齢とともにコントロールできない不調に陥りはじめたら更年期かも? 「女性医療クリニックLUNAグループ」理事長の関口由紀さんは、減少すると更年期症状を引き起こすと言われる男性ホルモン「テストステロン」に注目。『性ホルモンで乗り越える男と女の更年期 知っておきたい驚異のテストステロンパワー』は、生きる活力ともなる「テストステロン」の知られざる可能性を詳しく解説した1冊。女性も男性も、更年期を乗り越えて、元気に生きるヒントが満載です!

※本記事は関口由紀著の書籍『性ホルモンで乗り越える男と女の更年期 知っておきたい驚異のテストステロンパワー』(産業編集センター)から一部抜粋・編集しました。

 

あなたの周りにこんな人はいませんか?

イライラ、ウツウツで、周りを振り回す更年期なひとたち。

性欲減退でセックスレス、喧嘩で包丁が...女性50代前後、男性60代以降は、更年期障害の疑いも

性欲減退でセックスレス、喧嘩で包丁が...女性50代前後、男性60代以降は、更年期障害の疑いも© 毎日が発見ネット 提供

「最近、夫がヘン。些細なことでイライラしたかと思えば、急に塞ぎこんでしまう。お

まけに、なんだか体調も悪そう......」

「仕事と家庭を両立している、憧れていた50代の女性上司。最近、ちょっとしたことで急に怒りだすようになって、近づくのがこわい」

「最近彼氏が、疲れた、眠れない、とよく口にするので心配」

「パートナーが元気も性欲も湧かないので、セックスレスが続いている」

「喧嘩がエスカレート。感情がたかぶって包丁を持ち出してきた妻。離婚を考えている」

こういったケースは、男女共に更年期障害を疑ったほうがいいかもしれません。女性ならば50代前後、男性ならば60代以降の方は要注意。加齢によって若い頃に比べて、女性は女性ホルモン(エストロゲン)、男性は男性ホルモン(テストステロン)の低下で、心と体に不調が起きている可能性が高いからです。

 

若い方でも、強いストレスがかかって、脳からの性ホルモン分泌指令にエラーが起きてしまい、分泌が充分にできなくなっている場合があります。たとえば、女性に強いストレスがかかった場合、あるいは女性アスリートが厳しいトレーニングをした場合、生理が止まってしまうことはよく知られています。

女性ばかりでなく男性も同じ。たとえば部署異動や転勤、単身赴任といった環境の変化によるストレスでテストステロンが急降下してEDになってしまうことがあります。50代は男女共に、職場でも家庭でもいろいろなストレスがかかりがちなお年頃。ただでさえ、性ホルモンが減少傾向にある時期なのに、そこにストレスが加わると、泣きっ面にハチ、傷口に塩、といった状態になってしまうので要注意です。

「男性更年期の傾向として、最初はイライラが募りますが、次第に落ち込んで、元気・やる気がなくなった状態になる方が多い印象です」と、「男性医学の父」熊本悦明先生(以下、熊ちゃん先生)はよく話していました。女性の場合は、女性ホルモン(エストロゲン)が不規則かつ急激にアップダウンしながら低下していきますので、ホットフラッシュや不眠、めまい、たちくらみ、皮膚の知覚過敏症状などの自律神経症状と、イライラや抑うつなどの精神神経症状が起こり、とても苦しむ方もいらっしゃいますが、完全に低下してしまえば全ての症状が落ち着く傾向にあります。

人生で2度激変する性ホルモンバランス

改めて、みなさんは「ホルモン」と聞くとどんなイメージがありますか? 医療情報が豊富な昨今、さすがに「ホルモン焼」というイメージを持つ人はいないでしょう(笑)。「女性ホルモン」については、生理、妊娠、出産、閉経と、女性の人生に大きくかかわることは広く知られるようになっています(何故か「男性ホルモン」と「男性の人生」の相関性については放置され続けていますが......by熊ちゃん先生)。

そもそもホルモンとはヒトのさまざまな機能を司る化学物質。自分の意識とは関係なく、脳の視床下部(目の後ろから奧ぐらいのあたり)が分泌をコントロールしていて、たとえばすい臓から分泌されるホルモンである「インシュリン」は血糖値を調節し、胃から出る「ガストリン」は胃酸の分泌を促してくれます。その数は実に100以上にものぼります。

 

男女の性ホルモンと他のホルモンとの大きな違いは、その分泌量が大きく変わる時期が人生で2回あること。

1度目は、生殖にむけて性ホルモンが急増する「思春期」。個人によってばらつきがありますが、小学高学年から中学卒業ぐらいまでに、女子には初潮(はじめての月経)、男子には精通(はじめての射精)が訪れます。

2度目は、生殖と子育てを終えて、性ホルモンが急減していく「更年期」。こちらも個人差がありますが、女性は閉経を迎えるのが平均51歳とされており、その前後5年間を指します。最近では広く知られるようになった「男性更年期」は、やはりテストステロンが減少してくる50代以降にやってきますが、非常に個人差が大きいのが特徴です。

「思春期」も「更年期」も、「自分自身ではコントロールできない心と体の不調」に襲われやすいのが共通点です。

また、年齢に関係なく、強いストレスがかかると脳がエラーを起こし、本来なら卵巣や精巣に「性ホルモンを分泌せよ!」と指令を送るはずの指示系統が狂い、性ホルモン分泌が滞り(時に過剰に増えることも)、更年期と同じような心身の不調が起こる場合があります。これは「若年性更年期」とも呼ばれるものですので、若い方でも油断は禁物です。

前述したように、周囲の人の様子が「なんかおかしい?」と気になるときがありますよね。以前とは違って、感情の起伏が激しい。約束を守る人だったのに、体調不良でドタキャンが増えた。負のオーラがすごすぎて一緒にいるのが辛い。でも、それは本人のせいではなく、性ホルモンの乱れや欠乏のせいかもしれません。性ホルモンの乱気流に巻き込まれるのは、人間の生き物ゆえの宿命なのです。

症状が「辛い」と感じたら、一度病院へ足を運んで、性ホルモンを測っていただきたいです。血液検査の結果、原因が更年期障害かそうでないのか。元々そういった器質があるのか。はたまた違う病気なのか。おおよそは判明します。原因がわかれば、適切な対応や治療にとりかかることができます。更年期でない病気が疑われる場合は、他の科を紹介してもらえます。どんな病気も早期発見・早期治療にこしたことはありません。

とにかく、「年のせいだろう」「疲れているからだろう」「ストレスだろう」と受け流すのは得策ではありません。辛いのを我慢するのは、本人も周りにとっても時間がもったいないです!

うつ病と決めつけないことも大事!

私が心配しているのは、心身の不調を「うつ病」だと思い込んで、精神科や心療内科へ駆け込んでしまうこと。もしも性ホルモンの低下が原因の更年期症状のうつだったら、そこで抗うつ剤を処方され、服用をはじめると、いっそう性ホルモンが下がって、うつ症状が悪化してしまいます。

「心療内科や精神科でもらった薬を飲んでいるけれど、いっこうによくならない」という患者さんに対して、男性の場合は、「ホルモン値を測って、低下しているならテストステロン補充を検討すべき」と熊ちゃん先生は訴え続けてきました。

ようやく最近、テストステロン低下の意義を理解し、測定して低ければ補充治療をしてくれる精神科医も現れはじめましたが、まだまだ少数派です。「産婦人科医も内科医もテストステロンについてまったく知らない!」と熊ちゃん先生はぼやいておりました(熊ちゃん先生はテストステロン値が高いため、人一倍攻撃性が強いのです(苦笑)。

私は女性専門の泌尿器科医なので、まずは閉経前後の女性のエストロゲン値とFSH(卵巣刺激ホルモン)を確認します。エストロゲンが下がっていて、FSHが上がっていればサプリメントや漢方や女性ホルモン補充を検討してもらいます。それで自律神経失調症状やメンタルが安定してくる方がほとんどです。それでもよくならない方や、女性ホルモン補充ができない方(乳がんサバイバーなど)、さらに、高齢女性のフレイルなどの症状には、テストステロン補充療法がひとつの有効な治療方法の選択肢になります。

ここでひとつ留意しておくべきこともあります。男性・女性ホルモンを測ってみてあまり低下していない場合には、ちょっと専門的ですが、各性ホルモン受容体(ホルモンを受け取るキャッチャーのような存在。うまく受け取れないとホルモンは働きません)に問題がある場合があります。

例えば女性の場合は、大豆や山芋などいわゆる精のつくといわれる食材を沢山食べることで、更年期を乗り切れる人もいれば、漢方やサプリメントでなんとかなる人もいます。しかし、しっかり女性ホルモン補充をしなければ、効果がでない人もいるわけです。男子の場合は、早くからEDになってしまう人もいれば、いくつになっても精力絶倫の人もいます。人間には個体差があるということです。十把一絡げにできないのが、生き物である人間の複雑さなのです! いずれにしてもしっかとした検査と診察で、症状の原因を見極めていくことが必要です。

関口由紀

『女性医療クリニックLUNAグループ』理事長。医学博士、経営学修士(MBA)、日本メンズヘルス医学会テストステロン治療認定医、日本泌尿器科学会専門医、日本排尿機能学会専門医、日本性機能学会専門医、日本東洋医学会専門医、横浜市立大学医学部客員教授、女性総合ヘルスケアサイト・フェムゾーンラボ社長、日本フェムテック協会代表理事。メディア出演多数。『「トイレが近い」人のお助けBOOK』(主婦の友社)、『女性のからだの不調の治し方』(徳間書店)、『セックスにさよならは言わないで:悩みをなくす膣ケアの手引き』(径書房)など著書多数。