米株を待ち受ける逆風、最高値更新でも

 

米株を待ち受ける逆風、最高値更新でも

米株を待ち受ける逆風、最高値更新でも© The Wall Street Journal 提供

米金融界は2024年を迎えるに当たり、今年は申し分のない年になると予想していたが、株式・債券市場が年初から荒い値動きとなったように、事はそう簡単には運ばないだろう。

インフレの減速を受けて投資家が最大6回の利下げを織り込んだこともあり、株価は最高値を更新した。金利が低下すると株価は上昇することが多い。債券の魅力が相対的に薄れる上、企業や消費者の借り入れが容易になり企業利益の押し上げに貢献するからだ。

しかし、S&P500種指数が19日に終値ベースで過去最高値を更新したとはいえ、ここ数週間は主要株価指数の上昇が停滞している。例えば、S&P500種指数は1カ月前の水準からの上昇率が2%未満にとどまる。労働市場と経済に減速の兆しがほとんど見られないにもかかわらずだ。債券利回りは2023年末に急低下(価格は急上昇)したが、新年に入ってからは小幅に上昇している。

 

こうした動きを受けて、アナリストや資産運用担当者からは一段の株高は難しいとの声も上がる。相場上昇の原動力として広く期待されている利下げが、強気の投資家が想定していた時期よりも遅くなる可能性があるためだ。

米ヘッジファンド、アイオニック・キャピタル・マネジメントのポートフォリオマネジャーを務めるダグ・フィンチャー氏は「インフレは沈静化し、米経済はソフトランディング(軟着陸)に向かうという展開が、コンセンサス(共通認識)になっているのは明らかだ」と話す。「確かにそうなる可能性はあるが、その多くは織り込み済みだ」

S&P500種指数は年初来で1.5%上昇しているが、詳しく見るとより不安な兆候があることにアナリストは気づいている。

投資家は今年に入り、昨年10-12月期の株高局面で大幅高となった銀行株・中小企業株・不動産株から資金を引き揚げている。当時の株高は、米連邦準備制度理事会(FRB)が11月に利下げ姿勢に転じたとの観測が強まったことがきっかけだった。一方、債券利回りが上昇したのは、FRBが3月に利下げを開始するとの見方がトレーダーの間で後退しているためだ。

シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の「フェドウォッチ・ツール」によると、FRBが3月の会合で政策金利を据え置く確率は50%を超えている。トレーダーらは年初に、12月時点の政策金利が3.85%程度になると予想していた。フェデラルファンド金利(FF金利)先物によれば、現在はこれが4.1%近辺となっている。

このような動きの背景には、米経済の持続的な強さがインフレ率を押し上げる可能性がデータで示されたことがある。資金調達コストの指標となる米国債利回りは先週、FRBのクリストファー・ウォラー理事が利下げを急ぐべきではないと述べたことで急上昇した。さらに、小売売上高、住宅着工件数、新規失業保険申請件数がいずれもエコノミスト予想より良い数字となり、利回りは上昇を続けた。10年債利回りは先週末、4.145%で取引を終えた。年初の水準は3.860%だった。

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消費者物価指数(CPI)に連動するスワップ契約に基づくと、トレーダーは現在、今後5年間の平均インフレ率が2.4%を上回ると予想している。これは昨年11月以来の高さだ。

小型株で構成されるラッセル2000指数は昨年11~12月に22%上昇したが、1月は4.1%下落している。投機株は大幅安だ。新興電気自動車(EV)メーカーのリビアン・オートモーティブと暗号資産(仮想通貨)交換業大手コインベース・グローバルは、FRBの方針転換を受けた株高局面で上昇した後、25%余り下げている。KBW地銀株指数は昨年11~12月に31%上昇したが、1月は下落率が3%を超える。同じく11~12月に急上昇した不動産株と公益株は、さらに下落している。

ブルームバーグ・バークレイズ米国総合債券指数は昨年11~12月に急上昇したが、1月は1.4%安だ。

米資産運用会社クアドラティック・キャピタル・マネジメントの創設者であるナンシー・デービス氏は「人々は利下げを織り込み、ハイテク株や債券のようなデュレーション(投資回収期間)が長い資産を前倒しで購入した」と言う。「FRBの利下げ規模が想定を下回ったり、利下げ時期が想定よりも遅かったりすれば、そうした向きは苦境に陥る」

米アトランタ地区連銀の経済予測モデル「GDPナウ」によると、昨年10-12月期の実質GDP成長率は2.4%となったもようだ。これは歴史的に見て、トレーダーらが今年を迎えるに当たって想定していた「計1.5ポイントの利下げ」が必要という状況には程遠い。

FRBが利上げを開始する前と比べると、高格付け社債のスプレッド(米国債との利回り差)は縮小しており、現在は約1ポイントとなっている。ジャンク(投資不適格級)債のスプレッドも狭く、企業のデフォルト(債務不履行)がほとんど懸念されていないことがうかがえる。レバレッジドローン(低格付け企業向け融資)に対する需要が強く、企業は資金調達コストを抑えられている。

好調な経済による株価の押し上げはまだ続くはずだと考えている投資家もいる。

 

米ヘッジファンド、ポイント72のエコノミスト兼ストラテジストを務めるソフィア・ドロッソス氏は、堅調な個人消費とFRBの予防措置によって景気後退が回避され、企業利益が押し上げられると予想している。米経済が底堅いということは「リスク資産に恩恵が及ぶということだ」と話す。

誰もが楽観的というわけではない。親イラン武装組織フーシ派による紅海での攻撃やパナマ運河の干ばつによる海運貿易の混乱など、新たなインフレ圧力の発生を懸念する向きもある。

テクニカルな要因も相場の上昇を抑える可能性がある。金利取引は多くの場合、何らかの危機や景気後退に陥り、利下げが急きょ必要になるリスクから、投資家のポートフォリオを守るためのものであることが多い。深刻な景気後退に陥らなければ、投資家はこうしたヘッジを外し、市場金利を押し上げるかもしれない。そうなれば、経済見通しに根本的な変化がなくても金融環境が引き締まり、株価に打撃を与えかねない。

しかし、米経済の強さを考えれば、投資家が数週間前に期待していたほど積極的な利下げが行われるとは考えにくいとの声は多い。そうなれば、株高を支える大きな柱の一つが揺らぐ。

「不測の事態が起きない限り、これだけの回数の利下げはないと考えられるのではないか」とアイオニックのフィンチャー氏は述べた。