「中国に媚びを売るか」「自主独立の日本を目指すか」…「トランプ復活」で日本が迎える「正念場」

予想通りの圧勝

米大統領選の共和党候補指名争いで、ドナルド・トランプ前大統領が初戦となるアイオワ州の党員集会で圧勝した。トランプ氏が11月の本選でも勝利し、大統領に復活するという見方も現実味を帯びている。トランプ復活は、日本にどんな影響をもたらすのか。

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トランプ氏はアイオワ州の党員集会で、2位のロン・デサンティス・フロリダ州知事、3位のニッキー・ヘイリー元国連大使にダブルスコア以上の大差をつけて、圧勝した。予想通りの独走である。

11月5日に予定される本選でも、世論調査によれば、現職の民主党、ジョー・バイデン大統領との一騎打ちになった場合、トランプ氏が優勢という結果が相次いでいる。たとえば、1月10~12日のYouGov・CBS調査では、トランプ氏がバイデン氏に2ポイント、同じくモーニング・コンサルト調査でもトランプ氏が1ポイントの差をつけてリードしている。

1月23日に開かれるニューハンプシャー州の予備選でも、アイオワ州同様に圧勝すれば、共和党候補はトランプ氏でほぼ決まりとなりそうだ。そうなると、焦点はバイデン氏に移る。かねて高齢に伴う健康問題が指摘されてきた大統領については、ワシントン・ポストの著名コラムニストが選挙戦からの撤退を促すなど、いまでも撤退論が消えていない。

 

トランプ氏は2020年の大統領選結果を覆そうとした容疑など4つの問題で起訴されているが、世論調査などを見る限り、ほとんど悪影響は出ていない。むしろ、逆に「起訴は民主党の政治的攻撃」と受け止められ、人気に拍車をかけているほどだ。

トランプ氏が復活すれば、何が起きるのか。

まず、政権の実務を担うキャリア官僚の大幅入れ替えは確実だ。AP通信によれば、その数は数万人に及ぶ、とみられている。トランプ氏は、大統領在任中の2020年に発令した「スケジュールF」と呼ばれる大統領令を復活させ、政権に巣食う「ディープステイト(注・ユダヤ人の金融家たちを中心にした、いわゆる闇の勢力)」を一掃する、とみられている。

「アメリカ・ファースト」が復活

共和党は、かねて「連邦政府の武器化」問題を指摘してきた。連邦政府が権限を乱用して強制捜査したり、民間人や民間企業を迫害してきた、という主張である。多数を握る下院では、問題を調査する小委員会も設置した。トランプ氏関連の捜査を続けてきた連邦捜査局(FBI)や司法省など連邦機関のリストラと再編成は必至だ。

外交政策では、「アメリカ・ファースト(米国第一)」路線が復活する。

ウクライナ戦争については、欧州の負担増を求めるのは確実だ。具体的には、米国が軍事支援を続ける場合でも、そのために米国の武器弾薬が枯渇した分の在庫積み増しにかかる費用を欧州に負担させる考えを表明している。

 

欧州では、早くも警戒する声が出ている。

ことし前半、欧州連合(EU)の意思決定機関である欧州理事会の議長国を務めるベルギーのアレクサンダー・デ・クロー首相は欧州議会で「もしも『米国第一』が復活するなら、これまで以上に欧州は自立し、強くならなければならない」と演説した。

ドイツの野党議員も「ウクライナは米国抜きでもロシアと戦えるように、われわれが武器製造を増やす必要がある」と語っている。欧州は「トランプ政権が復活すれば、米国は欧州から手を引いていく」とみているのだ。

ウクライナ戦争だけではない。トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)の全面的見直しにも言及している。トランプ氏は前回政権でも、欧州が安全保障で「米国にただ乗りしている」と不満を漏らしてきた。この認識は変わらず、いよいよ実際に動き出す可能性が高い。

イスラエルとハマスの戦争については、明確にイスラエル支持を打ち出している。背景には、娘のイヴァンカ氏の夫であり、前政権で大統領上級顧問を務めたジャレッド・クシュナー氏がユダヤ人で、彼の両親はホロコーストからの生還者という事情もある。

「私は何も言わない」

中国に関する政策はどうか。

トランプ氏は輸入品に10%の関税をかける考えを表明している。なかでも、ターゲットが中国だ。電子製品や鉄鋼、医薬品など中国からの輸入を4年間でゼロにする一方、中国企業がエネルギーや先端技術、農業など米国の重要産業に参入するのを禁じる。さらに、中国企業が所有する米国の安全保障に関わる株式の強制的売却も検討している。

中国が台湾への武力侵攻を試みた場合はどうか。

トランプ氏は昨年9月、米NBCのインタビューで「中国が台湾に侵攻すれば、米軍を派遣するかどうか」を問われた際「私は何も言わない。答えれば、すべての選択肢を放棄してしまうことになるからだ」と語っている。

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賢明な回答だったが、私は「トランプ政権が米軍派遣を命じる可能性は少ない」とみる。米国内には、専門家の間でも「台湾は米国の死活的国益なのか」という議論がある。ここでも「米国第一」路線を貫くとすれば、まずは台湾に自助努力を求め、次に日本の支援、そして最後に「米国に何ができるか」を慎重に検討するだろう。

ウクライナと欧州の関係のように「もっとも中国の脅威にさらされる日本が、台湾を全力で支援せよ」となるのが自然ではないか。

トランプ氏は2016年、米ニューヨーク・タイムズのインタビューで、日本の核武装に反対しない考えを語っていた。「米国が弱体化を続けるなら、日本や韓国は遅かれ早かれ核武装に向かうだろう。それは時間の問題だ」という立場である。

日本の核武装を容認するくらいなら、NATOと同じく、日米安保体制の見直しを言い出してもおかしくない。これは、日本が憲法改正を真剣に議論する絶好のチャンスになる。日本の歴代自民党政権は、口で改憲を語りながら、実際には実現できなかった。いまの岸田文雄政権は、なおさらそうだ。

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米国が身を引く姿勢をにじませてから、慌てて動き出すのは情けない話だが、動かないよりはマシだ。振り返れば、日本は外圧にさらされ、いよいよ絶体絶命となると、突如として大胆に動き出す国だった。今回も、そんな歴史を繰り返すのだろうか。

トランプ政権の復活で、日本の保守勢力は「中国に媚びを売り続けるのか」、それとも「大胆に自主独立の日本を目指すのか」、いよいよ正念場を迎える。