トランプに「性的暴行巡る名誉毀損」で123億円賠償命令の愚…アメリカの司法はいつまで「魔女狩り」を続けるのか

 

あまりにも異常な裁判

先月26日、トランプ前大統領に対して123億円の賠償を命じる評決がニューヨークの連邦地裁の陪審によって出されたと、大々的に報じられた。

トランプ前大統領から性的暴行を受けたにもかかわらず、トランプ氏にうそつきよばわりされ、名誉を毀損されたとして、婦人雑誌「ELLE」などで活躍した元コラムニストのE・ジーン・キャロルという女性が損害賠償を求め、その訴えをニューヨークの連邦地裁が認めたのである。

トランプに「性的暴行巡る名誉毀損」で123億円賠償命令の愚…アメリカの司法はいつまで「魔女狩り」を続けるのか

トランプに「性的暴行巡る名誉毀損」で123億円賠償命令の愚…アメリカの司法はいつまで「魔女狩り」を続けるのか© 現代ビジネス

こうした報道に接すれば、裁判所でこういう評決が出るくらいだからトランプの性的暴行にはそれなりの根拠があるのだろう、と感じてしまうのが普通ではないかと思う。

しかしながら、私は、今回の評決を下したことは、アメリカの司法制度にとって恥であり、将来的にアメリカの政治が正常化した後には、「こんなひどい裁判を行った時代もあった」ということが語り草になるのではないかと思っている。はっきり言うが、陪審員も裁判官もあまりにも異常なのだ。

そもそも、キャロル氏の弁護士ロベルタ・カプランと、裁判を取り仕切った裁判官ルイス・カプランが、1990年代に同じ弁護士事務所で働いていた同僚であり、しかもロベルタはルイスをメンターとして慕っていたということが、裁判終結後に判明した。

 

これは利益相反が疑われるものだと言わざるをえない。この体制で裁判を行うなら、少なくとも裁判が開かれる前段階でこうした関係が公表され、被告であるトランプ側の同意を取り付けておくべき事例だったはずだ。だが、もちろん、そんなことは全く行われなかった。

ちなみにキャロル氏は、トランプだけから性的暴行を受けたと訴えているわけではない。自分の子供のベビーシッターをしていた女性の彼氏、歯科医、キャンプカウンセラー、彼女の元上司、大学時代に付き合っていた男、CBSの最高経営責任者レス・ムーンベスなどにも、性的暴行を加えられたと主張している。

彼女の人生は、絶えず男たちによって凌辱され続けてきたということなのだろうか。

未だよくわからないことだらけ

この手の裁判では、事件が起こったのはいつなのかということが、極めて重要である。正確に、何年の何月何日何曜日の何時頃というところまで行くと、詳細にはわからないということはあり得るとは思うが、これが全くいい加減ということになると、無闇に信用してはならないのは言うまでもないだろう。

 

トランプに「性的暴行巡る名誉毀損」で123億円賠償命令の愚…アメリカの司法はいつまで「魔女狩り」を続けるのか

トランプに「性的暴行巡る名誉毀損」で123億円賠償命令の愚…アメリカの司法はいつまで「魔女狩り」を続けるのか© 現代ビジネス

キャロル氏は当初、事件が起こったのは1994年のことで、事件当日はダナ・キャランのブレーザードレスを着ていたと話していたのだが、その時点ではまだ彼女が主張するドレスが発売されていないことが発覚した。それで、1995年じゃないか、いや1996年だったかもしれない、などと言い出し、結局いつのことだかわからない。

年が曖昧なだけでなく、実は季節も同様で、秋だと言ったり、2月と言ったり、とにかくめちゃくちゃなのだ。

彼女は、このドレスを事件以降身につけていないし洗ってもいないと語っている。だったら、そのドレスをDNA鑑定すればいいはずなのだが、DNA鑑定を要請することを彼女はなぜか拒否したという。

 

トランプ前大統領に賠償命令123億円 女性への性的暴行めぐり“名誉毀損”

ちなみに彼女は、「アプレンティス」というトランプの番組の大ファンだったことがわかっている。これは2004年から2012年までNBCで放送された人気番組である。つまり、彼女が性的暴行を受けたと主張している時期よりも明確に後の話になる。自分に性的暴行を加えた許せない男の番組が大好きだというのがどういうことなのか、私には理解できない。

はっきり言うが、彼女の感性はもともと普通ではないと言わざるをえない。彼女はセクシャルな問題に関してオープンなタイプで、自分の飼い猫に、女性器を表す名前(Vagina)を付けている。SNSには「愛犬から私が学んだセックスのヒント:男が疲れて倒れるまで男を追いかけよう。そして男に飛びかかれ」という書き込みまでしている。

「性的関係に進まないうちに、その性的関係が望まないものだってどうしてわかるの?」なんて書き込みもしているし、「レイプをセクシーだと多くの人は思っている」などという発言をテレビ番組でしたこともある。つまり、もともと、かなりぶっ飛んだ人なのだ。

事件を目撃した証人は一人もいない

ところで、彼女がトランプから性的暴行を受けたのは、バーグドルフ・グッドマンというニューヨークにある高級デパートの試着室だということになっている。だが、多くの人で賑わうデパート内でそのような事件が発生すれば、目撃証言をしてくれる人がいるのが当然ではないだろうか。

しかも彼女はトランプに襲われた時、強姦されないように戦い、トランプを押しのけて足を踏みつけようとしたが、トランプが彼女を貫通してきて、そこから彼女は逃げ出したということになっている。恐怖で固まってされるがままになっていたというのならまだありうるのかもしれないが、しっかりと抵抗してみせたと語っているのである。

トランプに「性的暴行巡る名誉毀損」で123億円賠償命令の愚…アメリカの司法はいつまで「魔女狩り」を続けるのか

トランプに「性的暴行巡る名誉毀損」で123億円賠償命令の愚…アメリカの司法はいつまで「魔女狩り」を続けるのか© 現代ビジネス

そんな状況であれば当然、大声のひとつも出すだろう。ところが、不思議なことに、この事件を目撃した証人は一人もいないのだ。ちなみに、彼女が語った更衣室の描写は、バーグドルフ・グッドマンの更衣室の実際とも違っているということが指摘されている。

ちなみに彼女は「ELLE」の1993年11月号に、女性が性交渉で絶頂を迎えるのには、女性上位がいいという例えとして、「女性上位はバーグドルフの4階よりも女性に気持ちよさをもたらす」みたいなことを書いている。この例えは私には全く意味不明なのだが、バーグドルフ・グッドマンの4階に、女性用のマッサージコーナーでもあるのだろうか。彼女にはエロチックなこととバーグドルフ・グッドマンを、なぜか結びつけて考える性癖があるのではないかと疑ってしまう。

 

さらには、彼女が語る事件の様子が、1990年から放送されている超人気刑事・法廷ドラマ「ロー&オーダー」の一つのエピーソードに非常によく似ていることも指摘されている。このドラマには、バーグドルフ・グッドマンの試着室で女性がランジェリーを身に着けようとしている時に、自分がその試着室の中に入ってレイプ事件を起こすという妄想を、ある人物が語るというシーンが出てくるのだ。

キャロル氏の主張は、トランプといっしょにバーグドルフ・グッドマンのランジェリー売り場の試着室に向かった時に、トランプから暴行を受けたというものなので、ドンピシャに重なっている。彼女自身、番組のプロットと彼女の身に起きたことの類似については、“amazing”と言っているくらいそっくりなのだ。これは果たして偶然の一致なのだろうか。

彼女はこのエピソードが「ロー&オーダー」にあることは知っていたが、そのエピソードは見ていないと主張している。だが、この証言をどこまで信用できるだろうか。

30年前のことをなぜこのタイミングで?

以上、見てきたように、彼女は性に関してあけすけに語り、時に変態的な性癖を奨励することもあるようなタイプであるのに、トランプに襲われたことについては、2019年に「What Do We Need Men For?」(私たちはなんのために男を必要とするのか)という題名の書籍を出版するまで、世間に公表したことはなかった。

この本の出版のタイミングで初めて、当時大統領だったトランプに性的暴行を受けたという話を持ち出したので、彼女の本はバカ売れしたのだ。こうした状況からすると、本を売るために作り出した話だったのではないか、という疑惑も生じかねない。

トランプに「性的暴行巡る名誉毀損」で123億円賠償命令の愚…アメリカの司法はいつまで「魔女狩り」を続けるのか

トランプに「性的暴行巡る名誉毀損」で123億円賠償命令の愚…アメリカの司法はいつまで「魔女狩り」を続けるのか© 現代ビジネス

また、事件が起こったとされているのが1994年であれ、1995年であれ、1996年であれ、今から30年近く前のことだから、仮に事件が実際にあったとしても時効であり、大きな問題にはならないと考えるのが普通だろう。

ところがこれに対する例外を規定する「アダルト・サバイバーズ・アクト」(成人生存者法)というものが、2022年の5月にニューヨーク州では成立しているのだ。そしてこの法律の成立過程がまた実に不可解なのである。

ニューヨーク州は、2019年以前は、性的被害に関する時効を3年としていたが、2019年にこれを20年にまで引き伸ばした。ただし、この法改正が成立した段階では、すでに時効になったものには遡及しないという条件がついていた。

しかし、それでは過去の性被害についての救済ができないという声が上がり、これを補完するものとして、2022年になってこの「アダルト・サバイバーズ・アクト」(成人生存者法)が成立した。その結果、2022年の11月24日から2023年の11月24日までの一年間に限り、すでに時効とされた期間に起こった性犯罪についても訴えることができるとされた。

そして、この新しい法律制定に至る一連の流れが、トランプを狙い撃ちしたものではないかとの疑惑が浮上するのだ。

というのは、E・ジーン・キャロル氏が2019年に書籍を出版して、トランプに性的暴行を受けたことがあると言い出した時から、熱狂的な反トランプ派の人たちが彼女を巻き込んで様々な動きを見せているからだ。

反トランプ派の怪しい動き

例えば、ジョージ・コンウェイという反トランプの人物が彼女に接近し、トランプ相手に名誉毀損の裁判を起こそうと、働きかけている。

トランプは自分は彼女と会ったこともないし、そもそも自分のタイプでもない、彼女は嘘を言っていると語ったのだが、これを名誉毀損で訴えたらどうかとコンウェイは促したのだ。裁判費用は民主党の熱烈な支援者であるリード・ホフマンが提供することになった。

そしてキャロル氏はCNNの番組で興味深いことを語っている。彼女がこの法案成立に協力し、この法改正を利用して彼女の弁護士のロベルタ・カプランが訴訟を行ったというのだ。

そうすると、たまたまニューヨーク州で法整備が行われたので、キャロル氏がこの機会を利用してトランプを訴えることができるようになったというのではなく、キャロル氏がトランプを訴えることができるように、反トランプ派が積極的に動いて法整備が進んだ、との疑いがかなり濃厚になってくるのである。

トランプに「性的暴行巡る名誉毀損」で123億円賠償命令の愚…アメリカの司法はいつまで「魔女狩り」を続けるのか

トランプに「性的暴行巡る名誉毀損」で123億円賠償命令の愚…アメリカの司法はいつまで「魔女狩り」を続けるのか© 現代ビジネス

さて、「反トランプこそ正義」と思っている熱烈な民主党支持者たちは、今回の事態に大喝采しているわけだが、一連の反トランプの動きが「魔女狩り」のようなものだと気づいているトランプ派は、ますますトランプ支持を固めることになるだろう。

アメリカはトランプ派と反トランプ派に分断されているとよく指摘される。そしてそれは完全に正しいのだが、それが何によって引き起こされているのかを、この裁判は如実に語っている。

自由・民主主義・基本的人権の尊重・法の支配を揺るがしているのは、トランプの側なのか、反トランプの側なのか、よくよく考えてもらいたい。世の中で一般に流布されている見方が狂っていることに気がつかないと、真実が見えてくることはないだろう。