日銀会合注目点:マイナス金利の解除時期、展望リポートと総裁会見

伊藤純夫

  • 金融政策は現状維持の見方、物価目標実現へ総裁の「確度」高まるか

  • 24年度物価・23年度成長率見通し下げへ、貸出増加支援の延長も議論

日本銀行が23日に結果を発表する金融政策決定会合では、市場に年前半のマイナス金利解除観測が広がる中、新たな経済・物価見通しや植田和男総裁の記者会見から2%物価目標実現への確度の高まりや正常化のタイミングが示唆されるかが焦点となる。

  金融政策運営については、ブルームバーグが10-15日に実施したエコノミスト調査で全員が現状維持と回答した。一方で最多の59%が4月会合でのマイナス金利解除を予想。7月会合までの解除予想は85%に達しており、市場は年前半をヤマ場と位置付けている。

  SOMPOインスティチュート・プラスの小池理人主任研究員は、元日に発生した能登半島地震を受けて「1月に金融政策の正常化に動く可能性は大きく後退した」としている。今回の会合では「政策修正に向けたヒントがどの程度出されるかが注目される」という。

 

  日銀は、マイナス金利解除やイールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の枠組みを撤廃するための条件として、2%物価目標の持続的・安定的な実現が見通せることを挙げている。植田総裁はその確度が十分に高まれば政策変更を検討する考えを先月示しており、新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)の表現や総裁発言の変化を市場は注視している。

  UBS証券の足立正道チーフエコノミストは、「展望リポートにおけるインフレ基調判断を引き上げることで、政策正常化が近づいていることをより明確に示す可能性はある」と指摘。日銀は皆が納得する形で4月に正常化に踏み出すことを狙っているとし、「そのためのコミュニケーションはこれから強化されていく」とみている。

ブルームバーグ・エコノミクスの見方

「植田総裁のコミュニケーションは、3月から結果が出始める春季労使交渉を通じて明確な賃上げが実現し、それが2%目標実現に向けて物価を十分に押し上げると判断するまで、日銀は政策修正に動かないことを示唆している」

木村太郎シニアエコノミスト

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  高水準の企業収益や人手不足を背景に、大企業を中心に積極的な賃上げ表明が相次いでおり、日銀は焦点となる今年の賃上げにはおおむね楽観的だ。中小企業の動向や賃金から物価への波及に不確実性があるため、さらなる材料待ちの状況だが、物価目標実現に向けた確度は一段と高まっているとの評価が示される可能性が大きい。

  一方、政策正常化に伴う各種の金融政策手段の取り扱いへの関心も高まっている。野村証券の松沢中チーフストラテジストは、マイナス金利解除と同時にマネタリーベースの拡大方針継続を明記したオーバーシュート型コミットメントとYCCでゼロ%程度としている長期金利の誘導目標を撤廃する一方、1.0%をめどとしている長期金利の「許容上限は当面残す」と予想する。

コアコアに大きな変化なし

  展望リポートの最新の経済・物価見通しは、原油価格下落を主因に2024年度の消費者物価(生鮮食品を除くコアCPI)が昨年10月の2.8%から2.5%前後に下方修正となる公算が大きい。25年度コアCPIやエネルギーも除いたコアコアCPIには大きな変化はなさそうだ。経済成長率見通しは23年度の下方修正が見込まれている。

  総務省が19日発表した12月の全国コアCPIは前年比2.3%上昇と22年6月(2.2%上昇)以来の低い伸びとなった。政府の物価高対策に伴うエネルギーの下落幅拡大に加え、生鮮食品を除く食料の上昇率が4カ月連続で鈍化したことも押し下げ要因となった。

  今回会合では、緩和的な金融環境を維持していく観点から、貸し出し増加を支援するための資金供給制度の期限延長が決まる可能性がある。同制度は貸出残高を増やした金融機関に対し、低利かつ長期の資金を供給するもので、昨年1月の会合で1年間の延長が決まっていた。

他のポイント

  • 経済・物価動向は前回展望リポートにおおむね沿った動きと日銀は認識。景気は緩やかに回復しているとの判断や基調的な消費者物価が2%目標に向けて徐々に高まるとの見通しは維持される公算が大きい
  • マイナス金利解除後の利上げ水準やペース。エコノミスト調査では、新たな政策金利の水準は大半が「0%程度」か「0-0.1%のレンジ」を予想。ターミナルレート(利上げの最終到達点)は中央値で0.5%と緩やかなペースを見込む
  • 年明けに進行している株高・円安の影響。過去の原材料価格上昇の価格転嫁が落ち着き、足元の消費者物価がプラス幅を縮小している中で、一段の円安は家計や企業のコスト上昇懸念を強める可能性
  • 米利下げのタイミングと日銀政策への影響にも引き続き関心。12月会合後の会見で植田総裁は、米国の利下げ前に「焦って私どもの政策変更をしておく、そのような考え方は不適切だ」と述べた