スクープ! 途方もない「血税」で潤った病院リスト

 

莫大な補助金を貯め込んだNHO、JCHO、NCGM、日赤、済生会、都立病院機構らは直ちに国庫返納すべき。

 

スクープ! 途方もない「血税」で潤った病院リスト

莫大な補助金を貯め込んだNHO、JCHO、NCGM、日赤、済生会、都立病院機構らは直ちに国庫返納すべき。

2024年2月号 BUSINESS [坊主丸儲け]
by 上 昌広(医療ガバナンス研究所理事長)

莫大な補助金を呑み込んだJCHOの東京新宿メディカルセンター

 

「殺菌には日光に晒すのが一番だ」――。米国の最高裁判所判事を務めたルイス.D.ブランダイスの名言だ。健全な民主主義社会を維持するには、政府に情報公開を求め続けなければならないという趣旨だが、それだけでは足りない。政府と独立した立場から情報を解析し、結果を社会に公表する仕組みが不可欠だ。こうした役割を担う組織がなければ、権力者による一方的な解釈が罷り通る。今の日本社会に欠けているのは、こうした使命感に基づく活動である。本稿では、その具体例として、新型コロナウイルス(以下、コロナ)対策で医療機関に支払われた補助金の適切性を検証する試みを紹介したい。公開されている財務報告を基に医師、税理士、元公務員、データマネージャー、更に大学生などで構成される当研究所の調査チームが分析したものだ。

補助金の国庫返納率は1.7%

 

 

コロナ禍に巨額の補助金を受け取りながら患者を受け入れなかった「幽霊病床」が大問題になった。最も批判されたのは厚労省が管轄する医療機関だ。独立行政法人や国立研究開発法人等は、その設置根拠法に公衆衛生危機への対応が明記されている。こうした公的組織は優先的に補助金を受け取る代わりに、率先して患者を引き受ける法的義務を負う。

国立病院機構の楠岡英雄理事長(同機構HPより)

 

ところが、彼らは患者の受け入れを渋った。上の表をご覧いただきたい。日本中で「入院難民」が問題となった2022年夏(第7波)のピーク時、届け出「確保病床」のうち、実際に患者を受け入れていたのは、国立病院機構(NHO)64%、地域医療機能推進機構(JCHO)64%、国立国際医療研究センター(NCGM)79%、労働者健康安全機構(JOHAS)71%だった。一方、20~22年に受け取った補助金の総額は、NHO3292億円、JCHO1362億円、NCGM146億円、JOHAS1638億円。19年度と同額の補助金が続いた場合と比べ、それぞれ3156億円、1323億円、126億円、1267億円も増え、合計5872億円に及ぶ。補助金の大部分は、病床確保と治療に対する対価だが、ピーク時ですら届け出病床の21~36%は空床だった。用をなさず「不当」に受け取った補助金は国庫に返納すべきだ。少なく見積もって1千億円を超すだろう。

では、どれ程の補助金を返したのか。驚くほど少ない。その額はNHO25億円、JCHO29億円、NCGM2億円、JOHAS41億円と総額97億円。パンデミックの間に増額された補助金総額の1.7%にすぎない。「返納したふりをしただけ」だ。コロナ対策に使われなかった金はどうなったのか。財務諸表に示された22年度の現預金.有価証券の額は、19年度と比較してNHO 1325億円、JCHO982億円、NCGM93億円、JOHAS1531億円も増えている。この間に増額された補助金総額の、それぞれ42%、74%、74%、121%に相当する。補助金の過半を貯め込み、返納しなかった結果、経営状態は改善した。その筆頭がNHOだ。19年に29.1%だった自己資本比率が、22年度には36.9%と7.8ポイントも増加した。

注目すべきはパンデミックの最中、こうした組織で刑事事件が続発したことだ。22年5月にはNHOの事務職員、同年6月にはNCGMの事務職員が収賄罪の容疑で逮捕された。他にもNHO本部の事務職員が185万円を着服(懲戒解雇)。NHOの病院職員も患者からの預かり金を不適切に処理し停職処分。こうした公的病院を仕切るのは厚労官僚だ。彼らは現役出向や天下りの形で、本省と公的組織を異動しながら出世する。運営は一体化しており、腐敗の根深さは、厚労省の体質そのものではないか。かかる問題はNHOやJCHOに限ったことなのか。調査チームは日本赤十字社などについても調べてみた。

私立大学病院とは比較にならない

東京都立病院機構の安藤立美理事長

 

まずは患者の受け入れ状況はNHOやJCHOと大差がない。22年夏の流行のピーク時での確保病床に占める患者受け入れ率は、日赤66%、済生会73%、都立病院機構36%、大阪府立病院機構63%だ。都立病院機構は、後述する大学病院を含めてもっとも低い。一方、コロナパンデミックの3年間に支払われた補助金は、日赤4127億円、済生会420億円、東京都立病院機構1829億円、大阪府立病院機構293億円で、19年度を基準とした場合、それぞれ3410、274、1008、288億円の増額だ。この間、現預金.有価証券は、それぞれ1317億円、820億円、659億円、146億円も増加している。これは増額された補助金の39%、299%、65%、51%に相当する。結果、この間に日赤は自己資本比率が19ポイント増加。同様に済生会は7.3、東京都立病院機構は4.1、大阪府立病院機構は1.1ポイント増えた。全ての組織の経営が改善していた。

東京都立病院機構、大阪府立病院機構はもちろん、日赤や済生会を仕切るのも役人だ。日赤は日本赤十字社法に基づく認可法人、済生会は明治天皇の済生勅語に基づき設立された恩賜財団で、いずれも複数の天下りを受け入れ、事務次官経験者らが名を連ねる。パンデミック下にNHOやJCHOと同じく、優先的に補助金が措置された。ところが、全く批判を浴びることなく、過剰に受け取った補助金を返納した形跡もない。坊主丸儲けである。

医療難民が続出した際、非難が集中したのはむしろ民間病院だった。菅義偉首相(当時)が「民間病院に一定(病床)数を出して欲しいと働きかけをずっと行ってきた」と発言するなど、消極的対応を批判していた。22年9月には、特定機能病院や地域医療支援病院に病床確保を義務付け、従わなければ診療報酬加算の根拠となる承認を取り消す罰則まで設けた。多くのマスコミは、当然と言わんばかりに報じたが、的を射た論調だったのか。

入院難民が続出した首都圏、関西圏で、コロナ患者の受け入れを担った民間病院といえば大学病院である。我々は第7波ピーク時の首都圏、関西圏の20の私立大学病院の対応を調べた。改めて表をご覧いただきたい。状況は様々だが、確保病床数当たりの受け入れ率は日本大学102%、帝京大学91%、慶應義塾大学88%、日本医科大学85%と高い大学もあれば、埼玉医科大学39%、兵庫医科大学39%、近畿大学41%、関西医科大学50%、国際医療福祉大学50%など、低いところもある。補助金額も様々だ。19年を基準に20~22年に増額された補助金の総額を調べたところ、多い順に順天堂大学273億円、東海大学258億円、慈恵医科大学255億円、東京医科大学253億円、東京女子医科大学249億円となる。一方、少ないのは日本大学53億円、大阪医科薬科大学66億円、杏林大学70億円、兵庫医科大学87億円、慶應義塾大学100億円。最大の順天堂大学と最少の日本大学では5.2倍の開きがあった。とはいえ、私立大学とNHOやJCHOなどは病院規模が異なり、補助金額を単純に比較しても意味がない。

チェック機能が働かない日本社会

我々が注目したのはコロナ流行前との対比だ。19年の補助金額を1とした場合、20~22年の3年間に20の私立大学は平均9.3倍の補助金を受け取っていた。NHOやJCHOは桁が違う。それぞれ72.5倍、104.8倍だ。日赤などの特殊法人、公立病院が受け取った補助金も私立大学より多い。同じ患者の入院を断るにしても、国公立の組織と私立大学とは「罪」の重さが全く異なる。厚労省関連組織や公立病院を中心とした、我が国の感染症対策は機能しなかったのに、莫大な血税を呑み込み、潤ったと言わざるを得ない。

我々は昨年10月、分析の一部をスイスの『公衆衛生フロンティア』誌に発表した。筆頭著者は京都大学医学部6年生で、医療ガバナンス研究所でインターンを続ける斉藤良佳さんだ。欧州の公衆衛生専門誌の編集部は、パンデミック下の日本の税金の使途に興味を抱いたようだ。少子高齢化が進み、経済が減速する先進国で、どのような現象が起こるか、読者に伝える必要があると考えたのだろう。残念なことに日本国内でコロナ関連の税金の使途について定量的な分析に基づく議論が行われたことは皆無に近い。途方もない血税が投じられたというのに――。今回、調査対象とした施設に限っても19年と比較して、20~22年の間に1兆4362億円の補助金が増額されたが、国庫返納されたのは97億円に過ぎない。かかるネコババを見逃していいのだろうか。

日本が発展するには税金の有効活用が不可欠だ。そのためには市民、議会、メディアがチェック機能を働かせ、議論の叩き台となるデータを提示する必要がある。本来、その役割を果たすべきジャーナリズムとアカデミズムの双方が、我が国では機能しているとは言い難い。微力ではあるが、未来を背負う若手を募り、我々も頑張りたいと思う。

 

(7) 藤原直哉 on X: "スクープ! 途方もない「血税」で潤った病院リスト 莫大な補助金を貯め込んだNHO、JCHO、NCGM、日赤、済生会、都立病院機構らは直ちに国庫返納すべき。 https://t.co/M6PuXeAidI" / X (twitter.com)