「無縁遺体」福島では10年間で10倍増、突然消え身元分かるもの一切捨てる「縁切り死」も目立つ

 

 

(写真:読売新聞)

(写真:読売新聞)© 読売新聞

 死後に引き取り手のいない「無縁遺体」について、福島県内の自治体の取り扱い件数が2022年度に計223件となり、10年間で約10倍に増えたことがわかった。親族などがいても、遺体の引き取り拒否で自治体が火葬を代行するケースも増え、対応する職員の負担や公金支出の増加につながっている。(薬袋大輝)

 無縁遺体は、行き倒れなど身元不明で亡くなった人のほか、単身者・生活保護受給者で引き取り手がいないといったケースがあり、各自治体は「墓地埋葬法」などに基づいて火葬を実施。単身者・生活保護受給者などで親族がいても、疎遠であることなどを理由に遺体の引き取りを拒否された場合、代わりに火葬を行う。

 

 読売新聞は、県内の全59市町村を対象に12~22年度の無縁遺体の取り扱い件数や、火葬代行の件数などをアンケートで調査した。記録がなく、件数を把握できない年度がある自治体もあったが、12年度に22件だった無縁遺体の取り扱い件数は、年度ごとに増加。22年度は223件で、内訳はいわき市が84人と最も多く、郡山市が69人、会津若松市が10人と続いた。自治体による火葬の代行件数も、12年度の44件から22年度は約6倍の250件となっている。

 無縁遺体や火葬代行の増加により、自治体の負担は増加している。アンケートでは「葬祭手配や親族とのやりとりなど、急な対応が必要で時間と労力の負担が大きい」(いわき市、西会津町)、「戸籍調査や親族調査が長期間になる」(福島市、相馬市)、「身内が対応を断ったので行政が介入したところ、後になって別の身内から苦情が入った」(いわき市)などの回答が寄せられた。

 火葬後の遺骨は一定期間保管後、引き取り手がいなければ無縁墓に埋葬される。保管場所は、自治体の公営墓地や地域の寺院になるが、「遺骨の保管場所の確保」(伊達市、矢吹町)を課題とする自治体もある。また、遺骨の保管期間や方法などについては各自治体に任されており、「統一のルールをつくり、対応マニュアルを策定する必要がある」(田村市)との声も上がった。

 火葬などにかかる葬祭費については、死者の預貯金などの遺留金を充当できるが、それがなかったり、親族らが負担できなかったりする場合は、各自治体が肩代わりする。費用負担は年々増えており、白河市では22年度に初めて葬祭費を予算に計上し、23年度は約2・5倍に増やした。川俣町は24年度から予算計上を検討するという。

 元いわき市職員で、無縁遺体の対応に携わった経験がある東日本国際大(いわき市)の今野久寿教授(福祉行財政)は、無縁遺体の増加について「コロナ禍などによる収入苦で自殺者が増えている。家族や知人の前から突然いなくなり、身元の分かるものを一切捨てて命を絶つ『縁切り死』も目立つ」と説明。「社会の変化により、今後も無縁遺体は増えることが想定される。市町村任せにせず、国や県も交えて対策を議論していく必要がある」としている。

 

■6万柱の遺骨 自治体が管理…総務省全国調査

 総務省が昨年3月に公表した調査の結果によると、2018年4月から21年10月までの間、引き取り手のない無縁遺体は全国で計約10万6000人に上った。遺体を火葬後、自治体が管理・保管している「無縁遺骨」は、21年10月時点で約6万柱となっている。

 ただ、この調査では、都道府県別や年度ごとの増加幅などは公表しておらず、地方の実態などは正確に把握できていない。

 今野教授は「無縁遺体の増加は、家族や地域の支え合い機能、福祉、医療などの社会制度が脆弱(ぜいじゃく)化していることの表れ。社会全体で関心を持つべきだ」としている。